異能力と妖と

彩茸

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夏季休暇編

父親

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―――僕達は手を繋いで、来た道を引き返す。
照真くんと会った辺りまで行くと、そこに居たのは男性だった。

「おとーさんだ!」

 照真くんが嬉しそうに駆け出す。男性は僕達を見ると頭を下げて言った。

「妻から話は聞いています。初めまして、照真の父です」

 僕と和正は、どうもと会釈する。すると、男性は和正を見て言った。

「君が、和正くんかい?」

「そうですけど・・・何か」

 警戒するように男性を見る和正に、男性は笑みを浮かべて言った。

「池に落ちた照真を助けてくれたんだって?照真から聞いたよ、本当にありがとう」

「別に、当たり前のことをしただけです。・・・それに、助けたのは俺だけじゃ
 ありませんよ」

 和正はそう言って僕を見る。男性は僕にもお礼を言うと、和正に言った。

「和正くん。・・・うちに、戻って来てくれないかな?」

「嫌です」

 和正が即答すると、男性はそうだよね・・・と悲しそうな顔をする。
 和正は照真くんを見ると、ただ・・・と付け加えて言った。

「照真くんに会いになら、行きます」

 男性は目を見開くと、嬉しそうにありがとうと微笑む。

「そうだ、さっきコーヒーを淹れたんだ。飲んでいくかい?」

 男性の言葉に、僕と和正は顔を見合わせる。すると、照真くんが言った。

「おれも、お礼する!」

 和正は照真くんを見て微笑むと、ミルクありますかと言いながら男性の後に付いて
 歩き出す。
 弟には甘いんだなあと思いながら、僕も後を付いて行った。



―――テントの中に入ると、女性が僕達を見て驚いた顔をしていた。
連れて来ちゃったと笑う男性を見て女性は笑みを浮かべると、いらっしゃいませと
言って僕達に座るよう促す。

「これ、お礼!」

 照真くんがそう言って僕達にキラキラの石を渡してくる。何処に置こうかなんて
 和正と話していると、男性がコーヒーを僕達の前に置きながら言った。

「そういえば、君達は学生さんなのかな?」

 僕と和正が頷くと、男性は何校?と聞いてきた。

「月陰学園って学校なんですけど・・・」

 僕がそう答えると、男性は目を丸くする。何だその反応。
 僕と和正が首を傾げると、男性は興奮気味に言った。

「君達、月陰学園の生徒なの?!俺、そこの卒業生なんだよ!」

 30年くらい前だけどねと笑う男性に、開いた口が塞がらない。

「せ、先輩だったんですね・・・」

 和正がそう言いながらコーヒーを飲んで、あっち!と言っていた。慌てないでねと
 男性は笑うと、女性に聞こえないように小声で言う。

「俺、本職は祓い屋でね。家族には黙ってるけど、地元で幽霊騒ぎがあったって
 聞いてキャンプついでに調査に来てたんだよ」

「・・・あ、それなら解決したので大丈夫ですよ」

 僕がそう言うと、男性は首を傾げる。僕が幽霊の正体が人間と遊びたいだけの
 無害な妖であったことを伝えると、男性は納得したように頷いた。

「なるほど、そうだったんだね」

 そう言った後、男性はでも妖かあ・・・と呟いた。

「害のない妖も退治しようなんて、考えないでくださいね」

 和正がそう言うと、男性は不思議そうに首を傾げる。

「・・・友達が、嫌がるので」

 そう言った和正に男性は少し驚いた顔をすると、懐かしそうな目をして言った。

「そういえばいたなあ、二個上の先輩にもそういう考えの人が」

 男性は懐かしいなあと言って言葉を続けた。

「俺がまだ学生だった頃、歴代最強って言われていた先輩がいてね。卒業した後の
 ことはよく分からないけど、在学中は敵意のない妖とは仲良く!ってスタンスの人
 だったんだよ」

 僕達以外にそんな考えの人がいたのか。そう思いながら、僕は熱いコーヒーを
 啜る。

「もしかしたら先生になってたりして」

 そう言って笑った男性に、和正は聞いた。

「何て名前の人だったんですか?」

 男性は、何て名前だったかな・・・と必死に思い出そうとする。暫く悩んだ後、
 思い出した!と言って僕達を見た。

「そうそう、だよ!」

 コーヒーが変なところに入り、僕は咳き込む。慌てて和正が僕の背中を擦り、
 女性の膝の上に座っていた照真くんは大丈夫ー?と心配そうに聞いた。
 息を整え、男性を見る。男性は心配そうに僕を見ていた。

「あの、それ多分・・・僕の、身内です」

 男性が驚いた声を上げる。その先輩の武器が何だったか聞いてみると、夜月という
 妖刀、そして桜と紅葉という二丁拳銃だと言われた。
 ・・・間違いない、父さんだ。

「何て言うか・・・静也の父親って、色んな所に縁があるな」

 うわあと頭を抱える僕に、和正がそう言って苦笑いを浮かべる。
 たまたま知り合った子の父親と自分の父親が知り合いだと、こんな気持ちになる
 のか。そんなことを考えていると、ふと疑問が浮かんだ。
 僕は男性を見て、小声で聞く。

「・・・あの、照真くんの苗字って日野でしたよね?母方の苗字なんですか?」

 男性はキョトンとした後、ああ!と言って笑みを浮かべる。

「俺、婿入りしたんだよ。仕事柄、俺の苗字にすると色々と不都合でね」

「なるほど、そうだったんですね」

 僕が頷くと、照真くんが何の話してるのー?とやって来る。
 お父さんの話と男性が言って照真くんの頭を撫でると、照真くんは嬉しそうに目を
 細めた。
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