86 / 203
聖夜祭編
化兎
しおりを挟む
「マズハ、オマエ」
兎はそう言うと、大きな口を開けて誠の頭に齧り付こうとする。その時、兎の目に
ナイフが刺さった。
「下がってろ狗神!」
山野がそう言って、手に持ったナイフとフォークを次々に兎目掛けて投げる。
山野の能力により自由自在に宙を駆けるそれらは、ブスリと兎の顔に突き
刺さった。
「ギャッ!」
そう叫んだ兎の顔は血塗れで、普通の動物ならとうに命を落としているだろう。
だが、流石は妖と言うべきか。兎は後ろ脚で思いっきり誠を蹴り飛ばすと、僕の
隣を駆け抜け、山野の前で大きな口を開けた。和正と晴樹が発砲するも、何故か
兎は動じない。
「山野!!」
僕は後ろから兎に斬りかかる。木刀なので刀ほどの威力はないが、確かに手応えを
感じた。
兎は動きを止め、僕をちらりと見る。来るか?と思い木刀を構えると、兎は目にも
止まらぬ速さで山野を蹴り飛ばした。
壁に打ち付けられ、山野は呻き声をあげた後動かなくなる。
「・・・うっそだろ」
和正が呟く声が聞こえる。晴樹は何かを察したのか、僕に目配せした後その場から
和正諸共姿を消した。
ああ、能力を使ったのか。そんな事を考えながら、僕は清水さんに指示を出す。
「清水さん、誠と山野をお願いします」
「分かりました!」
こんな状況でビビっているかと思っていたが、清水さんは頷くとすぐに誠と山野の
救助に向かう。
凄いなこの子と思いながらも、僕は兎を見据える。兎は僕を見ると、ヒヒッと
笑って言った。
「オマエガイチバン、ウマソウナニオイ」
「は・・・?」
兎は気味の悪い笑顔を浮かべたまま、僕に近付く。踏み込んでもギリギリ木刀が
届かない位置で止まった兎は、ヒヒヒッと笑う。
どうやって攻撃を当てようかと考えていると、突然兎が飛び上がった。その直後、
発砲音が聞こえる。
弾を避け、スタッと着地した兎はニヤリと笑って言った。
「オマエハ、アト。オンナガ、サキダ」
「待っ・・・!」
兎は恐ろしい脚力で、誠をおぶって山野の元へ駆ける清水さんに飛び掛かる。
兎を避けようとした清水さんがバランスを崩して転ぶと、すかさず兎は大きく
口を開けた。
僕が慌てて兎に斬りかかろうと跳び上がると、兎はその体勢のまま後ろ脚だけ
上げて蹴ろうとする。その時、僕の頬をナイフが掠めた。
「ギャッ」
声を上げて、兎が動きを止める。見ると兎の後ろ脚には先程僕の頬を掠めた
ナイフが突き刺さっており、すかさず僕はその脚に木刀を振り下ろした。
「ギャンッ!」
兎はかなり痛そうに顔を歪めると、僕を睨みつける。清水さんはその隙に立ち
上がり、山野の元へ辿り着いた。
兎から距離を取り、今のナイフは・・・とちらりと山野を見る。山野は頭から
血を流しながらもニヤリと笑って僕を見た。
「何だ山霧、お前さっきから碌に攻撃できてねえじゃねえか。妖だからって、手加減
でもしてんのか?おい」
完全に煽ってやがる。普段なら適当に言い返しているが、今の僕はまともに攻撃
できていないもどかしさからか、気が立っていた。
「・・・ああ?」
僕が山野を睨むと、山野は馬鹿にしたように笑って言った。
「違うってんならさっさと殺れよ。・・・ああ、さてはお前そこまで強くねえな?」
本当にこいつは・・・!
