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霧ヶ山編
来訪
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―――採った薬草を柊の住処に持ち帰った僕達は、柊に別れを告げてお堂へ戻る。
お堂の扉を開けると、そこには落魅の顔面に拳を入れている狗神が居た。
「おお、良い所に」
ばたりと倒れた落魅に目もくれず、狗神はニコニコと僕達に近付いて来る。
「えっと・・・何事?」
僕がそう聞くと、その様子を呆れた顔で見ていた天狗さんが言った。
「・・・狗神のストレス発散じゃ、気にするな」
気にするなと言われても・・・と狗神を見ると、狗神は笑顔のまま言った。
「いやあ、誠と日野くんが家に居るというのに、まーた祓い屋が領域内で暴れ
よっての。バレないように追い払うのが大変で、ストレスが溜まってたんじゃ」
「・・・流石に、落魅が可哀そうに思えてきた」
そう言った晴樹の頭を、狗神はポンポンと撫でる。
「同情はするなよ、あ奴はすぐ付け上がるからの」
狗神にそう言われ、晴樹はちらりと落魅を見た後コクリと頷いた。
天狗さんは部屋の隅で小さくなっていた天春とのっぺらぼうを呼び、小声で何かを
伝える。狗神の耳がピクリと動いたので狗神には聞こえたようだが、晴樹は首を
傾げていた。
「・・・そうだ、良い所にって言ってたけど、僕達に何か用事でもあったのか?」
僕がそう聞くと、狗神は頷いて懐から親指ほどの大きさの小さな石を取り出した。
「ワン公、出て来い」
狗神がそう言うと、石から煙が立ち上る。煙はだんだんと形を成し、狛犬のような
姿になった。
ああ、そういえば去年帰省した時にも見たっけ。そんなことを思っていると、
狛犬が不服そうに言った。
「ですから主様、わたくしはワン公という名では・・・!」
「・・・後でちゃんと呼んでやるから、静かにせい」
狗神がそう言うと、狛犬は嬉しそうに尻尾を振る。
狗神は晴樹を見て、狛犬を指さしながら言った。
「お主は、ワン公を見るのは初めてじゃの。こ奴は、ワシに仕えている妖じゃ。
名を・・・」
「ちょっ、ちょっと待て!」
狗神の言葉を僕は慌てて遮る。以前狗神が、名前を呼んだら指示していないのに
目の前にいた人間を食い殺したと言っていたことを思い出したからだ。
「・・・狗神、ちゃんと説明してからにせい」
天狗さんが呆れた声で言うと、狗神はバレたかと小さく呟いた。そしてお堂の扉を
開けると、僕と晴樹に手招きをする。
僕達が外に出ると、狗神は狛犬を撫でながら言った。
「お主らに、こ奴と戦ってもらおうと思ってな。勿論、危なくなったら止める。
どうじゃ、やってみんか?」
「どうして突然・・・」
僕がそう言うと、狗神は天狗さんをちらりと見る。
「落魅とお主らが戦った日に、天狗と賭けをしての。人間が落魅を倒せば天狗の
勝ち、妖が落魅を倒せばワシの勝ちじゃった」
「・・・それで、僕が落魅を気絶させたから、天狗さんが勝った」
晴樹の言葉に狗神は頷く。すると天狗さんが扉の前に立って言った。
「負けた方が嫌われ役になる。そういう賭けだったんじゃよ」
「嫌われ役?」
僕が首を傾げると、狗神が言った。
「なに、嫌うかどうかはお主ら次第じゃ。・・・まあ簡潔に言うと、お主らが弱い
からワシか天狗が鍛えようという話になったんじゃ」
そりゃ大妖怪からしたら僕達は弱いだろうけど、何で鍛えるなんて話に?
