異能力と妖と

彩茸

文字の大きさ
上 下
142 / 203
強化合宿編

加減

しおりを挟む
―――初日よりもかなり避けられるようになってはきたが、やはり雷が腕に当たって
しまう。
止まらない雷を避けながら、どうしたものかと考える。

「雷羅、ちょっと聞きたいんですけど」

「何だい?」

「雷って、どうやって僕に当ててます?」

 雷を避けつつそう聞くと、雷羅はうーんと悩む。
 そして、僕の真後ろに雷を落とすと言った。

「位置を特定して、そこから動く場所を想定して落としてるかな」

「位置の特定って、雷羅が特定してるんですか?」

「そうだけど・・・何かする気かい?」

 首を傾げた雷羅に僕は雷を避けつつ頷く。

「ちょっと、能力使わせてください」

 僕はそう言うと、霧を出し雷羅に幻覚を見せる。今雷羅の目には、僕が違う位置に
 居るように見えるだろうが・・・どうなるだろうか。
 雲が光る。念の為移動したが、雷は全く違う所に落ちていた。

「あれ?」

 雷羅が不思議そうに首を傾げる。何度か雷を落とし少し悩む様子を見せた後、
 雷羅はなるほどね~と言って笑った。

「これは幻覚かい?面白い能力だね」

 雷羅はそう言うと、目を閉じる。雲が光ったと思った瞬間、動き出した僕の足に
 雷が落ちた。

「っー・・・!!」

 先程当たった雷よりも鋭い激痛が走る。あまりの痛みに声が出ない。
 再び雲が光る。動かなくなった片足を引き摺るが、そんな状態で雷を避けられる
 はずもなく。
 やばい、死ぬ。そう思った瞬間、何かが僕の目の前を駆け抜けた。
 反射的に目を閉じる。近くから、ドーン!という音がした。

「雷羅あ!!!!」

 狗神の怒号が聞こえる。恐る恐る目を開けると、雷羅がハッとした顔で僕を見て
 いた。

「ご、ごめん!大丈夫かい?!!」

 何が起こったんだと周りを見ると、手に持っていたはずの夜月がかなり離れた所に
 落ちていた。どうやら雷はそこに落ちたようで、地面が黒く焦げている。
 雷羅は慌てて僕に駆け寄ると、足を見てどうしよう・・・と呟く。
 和正も心配そうな顔で駆け寄って来て、僕の足を見て絶句していた。

「手加減しろと言ったじゃろうが!」

 狗神がそう言いながら空から降りてくる。見上げると雷雲は消えており、青い空が
 広がっていた。
 狗神が僕の足に手を当て小さな声で何かを呟く。みるみるうちに治った傷に、
 雷羅がほっと息を吐いた。

「良いか、山霧の。本当に危なくなったらあれを頭より高く放り投げろ。雷は高い
 ところに落ちる、そのうちに逃げるんじゃ」

 狗神がそう言って夜月を指さす。僕がコクコクと頷くと、狗神は小さく息を吐いて
 僕の頭を撫でた。

「・・・休憩にしよう」

 狗神は僕の傷を全て治すとそう言って立ち上がる。

「狼昂、戻れ」

 狗神の言葉に、彩音と戦っていた狼昂が狗神の元へ戻って来る。
 狗神は狼昂を撫でながら彩音に言った。

「小娘、前よりも動きが良くなっておる。あとは、曹灰と藍晶の連携に力を入れると
 良い」

「あ、ありがとうございます・・・」

 凄ぇ・・・と呟く和正に、狗神はニコリと笑う。
 息を整え心配そうな顔で近付いて来た彩音に苦笑いを浮かべると、深い溜息を
 吐かれた。



―――天狗さんが用意してくれていたおむすびを食べながら、僕の足元で丸くなる
狼昂のフワフワを堪能する。
靴を脱いで狼昂の背中に足を乗せると、狼昂の暖かさが伝わってきた。

「あの・・・もう、大丈夫ですから」

 隣で半泣きになっている雷羅に僕は言う。雷羅はごめんと言いながらおむすびを
 頬張った。

「・・・それにしても、何であんなことになったんじゃ?」

 狗神がおむすびを飲み込み聞くと、雷羅が言った。

「この子が、異能力で幻覚を出してね。当たらないからって気配を探るために目を
 閉じたら・・・手加減するの、忘れちゃって」

 狗神が溜息を吐く。怪我の様子を思い出したのか、和正がブルリと体を震わせて
 呟いた。

「やべえ、俺トラウマになりそ・・・」

 僕が苦笑いを浮かべていると、彩音が溜息を吐く。

「ワシが咄嗟に動いたから良いものの、二人だけでやっていたら死人が出ていた
 ぞ・・・」

 勘弁してくれと呟いた狗神に、雷羅はごめんと言って俯く。

「静也も静也よ。ただでさえ危ないことしてるんだから、最悪のケースも考えて
 動きなさいよ」

 彩音にそう言われ、僕はごめんと俯く。
 用意してもらったおむすびを全て食べ終わる頃には雷羅の表情はいつも通りに
 戻っており、掌の上で雷雲を作っては消し、作っては消しを繰り返していた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

主役の聖女は死にました

F.conoe
ファンタジー
聖女と一緒に召喚された私。私は聖女じゃないのに、聖女とされた。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

ここは貴方の国ではありませんよ

水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。 厄介ごとが多いですね。 裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。 ※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

処理中です...