異能力と妖と

強化合宿編

再訪

―――次の日の夕方。特訓を終えた僕達は龍の姿になった雷羅の背に乗せてもらい、
狗神家へ向かう。天春も付いて行きたそうな顔をしていたが、天狗さんに止められて
いた。
二年前にも一度来たが、その時よりも何だか空気がピリついていた。
僕達を降ろした雷羅は、人の姿に変化すると扉を叩く。

「やあやあ、お邪魔するよ」

　雷羅がそう言った後、少しして扉が開いた。
　中から顔を覗かせた真悟さんは、僕達を見て驚いた顔をした。

「えっと、ちょっと今立て込んでいるんですが・・・」

　真悟さんがそう言うと、雷羅は知ってる知ってるとニコニコ笑う。雷羅の表情に
　何かを察したのか、真悟さんは諦めたような表情で僕達を中へ入れた。

「わっ、皆何でここに？！」

　部屋からひょっこりと顔を覗かせた誠が、驚いた声を上げる。
　部屋に通された僕達に朱美さんがお茶を出してくれる。どうやら狗神は不在の
　ようで、真悟さんが困った顔をして雷羅に言った。

「雷羅さん、わざと来ましたよね？親父が嫌がるの分かってて」

「まあね。ちょっとした意地悪みたいなものさ」

　ニッコリと笑う雷羅に、真悟さんは溜息を吐く。すると、キョトンとしていた誠が
　言った。

「お父さん、何でお祖父ちゃんが嫌がるの知ってるの？」

「え？そりゃあ・・・60年前にも、同じように来て喧嘩してたから」

　その前は100年くらい前でしたっけ？と真悟さんが聞くと、そうだったかもね～と
　雷羅が笑う。
　二人の時間の感覚がおかしいことに気付いたのか、僕と誠を除く皆が真悟さんと
　雷羅を見て困惑した表情を浮かべる。

「えっと、聞いて良いのか分からないんですけど・・・。誠のお父さんって、お幾つ
　なんですか・・・？」

　和正が聞くと、真悟さんはちゃんと数えてないんだけど・・・と僕達を見る。

「多分、150くらいだと思う」

　部屋がシン・・・と静まり返る。驚いていない僕に気付いたのか、誠が静くんは
　知ってたの？と聞いてきたので、静かに頷いた。

「人間の寿命は短いからね」

　雷羅がそう言ってお茶を飲む。朱美さんは、そうなんですよねと苦笑いを浮かべて
　頷いていた。



―――神事の時間までまだ少しあるらしく、僕達は雑談をする。

「そういえば、うちでは舞とかってやってるの？お母さん」

　ふと誠が聞くと、朱美さんは首を横に振る。

「え、何で？彩音の所はやってるのに」

　誠がそう言うと、真悟さんが彩音を見て聞いた。

「神宮さん、だっけ。君の家も神社なの？」

「はい、夜宮神社っていう・・・」

　彩音が答えると、真悟さんはああ・・・と言った後、苦笑いを浮かべる。

「すまないね、親父がいつも世話になっているだろう。親父、夜宮神社の油揚げが
　お気に入りでさ・・・」

　真悟さんがそう言うと、知ってますと彩音も苦笑する。

「舞、舞かあ・・・。狗神の場合、別に巫女が舞わなくても良いんだよね～」

　雷羅の言葉に僕達は首を傾げる。すると、朱美さんが言った。

「そうですね。狗神様の場合、ご自身で舞われていますから」

「神様が、自分で舞う・・・？」

　彩音が不思議そうな顔をすると、雷羅が言った。

「狗神の小さい頃からの癖でね。信仰する人間も妖も殆どいなかった頃は、ずっと
　一人で舞ってたんだよ。仕事をするには舞があった方が楽なんだけど、昔は舞って
　くれるような信者がいなかったからさ」

　でも舞を見られるのは恥ずかしがるんだよね～と、雷羅は笑った。