異能力と妖と

彩茸

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梅雨編

妖蛙

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―――皆の視線を浴び、大きな溜息を吐きながら教室を出る。
巻き込むなよ・・・。そう思いながら、B組の教室の扉を開けた。

「・・・あ、静兄も来た」

「お兄さん、見てください!こんな妖初めて見ました!!」

 大混乱の教室を眺めていた晴樹と、キラキラした顔で妖を持っている清水さんが
 僕の元にやって来る。
 清水さんの持っている妖は、5つの目を持った手のひらサイズの緑色の蛙だった。
 蛙は僕を見るとゲコッと鳴く。見た目は気持ち悪いが、どうやら敵意は無い
 らしい。

「何でお前ら兄弟はそんな平然とした顔してられるんだよ!!」

「この妖増えるの!早くどうにかしてえええ!!」

 思った以上に煩い教室に顔を顰める。すると、泣きだしたクラスの女子を慰めて
 いる山野と目が合った。

「・・・早く日野と狗神止めてこいよ、ストッパー」

 山野はそれだけ言うと、僕から視線を外す。
 僕は何も言わず、和正と誠の元へ向かう。和正は跳ね回る蛙が増えていく様子を
 楽しそうに眺めており、誠は両手に蛙を持ってB組の生徒達に駆け寄っていた。
 先生は何もしないのかと思って床に座るB組の担任の先生を見ると、腰を抜かして
 立てないんだってとB組の生徒が教えてくれた。

「ちょっとごめんな」

 僕はそう言って足元に跳んで来た蛙を持ち上げる。そしてそのまま、それを誠の顔
 目掛けて投げつけた。

「うわっ?!」

 蛙が頬にビタンッと張り付き、驚いた誠は動きを止めて僕を見る。
 僕はわざと笑みを浮かべると、言った。

「楽しそうで何よりだが、そろそろやめろ」

 お前もだよと和正の方を見ると、和正は少し寂しそうな顔をしながら頷いた。

「す、凄ぇ・・・」

「あれだけ言うこと聞かなかった狗神と日野が、こうも簡単に・・・」

「山霧くん、本物のストッパーだ・・・」

「怒らせたら怖いって噂だけど、あれ本当なのかな・・・?」

「あの二人が言うこと聞くくらいだ、本当だろ・・・」

 大人しくなった誠と和正を見て、B組の生徒がザワザワしながら僕を見る。
 勝手に言ってろ、なんて思いながら僕は清水さんに言った。

「清水さん、珍しいものに興味津々なのは別に良いですけど、怖がっている人の前
 ではやめてあげてください」

「・・・すみません」

 反省している様子の清水さんから蛙を受け取り、晴樹の頭に乗せる。

「え??」

 意味が分からないというような顔をしている晴樹に、僕は笑顔を向けた。

「蛙回収するぞ、晴樹も手伝え」

「ええー・・・」

 面倒くさいと言いたげな顔の晴樹に、足元に跳んで来た蛙を渡す。
 晴樹の頭に乗っている蛙がゲコゲコと鳴くと、散らばっていた蛙達が徐々に晴樹の
 元へ集まって来た。

「協力してくれるのか?ありがとな」

 僕がそう言って晴樹の頭に乗っている蛙を指先で撫でると、蛙はゲコッと鳴く。
 怖がっている生徒達を余所目に、僕、晴樹、清水さん、和正、誠の五人で蛙を回収
 した。
 全ての蛙の回収が終わると、自然と拍手が沸き起こる。お礼を言う腰を抜かした
 ままのB組の担任の先生に蛙を逃がす許可を貰い、僕達は教室を出た。



―――取り敢えず学校の敷地外へ行こうということになり、僕達は山へ向かう。
蛙達は道中とても大人しく、唯一晴樹の頭に乗った蛙だけがゲコッゲコッと鳴いて
いた。

「この辺りで良いんじゃないか?」

 山の入り口付近で、先頭を歩いていた和正がそう言って立ち止まる。
 僕達は頷くと、腕に抱えていた蛙達を地面にそっと置いた。
 蛙達はゲコゲコと鳴き、僕達をちらりと見た後茂みの中へ入って行く。最後に
 晴樹の頭に乗った蛙がピョンッと跳び下りると、僕の足元まで来てゲコッと鳴き、
 頭を下げる素振りを見せた。

「もう校内に入って来るなよ」

 僕がそう言うと、蛙はゲコッと鳴く。そして大きく跳ね、茂みの中へ姿を消した。

「蛙って、梅雨!って感じがするよね~」

 誠がそう言って、ねー?と晴樹を見る。晴樹は頷き、僕を見て言った。

「・・・何で皆あんなに怖がってたの?」

「何でって、僕に聞かれても・・・」

「最初に蛙見つけた人が、妖だ!!って叫んだからじゃないかな?皆、妖って聞いた
 途端に騒ぎ出したし・・・」

 清水さんが晴樹にそう言うと、和正が言った。

「まあ確かに、妖って聞いたら怖がりもするよな。俺が教室入った時冷静な顔してた
 B組の奴、晴樹と山野だけだったし」

 清水さんはめちゃめちゃテンション高かったけどと清水さんを見る和正に、
 清水さんは苦笑いを浮かべる。

「何で山野は止めなかったんだ・・・」

「あー、あの人最初は蛙あしらってたけど、誠くんが来た時点で泣き付いて来る
 女子の相手に回ってたよ」

 僕の言葉に晴樹はそう言うと、戻ろと呟いて歩き出した。
 こうして、妖騒動は終わりを迎えた。いつもより短くなった一限目に一部の生徒は
 歓喜し、その日の昼休みに僕達はB組の担任の先生からお礼ということでお菓子を
 貰うのだった。
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