異能力と妖と

彩茸

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妖刀編

部屋

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―――進級試験も無事に終わり、春休み。僕と晴樹は電車に揺られていた。

「・・・静兄、天春のお見舞い行った方が良いと思う?」

 窓の外を眺めていると、ふと晴樹が言う。

「別に良いだろ。山に生えてたキノコ拾い食いして腹壊した奴の見舞いになんて
 行きたくねえよ」

 僕がそう言うと、確かにと晴樹は笑う。
 雨谷と雪華から父さんと母さんの伝言を聞いた後から、晴樹は僕と二人きりの時は
 事件以前のように笑うようになっていた。
 懐かしい感覚に嬉しくなると同時に、変われていない自分に悲しくなる。
 ・・・僕の心を縛っているものは何なのだろうか。そんなことを考えていると、
 最寄り駅に着いた。

「寒っ・・・」

 バスを待っている間、冷たい風が吹く。思わずそう呟くと、晴樹が鞄からカイロを
 取り出して僕に渡した。

「今日、この辺は真冬並みの寒さって書いてあったよ」

「え、マジで?」

「うん。・・・静兄、天気予報見る癖付けたら?」

「あ、あはは・・・」

 そんな会話をしていると、バスが来る。今日は鍋にしようかな・・・なんて考え
 ながら、僕はバスに乗り込んだ。



―――次の日の朝、僕と晴樹は父さんの部屋の前に居た。父さんの部屋になんて殆ど
入ったことがなく、少し緊張していた。
ドアノブに手を掛け、扉を開ける。事件の日から一度も開けていなかったので、少し
埃っぽかった。

「小妖怪達にここの掃除も頼んどきゃ良かったかな・・・」

 僕はそう言いながら部屋の中に足を踏み入れる。

「・・・一応お墓でお父さんに入るって言ったけど、何か緊張するね」

 晴樹がそう言いながら部屋に入り、部屋を見渡す。父さんの部屋は物が少なく、
 本棚、机、そして小物が入った小さな棚くらいしかなかった。
 僕が本棚を見ると、妖に関する書籍や歴史書などが入っていた。本棚の下の段に
 他の本とは違う雰囲気を醸し出す本が入っており、手に取るとそこには『月陰学園
 卒業記念』と書かれていた。

「晴樹、これ・・・!」

 おそらく卒業アルバムであろう本を晴樹に見せると、晴樹は興味津々な様子で本を
 開く。
 パラパラとページを捲ると、卒業生の顔写真が並ぶ中に父さんの名前を見つけた。
 写真を見ると、明るい笑顔を浮かべる短髪の青年が写っていた。

「顔が静兄そっくり・・・」

 晴樹がそう言って僕の顔を見る。

「そうか?」

「うん、静兄が髪切ったら多分瓜二つ」

 そんなにかと思いつつ、他のページも見る。クラス写真や行事の写真、寄せ書き
 などを見ていると、最後のページにメモが挟まっていることに気付いた。
 メモを見ると何処かの住所が書かれているようで、下に父さんの字で小さく雨谷と
 書いてあった。

「これ・・・工房の住所だよな?」

 僕がそう言って晴樹を見ると、晴樹は多分と頷く。
 試しに携帯で住所を調べてみると、その地域で一番高い山の何処かにあるという
 ことが分かった。

「天狗さんに聞いてみる?」

 晴樹の言葉に頷くと、晴樹は天春に電話を掛ける。
 会話を終え電話を切った晴樹は、僕を見て言った。

「天狗さん出掛けてるらしい。それと・・・天春、今日はまだ動けないって。明日に
 なったら大丈夫かもって言ってた」

「結構危険な毒キノコ食ったんじゃ・・・」

「かもね。妖って人間と比べて色んなものに耐性あるけど、流石に人間が死にかける
 ような毒キノコ食べたら数日はダウンするだろうし」

 色見た時点でヤバいって気付くはずなのに・・・と晴樹は呟くと、携帯をポケット
 に仕舞う。

「そうだ、さっき机の中からお父さんの日記見つけたんだ。静兄も一緒に読む?」

「え、読む」

 父さんの日記には、出会った妖や仕事の愚痴、天狗さんのこと、狗神や雷羅の
 こと、そして僕達家族のことなどが気ままに書き綴られていた。
 僕と晴樹は時間を忘れ、日記を読む。僕の知らなかった父さんを知れたような
 気がして、何だか嬉しかった。
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