そんな僕の考えを察したのか、天狗さんの後ろから天春が顔を出して言った。
「・・・静も晴も、今のままじゃ九尾の狐にすぐ殺されちゃうから。
・・・取るんでしょ?仇」
「最近、九尾の狐を見たという話を知り合いからよく聞くようになっての。
・・・わしらも、警戒しておるんじゃ」
天狗さんの言葉に、クリスマスパーティーで見た兎の妖の死骸を思い出す。
もしかしたら、あれは本当に・・・。
「・・・僕達、武器持って来てないんだけど」
晴樹がそう言うと、のっぺらぼうがお堂の中から僕の夜月と晴樹の桜と紅葉を
持って出て来る。
「天春と小妖怪達が、お前らの武器を取って来タ。武器ぐらい、常に携帯しておケ」
そう言いながら武器を渡してくるのっぺらぼうにお礼を言いつつ、僕は狗神を
見る。狗神は狛犬にお手をさせていた。
これから戦うというのに、狛犬が何だかペットに見えて仕方が無い。
晴樹が小さな声で、ペット・・・と呟いていた。
お堂の扉を開けると、そこには落魅の顔面に拳を入れている狗神が居た。
「おお、良い所に」
ばたりと倒れた落魅に目もくれず、狗神はニコニコと僕達に近付いて来る。
「えっと・・・何事?」
僕がそう聞くと、その様子を呆れた顔で見ていた天狗さんが言った。
「・・・狗神のストレス発散じゃ、気にするな」
気にするなと言われても・・・と狗神を見ると、狗神は笑顔のまま言った。
「いやあ、誠と日野くんが家に居るというのに、まーた祓い屋が領域内で暴れ
よっての。バレないように追い払うのが大変で、ストレスが溜まってたんじゃ」
「・・・流石に、落魅が可哀そうに思えてきた」
そう言った晴樹の頭を、狗神はポンポンと撫でる。
「同情はするなよ、あ奴はすぐ付け上がるからの」
狗神にそう言われ、晴樹はちらりと落魅を見た後コクリと頷いた。
天狗さんは部屋の隅で小さくなっていた天春とのっぺらぼうを呼び、小声で何かを
伝える。狗神の耳がピクリと動いたので狗神には聞こえたようだが、晴樹は首を
傾げていた。
「・・・そうだ、良い所にって言ってたけど、僕達に何か用事でもあったのか?」
僕がそう聞くと、狗神は頷いて懐から親指ほどの大きさの小さな石を取り出した。
「ワン公、出て来い」
狗神がそう言うと、石から煙が立ち上る。煙はだんだんと形を成し、狛犬のような
姿になった。
ああ、そういえば去年帰省した時にも見たっけ。そんなことを思っていると、
狛犬が不服そうに言った。
「ですから主様、わたくしはワン公という名では・・・!」
「・・・後でちゃんと呼んでやるから、静かにせい」
狗神がそう言うと、狛犬は嬉しそうに尻尾を振る。
狗神は晴樹を見て、狛犬を指さしながら言った。
「お主は、ワン公を見るのは初めてじゃの。こ奴は、ワシに仕えている妖じゃ。
名を・・・」
「ちょっ、ちょっと待て!」
狗神の言葉を僕は慌てて遮る。以前狗神が、名前を呼んだら指示していないのに
目の前にいた人間を食い殺したと言っていたことを思い出したからだ。
「・・・狗神、ちゃんと説明してからにせい」
天狗さんが呆れた声で言うと、狗神はバレたかと小さく呟いた。そしてお堂の扉を
開けると、僕と晴樹に手招きをする。
僕達が外に出ると、狗神は狛犬を撫でながら言った。
「お主らに、こ奴と戦ってもらおうと思ってな。勿論、危なくなったら止める。
どうじゃ、やってみんか?」
「どうして突然・・・」
僕がそう言うと、狗神は天狗さんをちらりと見る。
「落魅とお主らが戦った日に、天狗と賭けをしての。人間が落魅を倒せば天狗の
勝ち、妖が落魅を倒せばワシの勝ちじゃった」
「・・・それで、僕が落魅を気絶させたから、天狗さんが勝った」
晴樹の言葉に狗神は頷く。すると天狗さんが扉の前に立って言った。
「負けた方が嫌われ役になる。そういう賭けだったんじゃよ」
「嫌われ役?」
僕が首を傾げると、狗神が言った。
「なに、嫌うかどうかはお主ら次第じゃ。・・・まあ簡潔に言うと、お主らが弱い
からワシか天狗が鍛えようという話になったんじゃ」
そりゃ大妖怪からしたら僕達は弱いだろうけど、何で鍛えるなんて話に?
そんな僕の考えを察したのか、天狗さんの後ろから天春が顔を出して言った。
「・・・静も晴も、今のままじゃ九尾の狐にすぐ殺されちゃうから。
・・・取るんでしょ?仇」
「最近、九尾の狐を見たという話を知り合いからよく聞くようになっての。
・・・わしらも、警戒しておるんじゃ」
天狗さんの言葉に、クリスマスパーティーで見た兎の妖の死骸を思い出す。
もしかしたら、あれは本当に・・・。
「・・・僕達、武器持って来てないんだけど」
晴樹がそう言うと、のっぺらぼうがお堂の中から僕の夜月と晴樹の桜と紅葉を
持って出て来る。
「天春と小妖怪達が、お前らの武器を取って来タ。武器ぐらい、常に携帯しておケ」
そう言いながら武器を渡してくるのっぺらぼうにお礼を言いつつ、僕は狗神を
見る。狗神は狛犬にお手をさせていた。
これから戦うというのに、狛犬が何だかペットに見えて仕方が無い。
晴樹が小さな声で、ペット・・・と呟いていた。
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