異能力と妖と

彩茸

文字の大きさ
上 下
113 / 203
襲撃事件編

喪失

しおりを挟む
―――次の日の昼休み。誠と昼食を食べる場所について話していると、教室の扉が
開いた。

「山霧くんと狗神くんは居ますか・・・?」

 その声に僕と誠は扉を見る。そこには、みなも先輩が立っていた。

「みなも先輩、もう大丈夫なの・・・?」

 誠がそう言いながらみなも先輩に駆け寄る。
 僕も後ろから付いて行くと、みなも先輩は誠と僕を見て頷いた。

「あなた達に・・・お礼、言いたくて。私と響子ちゃんを助けてくれて、ありが
 とう」

「僕、何もしてませんけどね・・・」

 僕がそう言うと、みなも先輩は首を横に振る。

「校長先生が、山霧くんが助っ人を呼んでくれたって。・・・狗神くん、無理させ
 ちゃってごめんね」

「気にしないで!」

 誠がそう言って笑うと、みなも先輩はふわりと笑う。
 ここに立ってたら邪魔になるからと、僕達は廊下に出る。すると、晴樹の声が
 聞こえた。

「静兄、ご飯・・・あれ、みなも先輩だ」

 振り向くと、晴樹が清水さんと一緒に立っていた。清水さんはみなも先輩を見て、
 嬉しそうに駆け寄って来る。晴樹も後ろから歩いて近付いて来ると、みなも先輩に
 言った。

「・・・みなも先輩、響子先輩は?」

 みなも先輩は暗い顔をすると、こっちと言って歩き出した。



―――僕達が付いて行くと、みなも先輩は保健室の前で足を止める。

「響子ちゃん、目は覚ましたんだけど・・・」

 みなも先輩はそう言って保健室の扉を開ける。そこにはベッドに腰掛ける響子先輩
 と、心配そうな顔で佇む和正と彩音が居た。
 僕達がベッドに近付くと、和正と彩音はこちらを向いたが響子先輩はボーっと床を
 見つめ続けていた。

「響子ちゃん、ただいま」

 みなも先輩がそう言うと、響子先輩は少しだけみなも先輩を見たが、すぐに視線を
 床に戻す。

「さっきから声を掛けているんですけど、ずっとこの調子で・・・」

 彩音がみなも先輩にそう言うと、みなも先輩は悲しそうな顔をする。
 どうしてこんなことに、そう思っているとみなも先輩が言った。

「・・・響子ちゃん、目が覚めてからずっとこの調子で。こんな響子ちゃん、初めて
 見たから・・・どうすれば良いか、分からない」

「みなも先輩・・・調査の時、何があったんですか?」

 清水さんが、そう言ってみなも先輩を見る。みなも先輩は響子先輩を見ながら
 話し始めた。

「私と響子ちゃんは先生達と協力して、同級生の遺体があった場所とその周辺に
 犯人の痕跡がないか調べていた。・・・そろそろ夕方だから戻ろうって、先生が
 言って。歩き出したら・・・後ろから、悲鳴が聞こえた。振り向いたら、後ろを
 歩いていた先生が血だらけになって倒れていて。逃げなきゃって、響子ちゃんと
 走り出したら、目の前に・・・尻尾があった」

 みなも先輩はそこまで言うと、お腹に手を当てながら俯く。

「・・・それからは、あまり覚えていない。響子ちゃんを守ろうとしたら、私のお腹
 が抉られていた。意識を失う直前、沢山の尻尾を持った妖が笑っているのを、見た
 気がする」

 皆が黙っていると、みなも先輩は僕達を部屋の外へ連れ出して言った。

「今は、響子ちゃんを元に戻したい。そのために、力を貸してほしい。・・・皆、
 巻き込んでごめんね」

 僕達は頷くと、扉を少し開けて相変わらずボーっと床を見つめ続けている響子先輩
 を見る。

「元に戻すって、どうすれば・・・」

 そう呟いた彩音に、僕は言った。

「こういう時って、すぐにどうこうするのは難しいんだよな。・・・多分、僕達が
 何か言っても響子先輩は変わらない。あの状態で話し掛けられても、環境音程度
 にしか捉えられないしな」

「・・・静也、詳しいのね」

 彩音の言葉に、僕は苦笑いを浮かべる。そして悲しそうに僕を見る晴樹の頭を
 そっと撫でると、呟くように言った。

「・・・僕も、そうだったから」

 何かごめんと気まずそうに言った彩音に、小さく首を振る。

「和正はどう思う?」

 僕が聞くと、和正は誠の頭をポンポンと撫でながら言った。

「まあ、きっかけは必要だよな。例えば・・・飯食いながら語り合う、とか?」

「ご飯・・・良いかも」

 みなも先輩はそう呟くと、僕達にお礼を言って保健室の中へ入って行く。
 中からみなも先輩の声が聞こえるが、話している内容は聞き取れない。聞き耳を
 立てるのもどうかと思ったので、僕は扉から少し離れた。

「・・・どうしよう、お腹空いてきた」

 ふと誠が言う。そういえば、まだ昼食を食べていない。

「まだ時間ありますし、皆で屋上に行ってお昼ご飯食べませんか?」

 清水さんの言葉に僕達は頷く。

「お昼ご飯、教室に置いたままだ」

 晴樹がそう言うと、取りに行きましょと彩音が笑う。
 僕達は扉を開けてみなも先輩と響子先輩に別れを告げると、教室へ向かって歩き
 出した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢に仕立て上げたいなら、ご注意を。

