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妖刀編
淡光
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―――夜。寝る支度をしていると、扉をノックする音がした。
こんな時間に誰だろうと玄関へ向かうと、扉の向こうから知っている気配がする。
僕は扉を開けながら言った。
「こんな時間にどうしたんだ?赤芽」
扉の向こうに立っていた獣人姿の赤芽は、僕の顔を見るとニッコリと笑って
言った。
「ちょっと晴樹と一緒に来て。見せたいものがあるの」
この時間じゃないと見れないのよと赤芽が言うので、僕は布団を敷いていた晴樹を
呼ぶ。
「あれ、赤芽ちゃんだ・・・」
少し眠そうな晴樹に赤芽は遅くにごめんねと言うと、森へ向かって歩き出す。
一体何があるんだと、僕と晴樹は赤芽の後ろを付いて行った。
―――森の中、僕がいつも通らないような場所を赤芽と歩く。暗い道を晴樹の作り
出した光で照らしながら歩いていると、ふと赤芽が立ち止まった。
「晴樹、光消して」
赤芽の言葉に晴樹は首を傾げつつも、光を消す。すると、周りが緑色の淡い光を
放ち始めた。
「綺麗・・・」
「昨日凄く寒かったじゃない?だから、これを見せたくて。こういう日限定の
光景よ」
呟いた晴樹に、赤芽が言う。
「これって、何が発光してるんだ?」
僕が聞くと、赤芽はフフッと笑って言った。
「この森に住む、虫の妖の糞」
「ふ、ん・・・?」
晴樹の困惑する声が聞こえる。赤芽は夜目が利くから晴樹の表情が見えていたの
だろう、赤芽の笑い声が森に響く。
「あっははははは!晴樹すっごい顔!!」
「・・・うるさい」
晴樹のムッとした声が聞こえる。赤芽はごめんごめんと謝り、言った。
「何故かは知らないけど、ここの森に住んでる虫の妖の中にはこういう凄く寒い日の
次の日に沢山糞をする子がいるのよ。私も最初綺麗だなって思って見てたんだけ
ど、光ってるのは妖の糞なんだよって後から他の子に教えてもらってね。二人の
反応が見たくて、連れて来ちゃった」
赤芽が僕達を見て、意地悪な笑みを浮かべた気がした。
「糞って聞かなきゃ凄く綺麗に見えてたんだけどな・・・」
僕が呟くと、聞かれたから答えただけよと赤芽は笑う。聞かなくても後で言う
つもりだっただろと思いつつ、僕は辺りを見渡した。
周りに生えている草の上や、僕達が歩いてきた道。淡い光を発するそれらを見て
いると、どうしても糞というワードが頭をちらつく。
深い溜息を吐くと、赤芽が言った。
「そこまで落胆するとは思ってなかったわ、ごめんなさいね。・・・ただちょっと、
今のうちに見せてあげたくて」
何処となく悲しそうな声に、不安を覚える。
「・・・何かあったのか?」
僕がそう言うと、赤芽は呟くように言った。
「天春から聞いたんだけど、最近九尾の狐の目撃情報が更に増えてるんだって。
妖も人間も結構死んでるみたい。山とか森に住んでる妖や人間がどんどん襲われて
いってるみたいで・・・この辺にも、また来るんじゃないかって」
ごめんね、話すかどうか迷ったんだけど。そう言って赤芽は僕と晴樹の手を取り、
元来た道を歩く。
淡い光に照らされた赤芽の後姿は、とても悲しそうだった。
こんな時間に誰だろうと玄関へ向かうと、扉の向こうから知っている気配がする。
僕は扉を開けながら言った。
「こんな時間にどうしたんだ?赤芽」
扉の向こうに立っていた獣人姿の赤芽は、僕の顔を見るとニッコリと笑って
言った。
「ちょっと晴樹と一緒に来て。見せたいものがあるの」
この時間じゃないと見れないのよと赤芽が言うので、僕は布団を敷いていた晴樹を
呼ぶ。
「あれ、赤芽ちゃんだ・・・」
少し眠そうな晴樹に赤芽は遅くにごめんねと言うと、森へ向かって歩き出す。
一体何があるんだと、僕と晴樹は赤芽の後ろを付いて行った。
―――森の中、僕がいつも通らないような場所を赤芽と歩く。暗い道を晴樹の作り
出した光で照らしながら歩いていると、ふと赤芽が立ち止まった。
「晴樹、光消して」
赤芽の言葉に晴樹は首を傾げつつも、光を消す。すると、周りが緑色の淡い光を
放ち始めた。
「綺麗・・・」
「昨日凄く寒かったじゃない?だから、これを見せたくて。こういう日限定の
光景よ」
呟いた晴樹に、赤芽が言う。
「これって、何が発光してるんだ?」
僕が聞くと、赤芽はフフッと笑って言った。
「この森に住む、虫の妖の糞」
「ふ、ん・・・?」
晴樹の困惑する声が聞こえる。赤芽は夜目が利くから晴樹の表情が見えていたの
だろう、赤芽の笑い声が森に響く。
「あっははははは!晴樹すっごい顔!!」
「・・・うるさい」
晴樹のムッとした声が聞こえる。赤芽はごめんごめんと謝り、言った。
「何故かは知らないけど、ここの森に住んでる虫の妖の中にはこういう凄く寒い日の
次の日に沢山糞をする子がいるのよ。私も最初綺麗だなって思って見てたんだけ
ど、光ってるのは妖の糞なんだよって後から他の子に教えてもらってね。二人の
反応が見たくて、連れて来ちゃった」
赤芽が僕達を見て、意地悪な笑みを浮かべた気がした。
「糞って聞かなきゃ凄く綺麗に見えてたんだけどな・・・」
僕が呟くと、聞かれたから答えただけよと赤芽は笑う。聞かなくても後で言う
つもりだっただろと思いつつ、僕は辺りを見渡した。
周りに生えている草の上や、僕達が歩いてきた道。淡い光を発するそれらを見て
いると、どうしても糞というワードが頭をちらつく。
深い溜息を吐くと、赤芽が言った。
「そこまで落胆するとは思ってなかったわ、ごめんなさいね。・・・ただちょっと、
今のうちに見せてあげたくて」
何処となく悲しそうな声に、不安を覚える。
「・・・何かあったのか?」
僕がそう言うと、赤芽は呟くように言った。
「天春から聞いたんだけど、最近九尾の狐の目撃情報が更に増えてるんだって。
妖も人間も結構死んでるみたい。山とか森に住んでる妖や人間がどんどん襲われて
いってるみたいで・・・この辺にも、また来るんじゃないかって」
ごめんね、話すかどうか迷ったんだけど。そう言って赤芽は僕と晴樹の手を取り、
元来た道を歩く。
淡い光に照らされた赤芽の後姿は、とても悲しそうだった。
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