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夏季休暇編
着信
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―――あっという間に時間は過ぎ、僕達は帰りのバスに乗る。
バスが発車する直前、誰かが驚いた声を上げる。声のした方を見ると、鞄の中を
見ていた男子が言った。
「俺の持って来たランプが無い!!」
よく見るとその男子は肝試しの時幽霊が出たと言っていたグループの一人で、
もしかしてと僕は思う。
主催の子がバスを止め、バスに乗っていた人達でキャンプ場の中を探す。
誠や彩音、清水さんなどの現地集合組はもう帰っていたため、広いキャンプ場内を
探すのはかなり骨が折れそうだった。
僕は自分の予想を信じ、和正と晴樹を連れて池へ向かう。
そこで妖の気配を探すと、草むらでスヤスヤと眠る一匹の灰色の毛並みをした狼が
居た。
「あの、すみません」
僕が声を掛けると、狼は目を開ける。そして僕達を見ると驚いて跳び上がった。
「昨日の子だよね?」
晴樹がそう言うと、狼は頷いて少女の姿に変化する。
「び、びっくりしましたぁ・・・。何か御用ですか?」
「昨日、君を見て逃げた人がいただろ?その中にランプ持った奴いなかったか?」
和正が聞くと、ああ!と少女は言って草むらの中に駆けて行った。
少しして、少女はランプを持って戻って来る。
「そうでした!返さないとと思ってすっかり忘れていたんですよ!」
少女はどうぞと僕にランプを渡すと、池を指さして言った。
「そうだ、昨日教えて頂いた水中の手のことなんですけど」
「何かありました?」
僕が首を傾げると、少女の頭に犬耳が生えた。少女は少し慌てながらも頷く。
「さ、さっきですねっ?えっと・・・祓い屋の方が来まして。私を見に来たらしいん
ですけど、ついでに手の話をしたら、どうにかしてくれるらしくて!」
僕達は顔を見合わせる。その時、和正の携帯から着信音が鳴った。
和正は携帯を見て、メールだと呟く。
画面を見ていた和正は、小さく笑って言った。
「あの人、エスパーかよ」
和正が画面を僕達に見せる。そこには照真くんの父親からのメールが映し出されて
おり、丁度話していた池の中の手について書かれていた。
「お知り合いだったんですね!」
少女がそう言って和正を見ると、和正は目を逸らしてボソボソと言った。
「まあ、その・・・・・・義理の父親というか、何というか・・・」
少女は和正の様子を見て一瞬キョトンとした顔をするが、そうなんですか!と
言って笑った。
―――少女に別れを告げ、バスに戻る。男子にランプを返すと、とても感謝された。
バスに揺られて、寮へ戻る。着いた頃にはもう夕方で、僕と晴樹は明日帰省すること
にした。
「和正はどうするんだ?」
僕が聞くと、和正はうーんと悩む。
「・・・俺は、夏休みは寮で過ごそうかな。ちょっと行ってみたい所もあるし」
「行ってみたい所って?」
晴樹が聞くと、和正は言った。
「んー・・・秘密!」
ニッコリと笑う和正に、何だそれと僕と晴樹は首を傾げる。
まだ明るい空。遠くから、ヒグラシの鳴き声がした。
バスが発車する直前、誰かが驚いた声を上げる。声のした方を見ると、鞄の中を
見ていた男子が言った。
「俺の持って来たランプが無い!!」
よく見るとその男子は肝試しの時幽霊が出たと言っていたグループの一人で、
もしかしてと僕は思う。
主催の子がバスを止め、バスに乗っていた人達でキャンプ場の中を探す。
誠や彩音、清水さんなどの現地集合組はもう帰っていたため、広いキャンプ場内を
探すのはかなり骨が折れそうだった。
僕は自分の予想を信じ、和正と晴樹を連れて池へ向かう。
そこで妖の気配を探すと、草むらでスヤスヤと眠る一匹の灰色の毛並みをした狼が
居た。
「あの、すみません」
僕が声を掛けると、狼は目を開ける。そして僕達を見ると驚いて跳び上がった。
「昨日の子だよね?」
晴樹がそう言うと、狼は頷いて少女の姿に変化する。
「び、びっくりしましたぁ・・・。何か御用ですか?」
「昨日、君を見て逃げた人がいただろ?その中にランプ持った奴いなかったか?」
和正が聞くと、ああ!と少女は言って草むらの中に駆けて行った。
少しして、少女はランプを持って戻って来る。
「そうでした!返さないとと思ってすっかり忘れていたんですよ!」
少女はどうぞと僕にランプを渡すと、池を指さして言った。
「そうだ、昨日教えて頂いた水中の手のことなんですけど」
「何かありました?」
僕が首を傾げると、少女の頭に犬耳が生えた。少女は少し慌てながらも頷く。
「さ、さっきですねっ?えっと・・・祓い屋の方が来まして。私を見に来たらしいん
ですけど、ついでに手の話をしたら、どうにかしてくれるらしくて!」
僕達は顔を見合わせる。その時、和正の携帯から着信音が鳴った。
和正は携帯を見て、メールだと呟く。
画面を見ていた和正は、小さく笑って言った。
「あの人、エスパーかよ」
和正が画面を僕達に見せる。そこには照真くんの父親からのメールが映し出されて
おり、丁度話していた池の中の手について書かれていた。
「お知り合いだったんですね!」
少女がそう言って和正を見ると、和正は目を逸らしてボソボソと言った。
「まあ、その・・・・・・義理の父親というか、何というか・・・」
少女は和正の様子を見て一瞬キョトンとした顔をするが、そうなんですか!と
言って笑った。
―――少女に別れを告げ、バスに戻る。男子にランプを返すと、とても感謝された。
バスに揺られて、寮へ戻る。着いた頃にはもう夕方で、僕と晴樹は明日帰省すること
にした。
「和正はどうするんだ?」
僕が聞くと、和正はうーんと悩む。
「・・・俺は、夏休みは寮で過ごそうかな。ちょっと行ってみたい所もあるし」
「行ってみたい所って?」
晴樹が聞くと、和正は言った。
「んー・・・秘密!」
ニッコリと笑う和正に、何だそれと僕と晴樹は首を傾げる。
まだ明るい空。遠くから、ヒグラシの鳴き声がした。
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