異能力と妖と

彩茸

文字の大きさ
上 下
62 / 203
再会編

情報

しおりを挟む
―――少し時は経ち、夏休み。天狗さんから話があるから帰って来いと連絡があった
ので、僕は地元へ帰省する。
今回は天春に迎えに来てもらい、付いて来る気満々の和正と誠を連れて家に帰った。

「静、あの二人連れて来ちゃって良かったの?」

 庭で和正と誠が赤芽と談笑しているのを見ながら、天春が小さな声で僕に言う。

「まあ、前の帰省の時に晴樹の事を赤芽が話しましたからね。誠が実家に帰った
 後も和正とは何度か僕の家族について話しましたし、関係ないって断る訳にも
 いかず・・・」

「静が良いなら良いんだけどさ・・・」

 天春はそう言った後、少し躊躇うように口を開いた。

「・・・ねえ、静。静は、まだ僕達と素で話すのが?」

「えっと・・・どういう事ですか?」

 天春が言っている意味がよく分からず、僕は首を傾げる。

「僕ね、静が帰って来てからずっと考えてたんだ。何で静は、ずっと一緒にいた僕と
 赤芽にもそんな話し方になっちゃったんだろうって。・・・お父さんから静達が
 のっぺらぼうと戦ったときの話を聞いて、僕気付いたんだ」

 天春はそう言って僕の目を見ると、悲しそうな声で言った。

「・・・静は、僕達を信じるのが怖い?」

 ズキリと心が痛んだ。
 怖い・・・そうか、怖いんだ。失ったりしない、独りには戻らない、こいつなら
 大丈夫だって信じる事が、きっと僕は怖いんだ。
 のっぺらぼうと戦ったあのとき、和正に信じてると言われて、僕も信じようと
 思って・・・って、あれ?何でそう思ったんだろう?
 分からない、頭の中がグチャグチャになる。
 何も言えないままの僕を見て、天春は言った。

「意地悪な事言っちゃったね。・・・ごめんね」

 天春は赤芽達の所へ歩いて行く。何か言わなきゃと天春の腕を掴むが、言葉が出て
 こない。

「静・・・?」

 天春が心配そうに声を掛けてくる。今手を離したら天春がどこか遠くへ行って
 しまいそうな気がして、掴む手に力を籠める。
 何か言わなきゃ。何か、何か、何か・・・。

「・・・天春は、僕を信じてくれますか?」

 震える声で僕は言う。自分でも何故そんな事を言ったのか分からない。
 その時、ぐにゃりと視界が歪んだ。突然全身の力が抜けた僕は、地面に倒れ込む。
 暗くなる視界の中、僕の名前を呼ぶ天春の声が聞こえた。



