異能力と妖と

彩茸

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後輩編

毒血

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―――僕は絞蛇の口目掛けて走り出す。先程の血の影響か、思うように体は動かな
かった。しかしそれは計算済みだ。
絞蛇は僕を丸呑みしようと大きく口を開ける。僕はそこへ飛び込み、清水さんに
合図を送った。
清水さんはすぐに鞘を口が閉まらないよう縦に入れる。流石は妖刀の鞘、絞蛇は
必死に口を閉じようとするがビクともしない。
僕は盾を構えながら、夜月で絞蛇の牙を抉るように斬る。こんなに出るか?と思う
ほど大量の血が降りかかるが、盾のおかげで殆ど浴びることはなかった。

「ちょっ、静也何してるの?!」

 僕が丁度絞蛇の口の中から出て来た時、彩音が驚きの声を上げながら戻って来た。

「あれ、早くね?」

「心配になったから戻って来たのよ!」

 彩音の言葉に心配しなくても良いのにと言うと、ペシッと頭を叩かれた。

「痛っ」

「静也が倒れたら、清水さんどうするのよ!」

 彩音の言葉にちらりと清水さんを見ると、彼女は少し不安そうな顔で僕を見て
 いた。

「えっと・・・すみません」

 僕がそう言うと、清水さんは慌てて首を横に振る。そして絞蛇の口を指さすと
 言った。

「謝らないでください!ほら、あれ取っちゃいましょう!」

 そういえば鞘を回収していなかった。僕がそちらを見ると同時に、鞘からミシリと
 音が聞こえた気がした。
 ・・・まずい、鞘が折れたらきっと天狗さんにめちゃくちゃ怒られるだろう。
 僕は慌てて盾を放り投げ絞蛇の口に駆け寄ると、鞘を引き抜く。やっと口が閉じる
 ようになった絞蛇はシュルシュルと音を立てると僕を見た。
 逃げなきゃと足を踏み出すと、再び視界が歪む。

「やっべ・・・」

 倒れないように何とか夜月で体を支えると、力のあまり入らない足を無理矢理
 動かして彩音達の元へ戻る。

「大丈夫?!」

 彩音が心配そうな顔をして僕を見る。僕が頷くと、清水さんは言った。

「山霧先輩、休んでいてください。他の先輩方が帰って来るまで、私が耐えて
 みせます」

 彼女の目には、覚悟が宿っていた。改めて凄い子だなと思う。

「・・・分かりました、お願いします」

 僕がそう言うと、清水さんは笑ってはい!と元気よく言った。



―――清水さんと絞蛇の戦闘を見ながら、絞蛇の血の毒について考える。体調は
どんどん悪くなっており、これは運んでもらう羽目になりそうだと思う。
最初に血を浴びた時は驚いた拍子に血が口に入りああなったと思っていたのだが、
それだけではないのかもしれない。
二度目の眩暈の原因は・・・?と考えていると、ふと右手の甲に擦り傷ができている
事に気付いた。いつの間に怪我したのだろう、絞蛇の血で濡れていたから気付かな
かった。

「ねえ静也、その返り血拭きなさいよ・・・」

 僕が手を見ていたことに気付いたのか、彩音が呆れた顔をして鞄からタオルを
 取り出す。
 タオルを受け取り手や顔を拭いていると、小さな傷がそこそこできていた事に
 気付いた。何となく痛みを感じる程度なのだが、もしかしたら傷口から絞蛇の血が
 入り、毒に侵されたのかもしれない。

