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襲撃事件編
喪失
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―――次の日の昼休み。誠と昼食を食べる場所について話していると、教室の扉が
開いた。
「山霧くんと狗神くんは居ますか・・・?」
その声に僕と誠は扉を見る。そこには、みなも先輩が立っていた。
「みなも先輩、もう大丈夫なの・・・?」
誠がそう言いながらみなも先輩に駆け寄る。
僕も後ろから付いて行くと、みなも先輩は誠と僕を見て頷いた。
「あなた達に・・・お礼、言いたくて。私と響子ちゃんを助けてくれて、ありが
とう」
「僕、何もしてませんけどね・・・」
僕がそう言うと、みなも先輩は首を横に振る。
「校長先生が、山霧くんが助っ人を呼んでくれたって。・・・狗神くん、無理させ
ちゃってごめんね」
「気にしないで!」
誠がそう言って笑うと、みなも先輩はふわりと笑う。
ここに立ってたら邪魔になるからと、僕達は廊下に出る。すると、晴樹の声が
聞こえた。
「静兄、ご飯・・・あれ、みなも先輩だ」
振り向くと、晴樹が清水さんと一緒に立っていた。清水さんはみなも先輩を見て、
嬉しそうに駆け寄って来る。晴樹も後ろから歩いて近付いて来ると、みなも先輩に
言った。
「・・・みなも先輩、響子先輩は?」
みなも先輩は暗い顔をすると、こっちと言って歩き出した。
―――僕達が付いて行くと、みなも先輩は保健室の前で足を止める。
「響子ちゃん、目は覚ましたんだけど・・・」
みなも先輩はそう言って保健室の扉を開ける。そこにはベッドに腰掛ける響子先輩
と、心配そうな顔で佇む和正と彩音が居た。
僕達がベッドに近付くと、和正と彩音はこちらを向いたが響子先輩はボーっと床を
見つめ続けていた。
「響子ちゃん、ただいま」
みなも先輩がそう言うと、響子先輩は少しだけみなも先輩を見たが、すぐに視線を
床に戻す。
「さっきから声を掛けているんですけど、ずっとこの調子で・・・」
彩音がみなも先輩にそう言うと、みなも先輩は悲しそうな顔をする。
どうしてこんなことに、そう思っているとみなも先輩が言った。
「・・・響子ちゃん、目が覚めてからずっとこの調子で。こんな響子ちゃん、初めて
見たから・・・どうすれば良いか、分からない」
「みなも先輩・・・調査の時、何があったんですか?」
清水さんが、そう言ってみなも先輩を見る。みなも先輩は響子先輩を見ながら
話し始めた。
「私と響子ちゃんは先生達と協力して、同級生の遺体があった場所とその周辺に
犯人の痕跡がないか調べていた。・・・そろそろ夕方だから戻ろうって、先生が
言って。歩き出したら・・・後ろから、悲鳴が聞こえた。振り向いたら、後ろを
歩いていた先生が血だらけになって倒れていて。逃げなきゃって、響子ちゃんと
走り出したら、目の前に・・・尻尾があった」
みなも先輩はそこまで言うと、お腹に手を当てながら俯く。
「・・・それからは、あまり覚えていない。響子ちゃんを守ろうとしたら、私のお腹
が抉られていた。意識を失う直前、沢山の尻尾を持った妖が笑っているのを、見た
気がする」
皆が黙っていると、みなも先輩は僕達を部屋の外へ連れ出して言った。
「今は、響子ちゃんを元に戻したい。そのために、力を貸してほしい。・・・皆、
巻き込んでごめんね」
僕達は頷くと、扉を少し開けて相変わらずボーっと床を見つめ続けている響子先輩
を見る。
「元に戻すって、どうすれば・・・」
そう呟いた彩音に、僕は言った。
「こういう時って、すぐにどうこうするのは難しいんだよな。・・・多分、僕達が
何か言っても響子先輩は変わらない。あの状態で話し掛けられても、環境音程度
にしか捉えられないしな」
「・・・静也、詳しいのね」
彩音の言葉に、僕は苦笑いを浮かべる。そして悲しそうに僕を見る晴樹の頭を
そっと撫でると、呟くように言った。
「・・・僕も、そうだったから」
何かごめんと気まずそうに言った彩音に、小さく首を振る。
「和正はどう思う?」
僕が聞くと、和正は誠の頭をポンポンと撫でながら言った。
「まあ、きっかけは必要だよな。例えば・・・飯食いながら語り合う、とか?」
「ご飯・・・良いかも」
みなも先輩はそう呟くと、僕達にお礼を言って保健室の中へ入って行く。
中からみなも先輩の声が聞こえるが、話している内容は聞き取れない。聞き耳を
立てるのもどうかと思ったので、僕は扉から少し離れた。
「・・・どうしよう、お腹空いてきた」
ふと誠が言う。そういえば、まだ昼食を食べていない。
「まだ時間ありますし、皆で屋上に行ってお昼ご飯食べませんか?」
清水さんの言葉に僕達は頷く。
「お昼ご飯、教室に置いたままだ」
晴樹がそう言うと、取りに行きましょと彩音が笑う。