―――目を覚ますと、目の前に天狗さんの顔があった。

「?!!」

 驚いて僕は上体を起こす。周りを見ると、天春、赤芽、誠、和正、そして狗神が
 いた。

「あれ、僕は・・・」

 僕が呟くと、赤芽が心配そうに言った。

「あんた家で倒れたのよ、覚えてないの?」

 その言葉に辺りを見渡すと、どうやらここは霧ヶ山のお堂のようだった。

「熱中症じゃないかって、お父さんが」

 天春がそう言って天狗さんを見る。天狗さんは僕の額に手を当てると言った。

「熱はなさそうだ、安静にしていなさい」

 僕は頷き、心配そうな顔をしている誠と和正を見た。

「すみません、心配かけてしまって」

 僕がそう言うと、二人はブンブンと首を横に振る。

「・・・山霧の。どうしてこの二人を連れて来た」

 狗神が誠と和正をちらりと見て言う。

「ボク達が付いて行きたいって言ったんだ!」

「ワシは山霧のせがれに聞いてるんじゃ。・・・何故連れて来た」

 誠の言葉に狗神はそう言うと、少し睨むように僕を見る。

「・・・別に、隠す事でもないんです。晴樹の話は二人も知っています。断る理由も
 ないので、連れて来ただけです」

 僕がそう言うと、狗神は溜息を吐く。そして懐から折りたたまれた紙を取り出す
 と、僕に渡して言った。

「じゃあ、遠慮なくこの場で話をしよう。・・・まず一つ、お主の弟の目撃証言が
 あった。そしてもう一つ」

 狗神に紙を指さされ、僕は折りたたまれた紙を開く。そこに描いてあった絵に
 首を傾げる。

「これ・・・誰です?」

 紙に描かれていたのは着物を着た男性。ぱっと見人間だが、目にはグルグルと
 包帯が巻いてあり、その包帯には見た事のない文字のようなものが書いてあった。
 何者なんだろうと思っていると、天狗さんが言った。

「そ奴は落魅らくみという妖じゃ。晴樹くんらしき人物と共に行動していたと、この間の
 のっぺらぼうが言っておった。のっぺらぼうの話だと、妖気は中妖怪クラスだが
 ・・・強さは大妖怪並だったそうじゃ」

「・・・のっぺらぼうの言う事、信用しても良いんですか?」

 和正がおずおずと手を挙げて言う。すると狗神はケラケラと笑い、お堂の奥から
 何かを引き摺って持って来た。

「まあ、今更嘘は吐かんじゃろ」

 そう言って狗神は手に持っていたものを床に放り投げる。見るとそれは僕と和正が
 対峙したのっぺらぼうで、小さくカタカタと震えていた。

「安心せい、調教済みじゃ!」

 狗神がそう言いながらのっぺらぼうの頬をつつくと、のっぺらぼうはヒイィと
 情けない声を上げながらその場に蹲った。

「な、何したのお祖父ちゃん・・・」

 誠が若干引き気味に狗神を見る。狗神はキョトンとしながら言った。

「軽く拷問しただけじゃが?のう、天狗」

 狗神にそう言われた天狗さんは溜息を吐くと、のっぺらぼうをゴミを見るような
 目で見ながら言った。

「こ奴が生意気にもわしらに歯向かおうとしたからの。わしが気絶ギリギリまで痛め
 つけて、狗神の治癒術で傷だけ治す。そしてまたギリギリまで痛めつけて、傷だけ
 治す・・・それを繰り返しただけじゃ」

 えげつない事をするなあと思いながらちらりと横を見ると、赤芽と天春が青い顔を
 してカタカタと震えていた。

「・・・のっぺらぼう、あなたは落魅と戦ったんですか?」

 僕がそう聞くと、のっぺらぼうは蹲ったまま答えた。

「ワレは他の妖が戦っているのを目にしただけダ。一緒にいた人間の少年・・・
 あいつも強そうだっタ」

「・・・その少年が持っていた武器は?」

「二丁の拳銃。桜の模様が描かれた物と、紅葉の模様が描かれた物を持っていたゾ」

 のっぺらぼうの言葉に確信する。間違いない、落魅と一緒にいたのは晴樹だ。

「場所は?」

 僕の問いに、のっぺらぼうではなく狗神が答える。

「こ奴が出会ったのは、霧ヶ山から10キロ北に行った所にある森の中。
 ・・・じゃが、あ奴らは移動する。おびき寄せん限り、見つけることは困難
 じゃろう」

「おびき寄せるって、どうやるんですか?」

 天春が聞くと、狗神はのっぺらぼうを指さして言った。

「あ奴らの目的は、聞き込みからもはっきりしておる。・・・あ奴らの目的は大妖怪
 の討伐じゃ。だから、こ奴を使う」

「のっぺらぼうを餌に・・・?」

 赤芽の言葉に狗神は頷く。

「ねえ、何で妖がわざわざ妖を倒しに行ってるの?」

 誠がそう聞くと、天狗さんが眉間に皺を寄せて言った。

「妖の中にはの、自分が妖の頂点に立ってやろうと考えておる奴もいるんじゃ。
 おそらく落魅もそうなのじゃろう。・・・わしの予想じゃが、晴樹くんは落魅の
 目的のために良いように使われているのかもしれん」