ファンタジー
幼くして辺境伯の地位を継いだレナータは、女性であるがゆえに舐められがちであった。そんな折、社交場で伯爵令嬢にいわれのない罪を着せられてしまう。そんな彼女に隣国皇子カールハインツが手を差し伸べた──かと思いきや、ほとんど初対面で婚姻を申し込み、暇さえあれば口説き、しかもやたらレナータのことを知っている。怪しいほど親切なカールハインツと共に、レナータは事態の収拾方法を模索し、やがて伯爵一家への復讐を決意する。

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

桂崇
ファンタジー
小さな町で酒場の手伝いをする母親と2人で住む少年イールスに転生覚醒する、チートする方法も無く、母親の死により、実の父親の家に引き取られる。イールスは、冒険者になろうと目指すが、周囲はその才能を惜しんでいる

私は逃げます

恵葉
ファンタジー
ブラック企業で社畜なんてやっていたら、23歳で血反吐を吐いて、死んじゃった…と思ったら、異世界へ転生してしまったOLです。 そしてこれまたありがちな、貴族令嬢として転生してしまったのですが、運命から…ではなく、文字通り物理的に逃げます。 貴族のあれやこれやなんて、構っていられません! 今度こそ好きなように生きます!

若返ったオバさんは異世界でもうどん職人になりました

mabu
ファンタジー
聖女召喚に巻き込まれた普通のオバさんが無能なスキルと判断され追放されるが国から貰ったお金と隠されたスキルでお店を開き気ままにのんびりお気楽生活をしていくお話。 なるべく1日1話進めていたのですが仕事で不規則な時間になったり投稿も不規則になり週1や月1になるかもしれません。 不定期投稿になりますが宜しくお願いします🙇 感想、ご指摘もありがとうございます。 なるべく修正など対応していきたいと思っていますが皆様の広い心でスルーして頂きたくお願い致します。 読み進めて不快になる場合は履歴削除をして頂けると有り難いです。 お返事は何方様に対しても控えさせて頂きますのでご了承下さいます様、お願い致します。

【完結】俺様フェンリルの飼い主になりました。異世界の命運は私次第!?

酒本 アズサ
ファンタジー
【タイトル変更しました】 社畜として働いてサキは、日課のお百度参りの最中に階段から転落して気がつくと、そこは異世界であった!? もふもふの可愛いちびっこフェンリルを拾ったサキは、謎の獣人達に追われることに。 襲われると思いきや、ちびっこフェンリルに跪く獣人達。 え?もしかしてこの子(ちびっこフェンリル)は偉い子なの!? 「頭が高い。頭を垂れてつくばえ!」 ちびっこフェンリルに獣人、そこにイケメン王子様まで現れてさぁ大変。 サキは異世界で運命を切り開いていけるのか!? 実は「千年生きた魔女〜」の後の世界だったり。 (´・ノω・`)コッソリ

全校転移!異能で異世界を巡る!?

小説愛好家
ファンタジー
全校集会中に地震に襲われ、魔法陣が出現し、眩い光が体育館全体を呑み込み俺は気絶した。 目覚めるとそこは大聖堂みたいな場所。 周りを見渡すとほとんどの人がまだ気絶をしていてる。 取り敢えず異世界転移だと仮定してステータスを開こうと試みる。 「ステータスオープン」と唱えるとステータスが表示された。「『異能』?なにこれ?まぁいいか」 取り敢えず異世界に転移したってことで間違いなさそうだな、テンプレ通り行くなら魔王討伐やらなんやらでめんどくさそうだし早々にここを出たいけどまぁ成り行きでなんとかなるだろ。 そんな感じで異世界転移を果たした主人公が圧倒的力『異能』を使いながら世界を旅する物語。

ゲーム世界にトリップした俺は旅館経営をしてみたい

十本スイ
ファンタジー
ある日、廃人ゲーマーと呼ばれるほどに熱中していた『レコード・オブ・ニューワールド』というオンラインゲームにトリップした主人公。元々楽観的思考な彼は、大好きなゲームを直に味わえるということで、とりあえず思う存分好きなことをしようと決めた。そこで実家が旅館だったということもあり、できればこの世界で自分だけの旅館を経営したいと考え行動することにした。最強の一角とされるジョブを有する主人公は、そのゲーム知識と能力を行使し、いろいろな人物を勧誘しながら旅館経営を目指していく。

妖派遣はじめました

もじねこ。
キャラ文芸
 代々、一ノ瀬家の守神をしている白蛇の妖。  今は美少女妖である白乃姫が、守神を受け継いでいた。  白乃姫の幼馴染である一ノ瀬凪は、面倒くさがりなくせに面倒見が良くて、いつも厄介ごとを引き受ける。  凪一人ではとても対応しきれない相談事……ああ、そうだ! 人手が足りていないなら、妖派遣しちゃえばいいじゃない!!  猫カフェに通う猫又に、浮気性な座敷童子!?  妖の白乃姫と、人間の凪が、あらゆる問題の解決のために奔走するドタバタハートフル恋愛物語、ここに開幕!

処理中です...