異能力と妖と

彩茸

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再会編

友達

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―――晴樹に彩音達を紹介した後、僕達は彩音が家から持って来てくれた稲荷寿司を
賽銭箱の前に座って食べる。晴樹は稲荷寿司が気に入ったらしく、すぐに二つ目に
手を出していた。

「ねえ静也、聞いて良いのか分からないんだけど・・・」

 ふと彩音が食べる手を止めて言う。

「何?」

 僕が聞くと、彩音は少し遠慮がちに言った。

「何か、雰囲気変わった・・・?」

「あー、えっと・・・」

 僕がどう説明しようか悩んでいると、晴樹がボソッと言った。

「・・・変わった。静兄、前はなんて言ってなかった」

「えっ・・・え????」

 彩音が困惑した声を上げる。
 彩音が言ったのは、夏休み前と今の僕の雰囲気が変わったという事。晴樹が言った
 のは、事件前と後で僕の一人称が雰囲気と共に変わったという事。時間軸が違う。
 困惑している彩音と稲荷寿司を頬張っている晴樹に、僕は言った。

「ごめん、ちゃんと説明するから・・・。えっと、彩音の方から答えると、色々
 あって吹っ切れたから友達の前では素でいようって決めた。だから、実を言うと
 本来の僕はこっち。晴樹の方は、その・・・」