「晴樹に限ってそんなことしますかね?」

「わしの予想通りなら、静也くんも同じ立場になっていたかもしれんよ」

「え?」

 天狗さんの言葉に困惑する。天狗さんは僕の目をじっと見ると言った。

「もし『妖討伐に協力すれば両親の仇を見つけ、殺す手伝いをしてやる』と言われ
 たら、どうする?」

「っ・・・!!」

 思わず息を呑む。確かに、もしあの頃同じことを言われたら、迷わず協力していた
 だろう。

「まあそういう訳で、落魅をおびき出しお主の弟を奴から引き離す。決行は明日の
 夕方じゃ、それまでゆっくりすると良い」

 狗神はそう言うと立ち上がり、のっぺらぼうを引き摺ってお堂の外に出る。
 天狗さんも今日は泊っていきなさいとだけ言い残し、お堂の外へ出て行った。

「・・・静也、あんた晴樹に会って取り乱さないでよ?」

 赤芽が茶化すように言う。それに便乗してか、天春もニコニコと笑いながら
 言った。

「晴に呆れられないようにね~」

 二人の言葉に、僕は笑みを浮かべて頷く。誠と和正は、少し暗い顔をして僕を見て
 いた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

蟲籠の島 夢幻の海 〜これは、白銀の血族が滅ぶまでの物語〜

二階堂まりい
ファンタジー
 メソポタミア辺りのオリエント神話がモチーフの、ダークな異能バトルものローファンタジーです。以下あらすじ  超能力を持つ男子高校生、鎮神は独自の信仰を持つ二ツ河島へ連れて来られて自身のの父方が二ツ河島の信仰を統べる一族であったことを知らされる。そして鎮神は、異母姉(兄?)にあたる両性具有の美形、宇津僚真祈に結婚を迫られて島に拘束される。  同時期に、島と関わりがある赤い瞳の青年、赤松深夜美は、二ツ河島の信仰に興味を持ったと言って宇津僚家のハウスキーパーとして住み込みで働き始める。しかし彼も能力を秘めており、暗躍を始める。

異世界国盗り物語 ~野望に燃えるエーリカは第六天魔皇になりて天下に武を布く~

ももちく
ファンタジー
天帝と教皇をトップに据えるテクロ大陸本土には4つの王国とその王国を護る4人の偉大なる魔法使いが存在した 創造主:Y.O.N.Nはこの世界のシステムの再構築を行おうとした その過程において、テクロ大陸本土の西国にて冥皇が生まれる 冥皇の登場により、各国のパワーバランスが大きく崩れ、テクロ大陸は長い戦国時代へと入る テクロ大陸が戦国時代に突入してから190年の月日が流れる 7つの聖痕のひとつである【暴食】を宿す剣王が若き戦士との戦いを経て、新しき世代に聖痕を譲り渡す 若き戦士は剣王の名を引き継ぎ、未だに終わりをしらない戦国乱世真っ只中のテクロ大陸へと殴り込みをかける そこからさらに10年の月日が流れた ホバート王国という島国のさらに辺境にあるオダーニの村から、ひとりの少女が世界に殴り込みをかけにいく 少女は|血濡れの女王《ブラッディ・エーリカ》の団を結成し、自分たちが世の中へ打って出る日を待ち続けていたのだ その少女の名前はエーリカ=スミス とある刀鍛冶の一人娘である エーリカは分不相応と言われても仕方が無いほどのでっかい野望を抱いていた エーリカの野望は『1国の主』となることであった 誰もが笑って暮らせる平和で豊かな国、そんな国を自分の手で興したいと望んでいた エーリカは救国の士となるのか? それとも国すら盗む大盗賊と呼ばれるようになるのか? はたまた大帝国の祖となるのか? エーリカは野望を成し遂げるその日まで、決して歩みを止めようとはしなかった……