僕達は扉を開けてみなも先輩と響子先輩に別れを告げると、教室へ向かって歩き
出した。
開いた。
「山霧くんと狗神くんは居ますか・・・?」
その声に僕と誠は扉を見る。そこには、みなも先輩が立っていた。
「みなも先輩、もう大丈夫なの・・・?」
誠がそう言いながらみなも先輩に駆け寄る。
僕も後ろから付いて行くと、みなも先輩は誠と僕を見て頷いた。
「あなた達に・・・お礼、言いたくて。私と響子ちゃんを助けてくれて、ありが
とう」
「僕、何もしてませんけどね・・・」
僕がそう言うと、みなも先輩は首を横に振る。
「校長先生が、山霧くんが助っ人を呼んでくれたって。・・・狗神くん、無理させ
ちゃってごめんね」
「気にしないで!」
誠がそう言って笑うと、みなも先輩はふわりと笑う。
ここに立ってたら邪魔になるからと、僕達は廊下に出る。すると、晴樹の声が
聞こえた。
「静兄、ご飯・・・あれ、みなも先輩だ」
振り向くと、晴樹が清水さんと一緒に立っていた。清水さんはみなも先輩を見て、
嬉しそうに駆け寄って来る。晴樹も後ろから歩いて近付いて来ると、みなも先輩に
言った。
「・・・みなも先輩、響子先輩は?」
みなも先輩は暗い顔をすると、こっちと言って歩き出した。
―――僕達が付いて行くと、みなも先輩は保健室の前で足を止める。
「響子ちゃん、目は覚ましたんだけど・・・」
みなも先輩はそう言って保健室の扉を開ける。そこにはベッドに腰掛ける響子先輩
と、心配そうな顔で佇む和正と彩音が居た。
僕達がベッドに近付くと、和正と彩音はこちらを向いたが響子先輩はボーっと床を
見つめ続けていた。
「響子ちゃん、ただいま」
みなも先輩がそう言うと、響子先輩は少しだけみなも先輩を見たが、すぐに視線を
床に戻す。
「さっきから声を掛けているんですけど、ずっとこの調子で・・・」
彩音がみなも先輩にそう言うと、みなも先輩は悲しそうな顔をする。
どうしてこんなことに、そう思っているとみなも先輩が言った。
「・・・響子ちゃん、目が覚めてからずっとこの調子で。こんな響子ちゃん、初めて
見たから・・・どうすれば良いか、分からない」
「みなも先輩・・・調査の時、何があったんですか?」
清水さんが、そう言ってみなも先輩を見る。みなも先輩は響子先輩を見ながら
話し始めた。
「私と響子ちゃんは先生達と協力して、同級生の遺体があった場所とその周辺に
犯人の痕跡がないか調べていた。・・・そろそろ夕方だから戻ろうって、先生が
言って。歩き出したら・・・後ろから、悲鳴が聞こえた。振り向いたら、後ろを
歩いていた先生が血だらけになって倒れていて。逃げなきゃって、響子ちゃんと
走り出したら、目の前に・・・尻尾があった」
みなも先輩はそこまで言うと、お腹に手を当てながら俯く。
「・・・それからは、あまり覚えていない。響子ちゃんを守ろうとしたら、私のお腹
が抉られていた。意識を失う直前、沢山の尻尾を持った妖が笑っているのを、見た
気がする」
皆が黙っていると、みなも先輩は僕達を部屋の外へ連れ出して言った。
「今は、響子ちゃんを元に戻したい。そのために、力を貸してほしい。・・・皆、
巻き込んでごめんね」
僕達は頷くと、扉を少し開けて相変わらずボーっと床を見つめ続けている響子先輩
を見る。
「元に戻すって、どうすれば・・・」
そう呟いた彩音に、僕は言った。
「こういう時って、すぐにどうこうするのは難しいんだよな。・・・多分、僕達が
何か言っても響子先輩は変わらない。あの状態で話し掛けられても、環境音程度
にしか捉えられないしな」
「・・・静也、詳しいのね」
彩音の言葉に、僕は苦笑いを浮かべる。そして悲しそうに僕を見る晴樹の頭を
そっと撫でると、呟くように言った。
「・・・僕も、そうだったから」
何かごめんと気まずそうに言った彩音に、小さく首を振る。
「和正はどう思う?」
僕が聞くと、和正は誠の頭をポンポンと撫でながら言った。
「まあ、きっかけは必要だよな。例えば・・・飯食いながら語り合う、とか?」
「ご飯・・・良いかも」
みなも先輩はそう呟くと、僕達にお礼を言って保健室の中へ入って行く。
中からみなも先輩の声が聞こえるが、話している内容は聞き取れない。聞き耳を
立てるのもどうかと思ったので、僕は扉から少し離れた。
「・・・どうしよう、お腹空いてきた」
ふと誠が言う。そういえば、まだ昼食を食べていない。
「まだ時間ありますし、皆で屋上に行ってお昼ご飯食べませんか?」
清水さんの言葉に僕達は頷く。
「お昼ご飯、教室に置いたままだ」
晴樹がそう言うと、取りに行きましょと彩音が笑う。
僕達は扉を開けてみなも先輩と響子先輩に別れを告げると、教室へ向かって歩き
出した。
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