「静兄?」

「・・・自分でも分からないんだ、ごめん」

 僕の言葉に、晴樹は俯く。彩音は質問の答えに納得したようで、なるほど・・・と
 呟いていた。

「そうじゃ、お主らも祭りに参加せぬか?」

 御魂がそう言って僕と晴樹を見る。

「我らが見える人間は少ないからの。折角じゃから我らの大仕事を見ていくと良い」

 宇迦がそう言ってニッコリと笑う。

「祭り・・・ってあれか?彩音が人手不足で帰った神事の・・・」

 僕が彩音に聞くと、彩音は頷いて答える。

「そうよ。年に一度のお祭りで、宇迦様と御魂様のお仕事を私達が手伝うの。毎年
 お母さんが舞を捧げていたんだけど、この前怪我しちゃったみたいで・・・」

「巫女の舞の有無で、我らの力も変わるからの。今年は娘巫女に頼むことにしたん
 じゃ」

 御魂がそう言って彩音を見る。彩音は少し恥ずかしそうにしながら言った。

「舞は毎年見てたけど、舞うのは初めてなの。・・・あ、屋台もいくつか出るみたい
 だから皆で来てよ」

「そうだな、和正と誠にも声を掛けとくよ」

 僕の言葉に晴樹はちょっと嫌そうな顔をしながら言った。

「・・・え、僕も行かなきゃ駄目?」

「いやまあ、どっちでも良いけど・・・」

 大方、人間が集まる場所に行きたくないのだろう。気にし過ぎだと言いたいが、
 今の晴樹にそんな事を言うのは気が引けた。

「晴樹とやら、その日は稲荷寿司も沢山振舞われるんじゃが・・・どうじゃ?」

 宇迦がそう言うと、晴樹は考え込む様子を見せる。そしてしばらく悩んだ後、
 頷いて言った。

「・・・行く。この稲荷寿司、美味しいし」

「兄弟揃って食べ物には目が無いのね・・・」

 彩音が小さく呟く。僕はただ、苦笑いを浮かべていた。



―――稲荷寿司を食べ終わった僕達は彩音、宇迦、御魂に別れを告げて、狗神の背に
乗りお堂へ戻る。
中に入ると皆起きており、丁度天狗さんが朝食を持って来た。

「二人は味噌汁だけかの?」

 天狗さんは夜宮神社で稲荷寿司を食べて帰ることを予測していたのか、そう僕と
 晴樹に声を掛ける。
 僕達が頷くと、分かったと言って台所へ戻って行った。

「は、晴樹!」

 天春が晴樹を呼び、二人でお堂の外へ出て行く。
 そういえば謝るって言ってたな・・・なんて思いつつ、僕は和正と誠の元へ
 向かった。

「おー静也、おはよう」

「静くんいっつも早起きだよね~」

 和正と誠がそう言ってあくびをする。寝起きらしき二人に僕は挨拶すると、話を
 切り出した。

「さっき夜宮神社に行ってさ。彩音とそこの神様に祭りに来ないかって誘われたん
 だけど、二人はどうする?」

 屋台も出るらしいと付け加えると、和正と誠は凄い勢いで頷いた。

「人の多い所に行くんだったら、ボクも変化しなきゃかなあ」

 誠がそう言って頭に生えている犬耳を触る。

「誠も変化できるんだ?」

 僕が聞くと、いつの間にか朝食を食べ始めていた狗神が言った。

「誠は下手じゃぞ、変化」

「そうなんですか?」

 和正がそう言って狗神を見る。狗神は頷くと、誠に言った。

「耳を消せたことが無いじゃろ、のう?」

 誠はムスッとした顔をした後、小さく言った。

「・・・耳は消せないけど、女の子にはなれるもん」

 中々の爆弾発言な気もするが、何も言わないでおこう・・・。そう思いながら
 和正を見ると和正も同じことを考えていたのか、微妙な顔で黙って誠を見ていた。

「変化なら、私が教えてあげようか?」

 僕達の会話を聞いていたらしい赤芽が、猫の姿のまま誠の頭の上に乗って言う。

「え、良いの?!」

 誠は嬉しそうな顔で頭上にいる赤芽に言う。赤芽は誠の頭から飛び降り、着地と
 同時に煙に包まれる。そしてその中から人間の少女となって現れた。
 おおーと拍手する和正と誠。赤芽は得意げな顔で誠に言った。

「私に任せなさい!」



―――その後、戻って来た笑顔の天春と無表情の晴樹も交え僕達は朝食を食べる。
狗神はさっさと食べ終わってまた何処かへ出かけて行き、天狗さんは何やら難しい顔
をしながらお堂の外へ出て行った。

「そういや、俺らまだ晴樹に自己紹介してなかったな」

 食後のお茶を飲みながら、和正が言う。晴樹は嫌そうな顔をしつつ言った。

「・・・別に興味ない」

「そ、そうか・・・」

 和正はそう言ってしゅんとする。隣で誠が慰めていると、晴樹が言った。

「そっちの犬耳は、気になる。・・・ついでに、聞いても良い」

 和正はパァッと嬉しそうな顔をする。それで良いのか和正。

「じゃあボクから言うね!ボクは狗神 誠、妖のクオーターだよ。よろしくね!!」

 誠がそう言うと、晴樹は少し驚いた顔をする。そして僕を見ると言った。

「静兄、狗神ってさっきの・・・?」

「ああ、あの妖の孫だよ。正確に言うと、狗神・・・さんは妖に分類されてる神様
 だけどな」

 僕の言葉に、晴樹はそうなんだと頷く。そして誠を見て言った。

「知ってると思うけど、僕は山霧 晴樹。・・・よろしく」

 晴樹によろしくと言われ、誠はかなり驚いた顔をする。そして確認するように、
 晴樹に言った。

「えっと・・・ボクと、仲良くしてくれるの?」

 晴樹は小さく頷くと、誠の犬耳を見ながら言った。

「誠くんは、妖の血が入ってるから大丈夫。・・・あと、静兄の友達だし」

「ボク、妖方面で心を開いてもらうの初めてなんだけど・・・」

 誠が困惑の表情で僕を見る。まあ晴樹だしなあと僕は苦笑いを浮かべた。

「・・・で?そっちの人間は?」

 晴樹が嫌悪感を隠すことなく和正に言う。

「流石に失礼だぞお前・・・」

 僕がそう言うと、和正が笑って言った。

「まあ、話を聞いてもらえるだけでも俺は嬉しいよ!俺は日野 和正。よろしくな、
 晴樹!」

「・・・・・・」

「・・・晴樹」

 何も言わないままの晴樹に、僕は声を掛ける。すると晴樹は和正から目を逸らす
 と、小さな声で言った。

「・・・よろ、しく」

「おう!!」

 とても嬉しそうに笑う和正。誠もニコニコとしていた。
 ・・・大らかすぎやしないか。まあ、二人が良いなら良いか。
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