異能力と妖と

彩茸

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聖夜祭編

木刀

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―――保護学級の子供達が居なくなったことを確認すると、山野が僕を見て言った。

「・・・おい山霧、お前が呼んだんじゃねえだろうな」

「そんな事する訳ないじゃないですか」

「イイニオイ・・・ヒヒッ」

 僕と山野が話している最中に、そんな声が聞こえた。声が聞こえた方を見ると、
 割れた窓から中を覗く大きな兎の姿があった。

「オマエラカラ、イイニオイ」

 兎はそう言って僕達を見てニヤリと笑う。そして兎は自動車大の巨体を揺らすと、
 壁を壊して中に入って来た。

「なんつーパワーだよ・・・」

 和正がそう言いながら数歩下がる。

「このニオイ・・・。ねえ兎さん、食べたの?」

 誠が兎を睨みつけると、兎はヒヒヒッと笑って言った。

「オトトイハ、ヒトリ。キノウハ、サンニン。・・・キョウハ、ナナニン?」

「私達を食べる気なのね・・・」

 彩音はそう言って胸ポケットから紙を取り出し、息を吹き掛ける。独りでに動き
 出した紙は、やがて黒い狼の姿へと変わった。

「藍晶、ちょっと大きいけどやれるわね?」

 彩音の言葉に藍晶はワン!と鳴く。
 駆け出した藍晶はすばしっこく動き回り、兎の気を引き付けていた。

「藍晶だけじゃ大変でしょ、ボクも手伝うよ」

 誠がそう言って藍晶の元へ駆け出す。
 僕も何かできる事は・・・と考えていると、晴樹が銃を構えながら僕を見た。

「・・・静兄、武器は?」

「いや、持ち歩いてる訳ないだろ・・・」

 僕がそう答えると、清水さんが言った。

「山霧くんのお兄さん、普段何の武器使ってるんですか?」

「え、妖刀ですけど・・・」

 清水さんは少し考えた後、部屋の隅を指さして山野に言った。

「山野先輩、あそこの段ボール貰って良いですか?」

「ああ、構わないが・・・」

 山野が頷くと、清水さんは部屋の隅に積んであった段ボール箱の山へ向かって
 駆け出す。何をするつもりなんだろうと見ていると、清水さんが手で触れた
 段ボール箱がみるみるうちに木刀へと変化した。
 木刀を持って戻って来た清水さんは僕にそれを差し出すと、ニコッと笑って
 言った。

「私の能力、元が木であれば何でもこんな感じにできちゃうんです!」

 面白い能力だなと思いながら木刀を受け取り、僕は言った。

「ありがとうございます。・・・えっと、これの耐久って」

「普通の木刀並はありますよ!」

 清水さんの言葉に、思わず凄っ・・・と呟く。嬉しそうに笑う清水さんを見て、
 晴樹が少し不機嫌そうな顔をした。

「そういや山野、お前武器どうすんだ?鉄球持ち歩いてるのか?」

 和正がそう言うと、山野はテーブルの上にあった金属製のナイフとフォークを手に
 取って和正を見る。

「オレはこれで良い。・・・日野、お前こそどうするんだ」

「普通に燃やそうかなって考えてたんだけど・・・」

「馬鹿か、ここは訓練室ほど丈夫じゃねえんだぞ。火事になったらどうする」

 山野の言葉に和正は言われてみれば・・・と困った顔をする。
 どうしようと悩んでいる和正に、晴樹が言った。

「・・・和正くん。僕の桜、貸してあげる。・・・壊したらぶっ殺す」

「え、マジで?!ありがとな、晴樹!」

 和正は嬉しそうな顔で晴樹から銃を受け取る。
 晴樹と和正は照準を兎の頭に定めると、同時に引き金を引いた。パンッという音が
 鳴り、兎の頭から血飛沫が上がる。

「ヒヒッ」

 頭から血を流す兎はニヤリと笑うと、後ろ脚で藍晶を蹴り飛ばした。
 キャインという声と共に、壁に打ち付けられた藍晶はぐったりと横たわる。

「藍晶!!」

 彩音が慌てて藍晶の元へ向かうと、それを狙っていたかのように兎は彩音目掛けて
 口を開けた。

「彩音!」

 即座に僕が飛び出すも、兎の方が素早かった。間に合わないと思った瞬間、誠が
 彩音と兎の間に割り込んだ。
 誠の片腕が、兎の歯によってグシャリと音を立てる。誠は痛みに顔を顰めつつ、
 叫んだ。

「逃げて!!」

 彩音は慌てて藍晶を紙の状態に戻し、兎から距離を取る。
 兎はというと、ぷらんと垂れた腕から血を流す誠をニヤニヤとした顔で見ていた。
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