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夏祭編
失踪
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―――夏祭りを楽しんだ僕達は、その日ぐっすりと眠った。
次の日、目を覚ました僕は隣で寝ていたはずの晴樹の姿が無いことに気付く。
「晴樹・・・?」
嫌な予感がし、慌てて僕は晴樹を探す。玄関に行くと、靴が無かった。
和正と誠に手伝ってもらうという考えが浮かぶ前に、僕は夜月を持って家を飛び
出していた。
「晴樹、何処だ?!」
声を掛けても返事がない。不安の中、僕は気配を探る。
・・・近くに晴樹の気配は無い。じゃあ裏山か?と僕は走り出す。
「なあ、晴樹見てねえか?!」
途中ですれ違った小妖怪達に尋ねると、僕の周りをふよふよと漂いながら言った。
「見タ、見タ!」
「晴樹、山頂ノ方ニ登ッテ行ッタヨ?」
「山頂付近ハ凶暴ナ妖多イノニ、何デダロウネ?」
「分かった、ありがとな!!」
小妖怪達の証言で、晴樹が山頂の方に居るのは分かった。何でそんな所にと思い
ながらも、僕は走る。
無事でいてくれ、その思いが限界を迎えそうな僕の足を動かし続けていた。
―――息も絶え絶えに僕は山頂へ辿り着く。
肩で息をする僕の目に飛び込んできたのは、見知らぬ妖達の死骸の上に腰掛ける
晴樹の姿だった。
「・・・あれ、静兄?何でここに居るの?」
晴樹が僕を見て首を傾げる。僕は息を整えると、晴樹に言った。
「何ではこっちの台詞だ!何も言わずに出て行くなよ、心配するだろうが!!」
晴樹は俯くと、小さな声でごめんと謝る。そして立ち上がると、腰掛けていた妖を
気にすることなく僕に近付く。
「・・・あれ、何があったんだ?」
僕が妖達の死骸を指さすと、晴樹はそれをちらりと見て言った。
「山を登ってたら、襲われたから。正当防衛」
正当防衛にしては、しっかりと息の根を止めているようにも思えるが。
「あー・・・まあ、晴樹が無事で良かったよ」
「僕だって、丸腰で来たりはしないよ。・・・戦い方は、落魅が教えてくれたし」
そう言った晴樹の目は、少し悲しそうだった。
「・・・なあ、どうしてここに来たんだ?」
僕が聞くと、晴樹は小さな声で言った。
「・・・・・・夢を見たんだ」
「夢?」
「・・・僕を庇ったお父さんが目の前で倒れて、叫んだお母さんがお腹を抉られて。
逃げろって言われて・・・必死に、ここまで走る夢」
「それって、あの日の・・・?」
僕の言葉に小さく頷いた晴樹は、僕の袖を掴んでその場に座る。つられて僕も
座ると、晴樹はぽつりぽつりと話し始めた。
「・・・柊と別れた後、家に帰ってゴロゴロしてたんだ。そしたら、扉をノックする
音が聞こえて。・・・僕、誰だろうって扉を開けちゃって。目の前に立ってた妖
が、鋭い爪で襲い掛かって来て・・・当たるって思って目を瞑ったら、お父さんが
庇ってくれてたんだ。お父さん、背中から血を流しながら、逃げろって叫んでて。
居間から出て来たお母さんが叫んで、それで、それで・・・!」
話しながらカタカタと震えだす晴樹を、そっと抱きしめる。そして父さんがよく
してくれていたように、晴樹の頭を優しく撫でる。
「大丈夫。ゆっくり、ゆっくりで良いから・・・」
僕が頭を撫でながらそう言うと、晴樹はコクリと頷いて少し震えながらも口を
開いた。
「・・・お母さんが、お腹を尻尾で抉られて。僕、逃げなきゃって思って、桜と紅葉
を持って裏山を登ったんだ。静兄達が遊んでるから、もしかしたら会えるかも
しれないと思ってた。・・・でも、誰にも会わなかった」
あの時、僕達は天春の妖術で家に戻った。もしかしたら、家に着いた直後に晴樹が
違う所から外に出ていたのかもしれない。
家に晴樹の二丁拳銃・・・桜と紅葉が無かったのは、やはり晴樹が持って出ていた
からだったのか。
「・・・晴樹はその後、どうしたんだ?」
僕がそう聞くと、晴樹は淡々と答えた。
「その後・・・裏山を彷徨ってたら夜になって。どうしようって思ってたら・・・
落魅が、声を掛けてきたんだ。『あっしと一緒に来れば、親の仇も取ってあげやす
が・・・どうですかい?』って。・・・だから僕は、落魅に付いて行った。後は、
静兄と再会した時に言った通り」
「そっか・・・」
僕は晴樹の頭を撫で続ける。晴樹の震えはいつの間にか止まっていた。
「・・・目が覚めて、隣に静兄がいて。でも、何だか現実だって思えなくて。ここに
来たら分かるかなって、思って・・・」
ごめんなさいと晴樹は小さく呟く。僕は晴樹の顔を見て微笑み、言った。
「僕は、ここに居る。・・・今、ここで約束しよう。僕は晴樹が望む限り、何処かに
行ったりしない。だから・・・晴樹も、僕を信じて一緒に居てくれないか?」
