異能力と妖と

彩茸

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再会編

喧嘩

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「何の話をしてるんですかい?あっしも混ぜてくれやせんか」

 落魅の声にバッとそちらを見ると、落魅が地に伏したのっぺらぼうの頭を踏みつけ
 ながら笑っていた。

「なっ・・・?!」

 天春が驚愕の表情で落魅を見る。無理もない、大妖怪ののっぺらぼうが中妖怪の
 落魅に負けていたのだから。

「あっしらの目的は果たしました。このまま帰っても良いんですが・・・」

 落魅は僕と晴樹を交互に見ると、ニヤリと笑う。

「どうです、お兄さんもあっしらの仲間に加わりやせんか?」

「断る」

 落魅の提案に即答すると、落魅は少し残念そうに言った。

「そうですかい。付いて来れば、親の仇を取ってあげようと思ったんですが
 ねぃ・・・」

「あの頃のに言ってたら、付いて行ったかもな。・・・だけど、今の
 違う。僕には、僕を信じてくれた友達がいるから」

 そして僕はニッコリと笑うと、落魅に言った。

「丁重にお断りします。それと、両親を殺した妖は僕が殺します。邪魔しないで
 ください」

「・・・へえ、弟とは大違いだ。素直に言うこと聞いておけば、死なずに済んだ
 ものを」

 落魅はそう言うと、目にも止まらぬ速さで僕達に向かって来る。
 僕に来た攻撃を天春がすんでのところで受け止めて言った。

「静には傷一つ付けさせない!」

 赤芽が天春の横から落魅に攻撃を仕掛ける。落魅は余裕の表情でそれを躱すと、
 赤芽の鳩尾に思いっ切り蹴りを入れた。

「カハッ・・・」

 赤芽はそのまま飛ばされ、木に激突する。

「赤芽っ!!」

 天春が赤芽の方を見た隙に、落魅が天春を蹴り飛ばした。

「ぐっ・・・!」

 天春はよろめきながらもしっかりと落魅を見据え、小さく何かを呟いた。
 それと同時に突然起こった小さな竜巻が落魅の背後に迫る。落魅はそれを避け、
 クスリと笑うと晴樹に言った。

「晴樹、何をしているんですかい。手伝いなせえ」

 晴樹は頷くと、銃の引き金を引く。パンッと音がして、和正の頬を銃弾が掠めた。

「っ・・・!」

 和正は驚いた顔をしつつも、銃口を晴樹に向けて言った。

「静也、このままだと殺られるぞ」

「静くん・・・」

 誠が不安そうな顔で僕を見る。僕は深く息を吐くと、晴樹に言った。

「晴樹、喧嘩をしよう」

「・・・は?」

 晴樹は無表情のままだったが、困惑した声を上げる。和正と誠も僕を見る中、僕は
 夜月の切っ先を晴樹に向けて言った。

「・・・昔、武器を持ち出してまでやった大喧嘩を覚えてるか?あの時は父さんに
 こっぴどく怒られたけど、今はもういない。だから、晴樹。僕と・・・いや、
 喧嘩をしよう」

「・・・勝った方が、負けた方の言う事を聞く。良いよ、いつものルールに
 しようか」

 晴樹がそう言って両方の銃に弾を装填する。その間に僕は和正と誠に言った。

「二人は、天春の援護を。晴樹は僕だけで十分だ」

「分かった」

 二人は声を揃えて言うと、落魅と戦っている天春の元へ駆けて行く。

「晴樹、タイマンは効率が悪いんじゃありやせんか?」

 落魅が余裕そうな顔で天春の攻撃をいなしつつ、晴樹に言う。

「・・・これは、僕と静兄の勝負だ。邪魔しないで」

 晴樹がそう言って落魅を見る。落魅は少し驚いた顔をした後、ニヤリと笑って
 言った。

「良いんですかい?あっしに口答えして」

 晴樹はビクリと肩を震わせる。ずっと無表情だった晴樹の顔が、少しだけ怯えた
 ものになった。
 ・・・落魅は、晴樹に一体何をしたのだろう。もしかしたら、晴樹は今よりも
 落魅に従順じゃなかったのかもしれない。それを落魅は、恐怖で・・・。

「・・・僕はお前を許さない。力ずくでも晴樹は返してもらう」

 僕はそう言って落魅を睨みつける。落魅はつまらなさそうな顔をして言った。

「兄貴面ですかい?お兄さん。・・・まあ良いでしょう、兄弟喧嘩くらいは大目に
 見てあげやす」

 落魅は晴樹から視線を外すと、和正の弾を避けつつ誠の攻撃を受け止めた。天春の
 追撃もいなし、余裕の立ち回りを見せる。
 彼らの戦いを見ていると、晴樹が言った。

「静兄、お待たせ。・・・やろうか」

「ああ。ルールはいつも通り、だったな?」

「うん。・・・じゃあ、始め」

 晴樹と僕は同時に駆け出す。僕は晴樹の撃ち方の癖を知っているため、晴樹も
 確実に弾を当てるため近付いたのだろう。
 身体能力だけで言えば、僕の方が上だ。だけど晴樹は僕よりも応用力に長けて
 いた。銃を二発同時に撃つと見せかけて片方だけしか撃たない。僕が弾数を数えて
 いることも分かっているのだろう。僕の攻撃の隙を突いてリロードしたりと、
 かなり頭を使わせてくる。
 この喧嘩のルールは簡単。能力は使わない、どちらかが降参するか倒れたら
 終わり、勝った方が負けた方の言う事を聞く。
 滅多に喧嘩をせず、したとしても口論程度だった僕達が、互いの意見を絶対に
 曲げたくない時にだけやっていた喧嘩のルール。
 こんな喧嘩はいつぶりだろう?少なくとも武器を使っての喧嘩はこれで二度目だ。

「・・・射撃、上手くなったな」

 僕がそう言うと、晴樹は攻撃の手を止めずに言った。

「練習したから。・・・静兄も、身のこなしが良くなったね」

「経験積んだからな」

 僕達はひたすら攻防を繰り返す。互いの隙を見つけ出し、攻撃する。僕達の体は
 傷だらけになっていた。
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