異能力と妖と

彩茸

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夏祭編

西瓜

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―――僕と晴樹は一緒に山を下りる。途中で中妖怪が襲ってきたが、二人で難なく
倒した。
家に着くと、誠と和正が心配そうな顔をして飛び出してきた。

「静くん、何処か行くならメモくらい残してよ!」

「すっげー心配したんだぞ?」

 誠と和正にそう言われ、あはは・・・と苦笑いで頭を掻く。

「・・・僕が、何も言わずに出て行っちゃったから。静兄、探しに来てくれて」

 晴樹が俯きがちに言う。そして誠と和正の顔を見ると、バッと頭を下げて言った。

「僕が悪いんだ。だから・・・ごめんなさい」

 誠と和正は慌てて晴樹に頭を上げさせる。

「大丈夫、無事なら良いんだ、うん!!」

「ご飯、ご飯食べよ、ねっ?」

 和正と誠がそう言って僕達の背中を押し、居間へ移動させる。
 机の前に座った僕達に、和正が朝食を持って来た。

「朝食作り、誠が手伝ってくれたんだ。・・・この繋がってるネギは、誠が切った
 やつな」

 そう言いながら、和正は僕の前に味噌汁を置く。見ると、確かに中に入っている
 ネギの約半分は繋がっていた。
 ちらりと誠を見ると、目が合った誠は恥ずかしそうに笑う。

「・・・心配かけて、ごめんな。・・・・・・ありがとう」

 僕がそう言うと、和正と誠は微笑みながら頷いた。
 いただきますと言って味噌汁を飲む。その味噌汁は何だか少ししょっぱくて、心が
 温まるような味がした。



―――夏休みの残りの期間を使って、僕は天狗さんに協力してもらいながら晴樹の
月陰学園への入学手続きを進める。
前の中学校には天狗さんが話を付けていたらしく、晴樹も僕と同じで家の都合で転校
という事になっていた。
書類を提出するために一旦学園へ戻ったとき偶然彩音と会ったので、もう一度家に
戻ることを伝える。すると彩音が付いて行くと言い出し、彩音の圧に負けて一緒に
家に戻った。

「静也ー、スーパーから帰る途中で高田に会ってさ。これ貰ってくれって渡されたん
 だけ・・・うおっ、彩音?!!何で居んの?!」

 買い出しに行ってくれていた和正が、彩音を見て驚きの声を上げる。

「静くん、彩音の圧に負けたんだって~」

「静也が家に帰るって言ったから、付いて来たのよ」

 僕が誠と彩音の言葉に頷くと、和正はなるほどと頷いた。

「高田から何貰ったって?」

 僕がそう聞くと、和正は買い物袋からスイカを取り出す。

「実家で沢山できたらしくて、配り歩いてたんだってさ。味は保証するって言ってた
 ぜ?」

 和正がそう言って僕にスイカを渡してくる。

「・・・え、何で渡されたんだ」

 困惑する僕に、和正はニッコリと笑って言った。

「俺、刀でスイカ斬るの見てみたい」

 馬鹿か?と言いそうになったが、溜息で誤魔化す。晴樹が呆れた目で和正を見て
 いた。

「妖刀でスイカ割りって初めて聞くな~。静くん、ボクも見たい!」

 そう言って誠がキラキラとした目で僕を見る。彩音もワクワクした顔で見てきた
 ため、僕は深い溜息を吐くと夜月とスイカを持って庭に出た。

「・・・静兄、シートここに敷くね」

「ああ、ありがとう」

 晴樹が敷いたレジャーシートの上にスイカを置く。和正達の期待の眼差しの中、
 僕はスイカに向かって夜月を振り下ろした。
 スパッとスイカが切れる。綺麗に半分に割れたスイカを見て、和正達は感嘆の声を
 上げた。

「夜月でスイカ割りしたなんて知られたら、凄い怒られそうだな・・・」

 庭の端にあるお墓を見ながら僕が呟くと、割ったスイカを包丁で切り分けていた
 晴樹が言った。

「多分、大丈夫。・・・お父さんが昔、裏山に生ってた果物を桜使って撃ち落として
 たの見たし」

 父さん、退魔の銃で果物撃ち落としてたのかよ・・・。

「晴くん、お皿忘れてるよー」

 誠がそう言いながら人数分の皿を持って来る。
 誠は僕達の前まで来た時、耳をピクリと動かしてお墓の方を見た。そして首を傾げ
 ながら、僕達の方を見て言った。

「・・・今、笑い声聞こえなかった?」

「怖い事言うなよ・・・」

「空耳だと思うけど・・・」

 僕と晴樹がそう言うと、誠はそっかあと言ってスイカを皿に乗せる。
 皆で縁側に腰掛けて食べたスイカはとても甘く、初めて高田に感謝したのだった。
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