異能力と妖と

彩茸

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梅雨編

雷羅

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「本当か・・・?え、じゃあ前に狗神が塞ぎ込んでたのは、山霧が死んだ
 からで・・・」

 何で、有り得ないと呟きながら、雷羅はフラフラと後ずさりする。

「ら、雷羅さん、大丈夫・・・?」

 誠がそう言うと、雷羅はボロボロと涙を流し始めた。

「ぼく、狗神と約束してたんだ・・・。狗神の大切なものは、ぼくも一緒に守って
 やるって・・・!」

「大切な、もの・・・」

 僕が呟くと、雷羅は頷く。

「ああそうさ、狗神は他の妖よりも守るものが多いからね。信者、住処、家族、
 友達・・・あの山霧も、あいつの大切なものの一つだった」

 そう言って雷羅が俯くと、先程よりも雨が強くなった。
 雷羅が何か呟いたような気もするが、雨の音でよく聞き取れなかった。

「・・・雷羅さん、泣かないで」

 誠は悲しそうな顔をすると、雷羅にハンカチを差し出す。ハンカチで涙を拭う
 彼女に、誠は言った。

「あのね、雷羅さんが遊びに来た日の夜、お祖父ちゃんが言ってたんだ。・・・雷羅
 さんは、凄く優しい妖なんだって。今まで約束を破ったことがない凄い奴だって、
 言ってたんだよ」

 雷羅は目を見開き、誠を見る。

「狗神が、そんなことを・・・?」

 雷羅の言葉に誠と和正が頷く。
 少しの沈黙の後、雷羅はそうかと呟いて口元に笑みを浮かべる。そして、僕達を
 見て言った。

「・・・それじゃあ、これはぼくの自己満足。君達に、約束をさせてくれ」

 空が光り、雷鳴が鳴り響く。

「ぼくは、狗神が大切にしている君達を守る。君達が困っていれば助けよう。
 約束だ!」

 ニカッと笑う雷羅に、僕達は笑みを浮かべ頷いた。
 ふと誠を見ると、さっきの雷鳴が怖かったのか耳が垂れ下がっていた。その様子に
 クスリと笑うと、誠が僕を見てムスッとした顔をする。

「・・・今笑ったでしょ」

「ごめん、つい・・・」

 誠の言葉にそう答えると、再び鳴った雷鳴に誠の肩が跳ねた。

「おや、雷が怖いのかい?」

 雷羅がそう聞くと、誠は小さく頷く。すると雷羅は突然笑い出し、言った。

「そういう所は狗神そっくりなんだね!!」

「お祖父ちゃんに・・・?」

 首を傾げる誠に、雷羅は頷く。

「そうさ、狗神がまだ子犬だった頃だけどね。あいつ雷が怖いからって、雨の日は
 いつも従者の・・・狼昂だっけ?そいつの陰に隠れてさあ!ぼくが雷を使う龍
 だって知った時には、雷止めてくれって涙目になって頼んできたりしたんだよ!」

 いやあ、懐かしいなあ!と笑う雷羅に、誠だけでなく僕達も驚いた顔をする。
 あの狗神が、雷を怖がっていたなんて。
 今度からかわれたときには、この話でからかい返してやろう。そんなことを考えて
 いると、晴樹が言った。

「・・・静兄、悪い顔してる」

 雷羅は僕を見ると、僕の背中をバンバン叩く。

「その顔!懐かしいね、君の父親もこの話を聞いた時同じ顔をしていたよ!」

「痛い、痛いです・・・」

 ケラケラと笑う雷羅。いつの間にか、雨は小降りになっていた。
 ひとしきり笑った後、雷羅は空を見上げる。

「おや、そろそろ雨が止みそうだ」

「えっと・・・雷羅さん。ここ学校の敷地内なんですけど、居ても大丈夫なん
 ですか?」

 和正がそう言うと、雷羅は首を傾げる。
 今更な気もしますけどと付け加えた和正に、雷羅は言った。

「おや、それは失礼したね。全く気が付かなかったよ。・・・そうか、それなら他の
 人間が来る前にぼくは去るとしよう」

 僕達に手を振った雷羅は、龍の姿になると空に昇っていく。

「君達、暇な時でもぼくを呼んで良いからね!それじゃあ、また!」

 雷羅はそう言い残し、姿を消す。
 その後僕達は寮へと戻り、身支度を済ませ朝食を食べる。
 学校へ向かう途中、空を架ける大きな虹が見えた。
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