晴樹は泣きそうな顔になると、僕の服に顔を埋めて言った。
「うん、約束・・・!」
次の日、目を覚ました僕は隣で寝ていたはずの晴樹の姿が無いことに気付く。
「晴樹・・・?」
嫌な予感がし、慌てて僕は晴樹を探す。玄関に行くと、靴が無かった。
和正と誠に手伝ってもらうという考えが浮かぶ前に、僕は夜月を持って家を飛び
出していた。
「晴樹、何処だ?!」
声を掛けても返事がない。不安の中、僕は気配を探る。
・・・近くに晴樹の気配は無い。じゃあ裏山か?と僕は走り出す。
「なあ、晴樹見てねえか?!」
途中ですれ違った小妖怪達に尋ねると、僕の周りをふよふよと漂いながら言った。
「見タ、見タ!」
「晴樹、山頂ノ方ニ登ッテ行ッタヨ?」
「山頂付近ハ凶暴ナ妖多イノニ、何デダロウネ?」
「分かった、ありがとな!!」
小妖怪達の証言で、晴樹が山頂の方に居るのは分かった。何でそんな所にと思い
ながらも、僕は走る。
無事でいてくれ、その思いが限界を迎えそうな僕の足を動かし続けていた。
―――息も絶え絶えに僕は山頂へ辿り着く。
肩で息をする僕の目に飛び込んできたのは、見知らぬ妖達の死骸の上に腰掛ける
晴樹の姿だった。
「・・・あれ、静兄?何でここに居るの?」
晴樹が僕を見て首を傾げる。僕は息を整えると、晴樹に言った。
「何ではこっちの台詞だ!何も言わずに出て行くなよ、心配するだろうが!!」
晴樹は俯くと、小さな声でごめんと謝る。そして立ち上がると、腰掛けていた妖を
気にすることなく僕に近付く。
「・・・あれ、何があったんだ?」
僕が妖達の死骸を指さすと、晴樹はそれをちらりと見て言った。
「山を登ってたら、襲われたから。正当防衛」
正当防衛にしては、しっかりと息の根を止めているようにも思えるが。
「あー・・・まあ、晴樹が無事で良かったよ」
「僕だって、丸腰で来たりはしないよ。・・・戦い方は、落魅が教えてくれたし」
そう言った晴樹の目は、少し悲しそうだった。
「・・・なあ、どうしてここに来たんだ?」
僕が聞くと、晴樹は小さな声で言った。
「・・・・・・夢を見たんだ」
「夢?」
「・・・僕を庇ったお父さんが目の前で倒れて、叫んだお母さんがお腹を抉られて。
逃げろって言われて・・・必死に、ここまで走る夢」
「それって、あの日の・・・?」
僕の言葉に小さく頷いた晴樹は、僕の袖を掴んでその場に座る。つられて僕も
座ると、晴樹はぽつりぽつりと話し始めた。
「・・・柊と別れた後、家に帰ってゴロゴロしてたんだ。そしたら、扉をノックする
音が聞こえて。・・・僕、誰だろうって扉を開けちゃって。目の前に立ってた妖
が、鋭い爪で襲い掛かって来て・・・当たるって思って目を瞑ったら、お父さんが
庇ってくれてたんだ。お父さん、背中から血を流しながら、逃げろって叫んでて。
居間から出て来たお母さんが叫んで、それで、それで・・・!」
話しながらカタカタと震えだす晴樹を、そっと抱きしめる。そして父さんがよく
してくれていたように、晴樹の頭を優しく撫でる。
「大丈夫。ゆっくり、ゆっくりで良いから・・・」
僕が頭を撫でながらそう言うと、晴樹はコクリと頷いて少し震えながらも口を
開いた。
「・・・お母さんが、お腹を尻尾で抉られて。僕、逃げなきゃって思って、桜と紅葉
を持って裏山を登ったんだ。静兄達が遊んでるから、もしかしたら会えるかも
しれないと思ってた。・・・でも、誰にも会わなかった」
あの時、僕達は天春の妖術で家に戻った。もしかしたら、家に着いた直後に晴樹が
違う所から外に出ていたのかもしれない。
家に晴樹の二丁拳銃・・・桜と紅葉が無かったのは、やはり晴樹が持って出ていた
からだったのか。
「・・・晴樹はその後、どうしたんだ?」
僕がそう聞くと、晴樹は淡々と答えた。
「その後・・・裏山を彷徨ってたら夜になって。どうしようって思ってたら・・・
落魅が、声を掛けてきたんだ。『あっしと一緒に来れば、親の仇も取ってあげやす
が・・・どうですかい?』って。・・・だから僕は、落魅に付いて行った。後は、
静兄と再会した時に言った通り」
「そっか・・・」
僕は晴樹の頭を撫で続ける。晴樹の震えはいつの間にか止まっていた。
「・・・目が覚めて、隣に静兄がいて。でも、何だか現実だって思えなくて。ここに
来たら分かるかなって、思って・・・」
ごめんなさいと晴樹は小さく呟く。僕は晴樹の顔を見て微笑み、言った。
「僕は、ここに居る。・・・今、ここで約束しよう。僕は晴樹が望む限り、何処かに
行ったりしない。だから・・・晴樹も、僕を信じて一緒に居てくれないか?」
晴樹は泣きそうな顔になると、僕の服に顔を埋めて言った。
「うん、約束・・・!」
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