とべない天狗とひなの旅

ちはやれいめい
歴史・時代
人間嫌いで悪行の限りを尽してきた天狗、フェノエレーゼ。 主君サルタヒコの怒りを買い、翼を封じられ人里に落とされてしまう。 「心から人間に寄り添い助けろ。これ以上悪さをすると天狗に戻れなくなるぞ」 とべなくなったフェノエレーゼの事情を知って、人里の童女ヒナが、旅についてきた。 人間嫌いの偏屈天狗と、天真爛漫な幼女。 翼を取り戻すため善行を積む旅、はじまりはじまり。 絵・文 ちはやれいめい https://mypage.syosetu.com/487329/ フェノエレーゼデザイン トトさん https://mypage.syosetu.com/432625/

踊れば楽し。

紫月花おり
ファンタジー
【前世は妖!シリアス、ギャグ、バトル、なんとなくブロマンスで、たまにお食事やもふもふも!?なんでもありな和風ファンタジー!!?】  俺は常識人かつ現実主義(自称)な高校生なのに、前世が妖怪の「鬼」らしい!?  だがもちろん前世の記憶はないし、命を狙われるハメになった俺の元に現れたのは──かつての仲間…キャラの濃い妖怪たち!!? ーーー*ーーー*ーーー  ある日の放課後──帰宅中に謎の化け物に命を狙われた高校2年生・高瀬宗一郎は、天狗・彼方に助けられた。  そして宗一郎は、自分が鬼・紅牙の生まれ変わりであり、その紅牙は妖の世界『幻妖界』や鬼の宝である『鬼哭』を盗んだ大罪人として命を狙われていると知る。  前世の記憶も心当たりもない、妖怪の存在すら信じていなかった宗一郎だが、平凡な日常が一変し命を狙われ続けながらも、かつての仲間であるキャラの濃い妖たちと共に紅牙の記憶を取り戻すことを決意せざるをえなくなってしまった……!?  迫り来る現実に混乱する宗一郎に、彼方は笑顔で言った。 「事実は変わらない。……せっかくなら楽しんだほうが良くない?」  そして宗一郎は紅牙の転生理由とその思いを、仲間たちの思いを、真実を知ることになっていく── ※カクヨム、小説家になろう にも同名義同タイトル小説を先行掲載 ※以前エブリスタで作者が書いていた同名小説(未完)を元に加筆改変をしています

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

元魔王おじさん

うどんり
ファンタジー
激務から解放されようやく魔王を引退したコーラル。 人間の住む地にて隠居生活を送ろうとお引越しを敢行した。 本人は静かに生活を送りたいようだが……さてどうなることやら。 戦いあり。ごはんあり。 細かいことは気にせずに、元魔王のおじさんが自由奔放に日常を送ります。

どうやら主人公は付喪人のようです。 ~付喪神の力で闘う異世界カフェ生活?~【完結済み】

満部凸張(まんぶ凸ぱ)(谷瓜丸
ファンタジー
鍵を手に入れる…………それは獲得候補者の使命である。 これは、自身の未来と世界の未来を知り、信じる道を進んでいく男の物語。 そして、これはあらゆる時の中で行われた、付喪人と呼ばれる“付喪神の能力を操り戦う者”達の戦いの記録の1つである……。 ★女神によって異世界?へ送られた主人公。 着いた先は異世界要素と現実世界要素の入り交じり、ついでに付喪神もいる世界であった!! この物語は彼が憑依することになった明山平死郎(あきやまへいしろう)がお贈りする。 個性豊かなバイト仲間や市民と共に送る、異世界?付喪人ライフ。 そして、さらに個性のある魔王軍との闘い。 今、付喪人のシリーズの第1弾が幕を開ける!!! なろうノベプラ

処理中です...