イライラしながら、僕は山野に向かって叫んだ。
「うるっせえ!お前後でぜってーぶん殴る!!」
何処かから、和正の溜息が聞こえた。
「ヤッパリ、オマエガサキ」
兎はそう呟くと、一瞬で僕の目の前へと詰め寄る。
僕を齧ろうと開けた口に、木刀を差し込む。時間稼ぎにしかならないことは
分かっていたが、兎の顔からナイフを引き抜くには十分だった。
「和正、威力上げて後ろ脚!晴樹は残った片目潰せ!」
僕の指示に従い、何もないように見える空間からパンッと音がする。弾は見事に
命中し、兎は叫び声をあげた。
おそらく、こいつの弱点は後ろ脚。視界の情報は絶った、なら後は・・・。
「彩音!曹灰出してくれ!」
「分かったわ!行って、曹灰!」
彩音が曹灰を出し、僕の元へ向かわせる。
「曹灰、そこに向かって大きな声で鳴けるか?」
僕が兎の耳を指さして聞くと、曹灰はピイィと鳴いて兎の耳元へ飛び上がる。
兎は脚が痛いのか、動こうとしない。そういえばと思い出し、僕は山野の方を見て
叫んだ。
「山野!腕動かせるんなら誠の耳塞げ!!」
「命令すんじゃねえ!」
山野はそう言いつつも、誠の頭に生えている耳に手を当てる。ちゃんと耳の位置
理解してるのか・・・と感心しながらも、僕は兎の頭へ跳び上がり、曹灰の居ない
方の耳にナイフを突き立てた。それと同時に曹灰が大きな声でピイィィと鳴く。
「ギャアアアアア!!!!」
兎はその場でのた打ち回り、鼻の力だけで僕を必死に探そうとする。
「くっそ、夜月無いと調子狂うな・・・」
僕はそう呟きつつ、誠を見る。誠は目を覚まし治癒術で自分の怪我を治していた
が、腕はまだ垂れ下がったままだった。
誠には頼めない、そう思った僕は晴樹と和正に言った。
「晴樹、和正・・・任せていいか?」
すると僕の横の空間がぐにゃりと曲がり、晴樹と和正が姿を現す。
「・・・静兄、後ろ脚だよね?」
「ああ、任せた」
「じゃあ俺右、晴樹は左な」
「・・・分かった」
和正の言葉に晴樹はちょっと嫌そうな顔をしつつも頷く。
兎が僕達に気付いたのか体を動かそうとした瞬間、二人は同時に引き金を引いた。
銃声と共に、兎が倒れ込む。ピクリと痙攣した後、兎は動かなくなった。
兎はそう言うと、大きな口を開けて誠の頭に齧り付こうとする。その時、兎の目に
ナイフが刺さった。
「下がってろ狗神!」
山野がそう言って、手に持ったナイフとフォークを次々に兎目掛けて投げる。
山野の能力により自由自在に宙を駆けるそれらは、ブスリと兎の顔に突き
刺さった。
「ギャッ!」
そう叫んだ兎の顔は血塗れで、普通の動物ならとうに命を落としているだろう。
だが、流石は妖と言うべきか。兎は後ろ脚で思いっきり誠を蹴り飛ばすと、僕の
隣を駆け抜け、山野の前で大きな口を開けた。和正と晴樹が発砲するも、何故か
兎は動じない。
「山野!!」
僕は後ろから兎に斬りかかる。木刀なので刀ほどの威力はないが、確かに手応えを
感じた。
兎は動きを止め、僕をちらりと見る。来るか?と思い木刀を構えると、兎は目にも
止まらぬ速さで山野を蹴り飛ばした。
壁に打ち付けられ、山野は呻き声をあげた後動かなくなる。
「・・・うっそだろ」
和正が呟く声が聞こえる。晴樹は何かを察したのか、僕に目配せした後その場から
和正諸共姿を消した。
ああ、能力を使ったのか。そんな事を考えながら、僕は清水さんに指示を出す。
「清水さん、誠と山野をお願いします」
「分かりました!」
こんな状況でビビっているかと思っていたが、清水さんは頷くとすぐに誠と山野の
救助に向かう。
凄いなこの子と思いながらも、僕は兎を見据える。兎は僕を見ると、ヒヒッと
笑って言った。
「オマエガイチバン、ウマソウナニオイ」
「は・・・?」
兎は気味の悪い笑顔を浮かべたまま、僕に近付く。踏み込んでもギリギリ木刀が
届かない位置で止まった兎は、ヒヒヒッと笑う。
どうやって攻撃を当てようかと考えていると、突然兎が飛び上がった。その直後、
発砲音が聞こえる。
弾を避け、スタッと着地した兎はニヤリと笑って言った。
「オマエハ、アト。オンナガ、サキダ」
「待っ・・・!」
兎は恐ろしい脚力で、誠をおぶって山野の元へ駆ける清水さんに飛び掛かる。
兎を避けようとした清水さんがバランスを崩して転ぶと、すかさず兎は大きく
