異能力と妖と

彩茸

文字の大きさ
上 下
153 / 203
妖刀編

淡光

しおりを挟む
―――夜。寝る支度をしていると、扉をノックする音がした。
こんな時間に誰だろうと玄関へ向かうと、扉の向こうから知っている気配がする。
僕は扉を開けながら言った。

「こんな時間にどうしたんだ?赤芽」

 扉の向こうに立っていた獣人姿の赤芽は、僕の顔を見るとニッコリと笑って
 言った。

「ちょっと晴樹と一緒に来て。見せたいものがあるの」

 この時間じゃないと見れないのよと赤芽が言うので、僕は布団を敷いていた晴樹を
 呼ぶ。

「あれ、赤芽ちゃんだ・・・」

 少し眠そうな晴樹に赤芽は遅くにごめんねと言うと、森へ向かって歩き出す。
 一体何があるんだと、僕と晴樹は赤芽の後ろを付いて行った。



―――森の中、僕がいつも通らないような場所を赤芽と歩く。暗い道を晴樹の作り
出した光で照らしながら歩いていると、ふと赤芽が立ち止まった。

「晴樹、光消して」

 赤芽の言葉に晴樹は首を傾げつつも、光を消す。すると、周りが緑色の淡い光を
 放ち始めた。

「綺麗・・・」

「昨日凄く寒かったじゃない?だから、これを見せたくて。こういう日限定の
 光景よ」

 呟いた晴樹に、赤芽が言う。

「これって、何が発光してるんだ?」

 僕が聞くと、赤芽はフフッと笑って言った。

「この森に住む、虫の妖の糞」

「ふ、ん・・・?」

 晴樹の困惑する声が聞こえる。赤芽は夜目が利くから晴樹の表情が見えていたの
 だろう、赤芽の笑い声が森に響く。

「あっははははは!晴樹すっごい顔!!」

「・・・うるさい」

 晴樹のムッとした声が聞こえる。赤芽はごめんごめんと謝り、言った。

「何故かは知らないけど、ここの森に住んでる虫の妖の中にはこういう凄く寒い日の
 次の日に沢山糞をする子がいるのよ。私も最初綺麗だなって思って見てたんだけ
 ど、光ってるのは妖の糞なんだよって後から他の子に教えてもらってね。二人の
 反応が見たくて、連れて来ちゃった」

 赤芽が僕達を見て、意地悪な笑みを浮かべた気がした。

「糞って聞かなきゃ凄く綺麗に見えてたんだけどな・・・」

 僕が呟くと、聞かれたから答えただけよと赤芽は笑う。聞かなくても後で言う
 つもりだっただろと思いつつ、僕は辺りを見渡した。
 周りに生えている草の上や、僕達が歩いてきた道。淡い光を発するそれらを見て
 いると、どうしても糞というワードが頭をちらつく。
 深い溜息を吐くと、赤芽が言った。

「そこまで落胆するとは思ってなかったわ、ごめんなさいね。・・・ただちょっと、
 今のうちに見せてあげたくて」

 何処となく悲しそうな声に、不安を覚える。

「・・・何かあったのか?」

 僕がそう言うと、赤芽は呟くように言った。

「天春から聞いたんだけど、最近九尾の狐の目撃情報が更に増えてるんだって。
 妖も人間も結構死んでるみたい。山とか森に住んでる妖や人間がどんどん襲われて
 いってるみたいで・・・この辺にも、また来るんじゃないかって」

 ごめんね、話すかどうか迷ったんだけど。そう言って赤芽は僕と晴樹の手を取り、
 元来た道を歩く。
 淡い光に照らされた赤芽の後姿は、とても悲しそうだった。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

金眼のサクセサー[完結]

秋雨薫
ファンタジー
魔物の森に住む不死の青年とお城脱走が趣味のお転婆王女さまの出会いから始まる物語。 遥か昔、マカニシア大陸を混沌に陥れた魔獣リィスクレウムはとある英雄によって討伐された。 ――しかし、五百年後。 魔物の森で発見された人間の赤ん坊の右目は魔獣と同じ色だった―― 最悪の魔獣リィスクレウムの右目を持ち、不死の力を持ってしまい、村人から忌み子と呼ばれながら生きる青年リィと、好奇心旺盛のお転婆王女アメルシアことアメリーの出会いから、マカニシア大陸を大きく揺るがす事態が起きるーー!! リィは何故500年前に討伐されたはずのリィスクレウムの瞳を持っているのか。 マカニシア大陸に潜む500年前の秘密が明らかにーー ※流血や残酷なシーンがあります※

ブレイブエイト〜異世界八犬伝伝説〜

蒼月丸
ファンタジー
異世界ハルヴァス。そこは平和なファンタジー世界だったが、新たな魔王であるタマズサが出現した事で大混乱に陥ってしまう。 魔王討伐に赴いた勇者一行も、タマズサによって壊滅してしまい、行方不明一名、死者二名、捕虜二名という結果に。このままだとハルヴァスが滅びるのも時間の問題だ。 それから数日後、地球にある後楽園ホールではプロレス大会が開かれていたが、ここにも魔王軍が攻め込んできて多くの客が殺されてしまう事態が起きた。 当然大会は中止。客の生き残りである東零夜は魔王軍に怒りを顕にし、憧れのレスラーである藍原倫子、彼女のパートナーの有原日和と共に、魔王軍がいるハルヴァスへと向かう事を決断したのだった。 八犬士達の意志を継ぐ選ばれし八人が、魔王タマズサとの戦いに挑む! 地球とハルヴァス、二つの世界を行き来するファンタジー作品、開幕! Nolaノベル、PageMeku、ネオページ、なろうにも連載しています!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

RISING 〜夜明けの唄〜

Takaya
ファンタジー
戦争・紛争の収まらぬ戦乱の世で 平和への夜明けを導く者は誰だ? 其々の正義が織り成す長編ファンタジー。 〜本編あらすじ〜 広く豊かな海に囲まれ、大陸に属さず 島国として永きに渡り歴史を紡いできた 独立国家《プレジア》 此の国が、世界に其の名を馳せる事となった 背景には、世界で只一国のみ、そう此の プレジアのみが執り行った政策がある。 其れは《鎖国政策》 外界との繋がりを遮断し自国を守るべく 百年も昔に制定された国家政策である。 そんな国もかつて繋がりを育んで来た 近隣国《バルモア》との戦争は回避出来ず。 百年の間戦争によって生まれた傷跡は 近年の自国内紛争を呼ぶ事態へと発展。 その紛争の中心となったのは紛れも無く 新しく掲げられた双つの旗と王家守護の 象徴ともされる一つの旗であった。 鎖国政策を打ち破り外界との繋がりを 再度育み、此の国の衰退を止めるべく 立ち上がった《独立師団革命軍》 異国との戦争で生まれた傷跡を活力に 革命軍の考えを異と唱え、自国の文化や 歴史を護ると決めた《護国師団反乱軍》 三百年の歴史を誇るケーニッヒ王家に仕え 毅然と正義を掲げ、自国最高の防衛戦力と 評され此れを迎え討つ《国王直下帝国軍》 乱立した隊旗を起点に止まらぬ紛争。 今プレジアは変革の時を期せずして迎える。 此の歴史の中で起こる大きな戦いは後に 《日の出戦争》と呼ばれるが此の物語は 此のどれにも属さず、己の運命に翻弄され 巻き込まれて行く一人の流浪人の物語ーー。 

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 ***************************** ***毎日更新しています。よろしくお願いいたします。*** ***************************** マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

処理中です...