「・・・にしても、何であんだけ出血してるのに動けるんだ?あの蛇」

 血をダバダバと流しながらも動き続ける絞蛇を見ながら僕は呟く。

「妖については静也の方が詳しいでしょ?」

「どうなんだろうな。僕が知ってるのだって、父さんとか知り合いの妖が教えて
 くれた事くらいだし・・・。授業で初めて知った事もあるんだよな」

「え、そうなの?意外」

 そう言って僕を見る彩音に、僕は笑みを浮かべて言った。

「普通に遊ぶだけなら、大して知らなくても困らないんだよ」

「そっか・・・そうよね」

 彩音は少し暗い顔をしながら頷く。

「あっ、先輩危ない!!」

 清水さんの声にハッとそちらを向くと、絞蛇の尾が僕達目掛けて襲ってきた。
 慌てて僕は夜月を抜き、尾を弾く。

「大丈夫ですか?!」

 清水さんがそう言って僕達を見る。そんな彼女の後ろから、大きく口を開けた
 絞蛇が迫っていた。

「清水さん、後ろ!!」

 彩音が叫ぶと、清水さんは間一髪で絞蛇を避ける。

「僕達の事は気にしないでください!自分の身を守ることを第一に、僕も自分の身を
 守るだけの体力は残ってますから!」

 僕がそう言うと、清水さんは頷いて絞蛇を見る。息を吐いて座り込む僕に、彩音が
 小声で言った。

「本当に大丈夫なの?」

「・・・正直言うと、急に動いたから今すっげー吐きそう。
 倒れたらよろしく・・・」

「大丈夫じゃないのね・・・」

 あはは・・・と苦笑いを浮かべる僕に、彩音は溜息を吐く。
 清水さんを見ると、木の盾で攻撃を防ぎつつ、ヌンチャクで絞蛇の注意がこちらに
 向かないように打撃を与えてくれていた。清水さんの服に血は付いていないように
 見えるので、血が掛からないように避けながら戦っているのだろう。

「なあ、彩音。彩音の式神って、攻撃に向いてる奴どのくらいいる?」

 僕がそう聞くと、彩音は少し悩んだ後言った。

「・・・攻撃型の式神は、曹灰と藍晶だけよ。黄玉も戦えなくはないけど、あの子
 運搬の方が得意なの」

 曹灰も藍晶も、攻撃させれば絞蛇に傷を付けてしまう。どうにかして清水さんの
 負担を減らしてあげたいが・・・一か八か、黄玉に頼んでみるか?

「黄玉出してくれるか?」

「え?良いけど・・・」

 彩音は胸ポケットから紙を取り出し、息を吹き掛ける。やがて現れた黄玉に、僕は
 言った。

「黄玉、ちょっとやってみてほしい事があるんだけど・・・」

 黄玉は何?と言いたげに僕を見つめる。

「黄玉の後ろ脚で、絞蛇・・・あの大蛇の顔を思いっ切り蹴ってくれないか?
 その後は怪我をしないように走り回ってくれたら良いんだけど」

 僕の言葉に黄玉はブルルと鼻を鳴らすと、絞蛇に向かって駆け出した。

「清水さん、当たらないように避けてください!」

 僕は清水さんに向かって叫ぶ。黄玉を避け絞蛇から距離を取った彼女を見ている
 と、視界が霞む。
 ・・・あ、ヤバい。暫く大きな声を出すのは控えておこう・・・。

「ね、ねえ。寝てた方が良いんじゃないの?」

 彩音が心配そうに言う。そうしたいのは山々だが、今横になると暫く起きられる
 気がしない。

「・・・まだ、大丈夫」

 自分に言い聞かせるように僕は呟くと、絞蛇の顔面に良い蹴りを食らわせる黄玉を
 見る。絞蛇は強い衝撃に少し怯み、攻撃対象を清水さんから黄玉に変えた。
 黄玉は持ち前の脚力で絞蛇から逃げ続ける。息を整え黄玉と絞蛇の追いかけっこを
 見ている清水さんに、僕は一旦引くように言った。

「先輩、具合どうですか?」

 清水さんがそう言いながら僕達の元へ戻って来る。

「まだ平気です。・・・すみません、任せっきりになってしまって」

 僕がそう言うと、清水さんは首を横に振って言った。

「先輩が絞蛇の喉を裂いたり牙を斬ったりしてくれたから、私があそこまで戦えたん
 です。・・・私が言うのもおこがましいですが、先輩は十分頑張っています」

「・・・静也って良い指示出す癖に、自分の事になると割と脳筋なのよね」

 彩音がボソッと呟く。・・・言い返せない。
 何も言えずにムスッとしながら彩音を見ると、清水さんは苦笑いで言った。

「まあまあ、それでも先輩強いですから!」

 ・・・どうやら否定はしてくれないらしい。もしこの場に晴樹が居たら、否定
 して・・・いや、しない気がするな。
 晴樹のことだから、遠慮なく言ってくるに違いない。そんな事を考えながら、
 僕は黄玉に視線を移した。
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