口を開けた。
僕が慌てて兎に斬りかかろうと跳び上がると、兎はその体勢のまま後ろ脚だけ
上げて蹴ろうとする。その時、僕の頬をナイフが掠めた。
「ギャッ」
声を上げて、兎が動きを止める。見ると兎の後ろ脚には先程僕の頬を掠めた
ナイフが突き刺さっており、すかさず僕はその脚に木刀を振り下ろした。
「ギャンッ!」
兎はかなり痛そうに顔を歪めると、僕を睨みつける。清水さんはその隙に立ち
上がり、山野の元へ辿り着いた。
兎から距離を取り、今のナイフは・・・とちらりと山野を見る。山野は頭から
血を流しながらもニヤリと笑って僕を見た。
「何だ山霧、お前さっきから碌に攻撃できてねえじゃねえか。妖だからって、手加減
でもしてんのか?おい」
完全に煽ってやがる。普段なら適当に言い返しているが、今の僕はまともに攻撃
できていないもどかしさからか、気が立っていた。
「・・・ああ?」
僕が山野を睨むと、山野は馬鹿にしたように笑って言った。
「違うってんならさっさと殺れよ。・・・ああ、さてはお前そこまで強くねえな?」
本当にこいつは・・・!
イライラしながら、僕は山野に向かって叫んだ。
「うるっせえ!お前後でぜってーぶん殴る!!」
何処かから、和正の溜息が聞こえた。
「ヤッパリ、オマエガサキ」
兎はそう呟くと、一瞬で僕の目の前へと詰め寄る。
僕を齧ろうと開けた口に、木刀を差し込む。時間稼ぎにしかならないことは
分かっていたが、兎の顔からナイフを引き抜くには十分だった。
「和正、威力上げて後ろ脚!晴樹は残った片目潰せ!」
僕の指示に従い、何もないように見える空間からパンッと音がする。弾は見事に
命中し、兎は叫び声をあげた。
おそらく、こいつの弱点は後ろ脚。視界の情報は絶った、なら後は・・・。
「彩音!曹灰出してくれ!」
「分かったわ!行って、曹灰!」
彩音が曹灰を出し、僕の元へ向かわせる。
「曹灰、そこに向かって大きな声で鳴けるか?」
僕が兎の耳を指さして聞くと、曹灰はピイィと鳴いて兎の耳元へ飛び上がる。
兎は脚が痛いのか、動こうとしない。そういえばと思い出し、僕は山野の方を見て
叫んだ。
「山野!腕動かせるんなら誠の耳塞げ!!」
「命令すんじゃねえ!」
山野はそう言いつつも、誠の頭に生えている耳に手を当てる。ちゃんと耳の位置
理解してるのか・・・と感心しながらも、僕は兎の頭へ跳び上がり、曹灰の居ない
方の耳にナイフを突き立てた。それと同時に曹灰が大きな声でピイィィと鳴く。
「ギャアアアアア!!!!」
兎はその場でのた打ち回り、鼻の力だけで僕を必死に探そうとする。
「くっそ、夜月無いと調子狂うな・・・」
僕はそう呟きつつ、誠を見る。誠は目を覚まし治癒術で自分の怪我を治していた
が、腕はまだ垂れ下がったままだった。
誠には頼めない、そう思った僕は晴樹と和正に言った。
「晴樹、和正・・・任せていいか?」
すると僕の横の空間がぐにゃりと曲がり、晴樹と和正が姿を現す。
「・・・静兄、後ろ脚だよね?」
「ああ、任せた」
「じゃあ俺右、晴樹は左な」
「・・・分かった」
和正の言葉に晴樹はちょっと嫌そうな顔をしつつも頷く。
兎が僕達に気付いたのか体を動かそうとした瞬間、二人は同時に引き金を引いた。
銃声と共に、兎が倒れ込む。ピクリと痙攣した後、兎は動かなくなった。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
ここは貴方の国ではありませんよ
水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。
厄介ごとが多いですね。
裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。
※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。
婚約破棄からの断罪カウンター
F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。
理論ではなく力押しのカウンター攻撃
効果は抜群か…?
(すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる