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帰省編
遭遇
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―――そろそろ帰ろうということで、僕達は山を下りる。途中でまた天檎の実を
見つけたり、行きに出会った中妖怪に冬にだけ咲く不思議な花を見せてもらったり
などと寄り道をしていると、山の中腹を過ぎる頃には夕方になっていた。
「あ、まずいですね。急ぎましょう」
僕がそう言うと、和正は首を傾げる。
「何かあるのか?」
「この時間帯は危ないんです。・・・妖が活発に動き出す時間ですから」
「なるほど。じゃあ走るか!」
「転ばないでくださいね?」
僕と和正が走りだそうと足に力を込めた瞬間、周りの空気が変わった。
「・・・何か、空気変わったか?」
和正が言う。念の為と僕が気配を探ると、近くから殺気だけを感じた。
朝から感じていた不安の正体はこれだったのか。そんなことを考えつつも、僕は
和正に叫ぶ。
「和正!大妖怪です、逃げましょう!!」
和正は一瞬驚いた顔をしたがすぐに頷き、走り出した。
二人で山を駆け下りる。先程とは違い、隠す気のない気配と殺気が後ろから追い
かけてきていた。
「静也、逃げ切れるのか?これ!!」
和正がそう言って僕を見る。このままでは無理だろうと思いつつ、僕はちらりと
後ろを見た。
「・・・見たナ?」
まずいと思った。僕の目に映ったのは顔のパーツが何もない人型の妖。所謂、
のっぺらぼうだった。
のっぺらぼうは僕の視線に気付いたのか、口のないその顔から言葉を発した。
「見タ。今、確かにワレを見たナ」
のっぺらぼうは不気味な笑い声をあげる。和正もちらりと後ろを見てヤバいと
思ったのか、冷汗を流していた。
「・・・和正、捕まったら顔を盗られます。全力で逃げてください」
「そんなこと言ったって、俺今が全力なんだけど!!」
それもそうか。・・・だが、このスピードだと振り切れないし、先に僕達の体力が
尽きて追い付かれるのがオチだ。
せめて、気を逸らせれば。そう考えていると、ふと和正の腰に提げてあるハンド
ガンが目に留まった。
「和正、そのハンドガンでのっぺらぼう撃てませんかね?威嚇射撃でも良いんです
けど」
「走りながらか?!!」
なんて無茶なと言いたげな顔をしながら、和正は銃を抜く。
そして一瞬だけ立ち止まるとクルリと後ろを向き、のっぺらぼうに向かって引き金
を引いた。
パァンと音がして、弾が飛び出す。しかしのっぺらぼうは余裕そうな雰囲気を
醸し出し、弾を避けた。
「あれ避けるとかマジかよ・・・」
和正は青い顔をして再び走り出す。
「遅い、遅いゾ」
のっぺらぼうはそう言うと、更にスピードを上げた。
「このままじゃ追い付かれます。和正、逃げ方を変えましょう」
「変えるって、どうするんだ?」
「地形を利用するんです。・・・任せてください、この裏山は僕の庭みたいなもの
ですから」
僕がそう言うと、和正は分かったと頷く。迫り来るのっぺらぼうの動きを見な
がら、僕は和正に指示を飛ばした。
「目の前に大木がありますよね?あそこから和正は左に曲がってください。僕は
少しだけのっぺらぼうを引き付けてから合流します」
「・・・分かった」
和正は頷くと、大木を左に曲がる。のっぺらぼうは一瞬どちらを追うか悩んだ様子
だったが、真っ直ぐ走った僕を追うことに決めたらしい。
「顔を寄越セ!」
そう言ってのっぺらぼうは僕に腕を伸ばしてくる。
「嫌です」
僕はそう言って夜月を鞘から抜き、のっぺらぼうの腕を斬り付ける。思っていた
通りまともに刃は当たらず、腕を引いたのっぺらぼうは僕を睨みつけたように
感じられた。
「妖刀・・・忌々しイ」
そう言いながらも、のっぺらぼうは再び腕を伸ばしてくる。ギリギリでそれを
避けると、僕は地面に飛び出た大きな根に向かって走り出す。
「待テ!!」
追いかけてきたのっぺらぼうは僕を見るあまり足元に飛び出ていた根に気付かず、
バランスを崩す。
それを見た僕は和正と合流するため、和正の逃げた方向に向かって走った。
―――和正を見つけ、遠くから声を掛ける。どうやら和正は体力切れを起こしていた
ようで、その場で立ち止まり肩で息をしていた。
「大丈夫ですか?」
「な、何でおまっ・・平気そうな、顔、してんだ・・・」
ゼエゼエと息をする和正にそう言われ、慣れですと笑いかける。
和正が息を整えるのを待っていると、撒いたと思っていたのっぺらぼうの声が
した。
「見つけタ・・・」
「和正!走・・・れませんね」
「ごめん、無理・・・」
まだ体力が回復していない和正はそう言うと、申し訳なさそうな顔をする。
「しょうがないです。・・・助けが来るまで、避けましょう」
僕はそう言って、携帯を取り出す。
幸いここはもう電波が届く範囲内で、数コールの後天春が出た。
「すみません天春。天狗さん、呼んできてください」
電話の向こうでどういうこと?!という声がしたが、説明している暇はない。
僕はすぐに電話を切ると、携帯を鞄に仕舞った。
「・・・静也」
こちらに向かってくるのっぺらぼうの姿が見える。そんな中、和正が僕を呼ぶ。
「何ですか?」
「俺、さ。正直舐めてたんだ、妖のこと。実践授業で強くなって、3年だけで中妖怪
も普通に倒してさ。天狗さんとか狗神さんは優しいし、今日頂上付近で戦ったやつ
も弱くて、正直どうとでもなると思ってた。・・・でも、今こんな事になって
やっと分かった」
和正はそう言うと悔しそうに唇を噛む。
「俺、仲間が居なきゃ逃げる選択肢すら与えられない程・・・弱かったんだ」
「今度は逃がさないゾ・・・」
ゆらりゆらりとのっぺらぼうが近付いて来る。僕は夜月を構えると、和正をかばう
ように前に立って言った。
「僕達は弱いです。僕達だけじゃない、人間がそもそも妖とは比べ物にならない程
弱い生き物なんです。・・・でも、タダでやられないのも人間です。できる限り、
抗いましょう?」
「・・・おう」
和正は立ち上がり、僕の一歩後ろで銃を構える。そして言った。
「静也・・・俺に、細かい指示をくれ。その通りに動く」
「・・・的確な指示ができるかは分かりませんよ?」
僕がそう言って和正を見ると、彼はニッと笑って言った。
「大丈夫!俺、静也を信じてるから!!」
友人の命が僕の指示一つで奪われてしまうかもしれない。そんなプレッシャー
よりも、大きな感情が僕の心を揺さぶった。
信じてる、その言葉が僕の頭の中をぐるぐると回る。帰省初日の夜に和正から
聞いた、彼の決意。彼は自分の壁を壊してくれた誠を信じ、誠が信じた奴も
信じると言った。・・・じゃあ、僕は。
「じゃあ僕は・・・僕を信じてくれた、和正を信じます」
心が、少し軽くなった気がした。その瞬間、のっぺらぼうが襲い掛かってくる。
伸ばされた腕を夜月で受け流し、蹴りを入れる。そして、和正に言った。
「威力は要らねえ、射出速度上げて顔面吹っ飛ばせ」
自然と素が出ていた。僕の蹴りにより無防備になっていたのっぺらぼうの顔面に、
和正の放った弾が命中する。
のっぺらぼうは少しひるんだが、あまりダメージが入っている様子はない。本当に
指示通りに威力を捨てて射出速度に能力を振った和正に、心の中で拍手を贈る。
「何をすル・・・!」
のっぺらぼうは和正に突っ込む。すかさず僕が間に入り込み、攻撃を防ぐ。
「次は足だ、威力上げろ」
和正は僕の指示通り、威力を上げてのっぺらぼうの右足を撃ち抜く。
のっぺらぼうは悲鳴を上げ、後ろに飛び退いた。
「陰陽師の銃・・・?いや、異能力者なのカ!!」
のっぺらぼうが忌々しそうに和正を睨みつけた気がした。
「だが弱いなあ、その程度じゃワレは倒せないゾ?」
馬鹿にするようにそう言ったのっぺらぼうに、僕は言った。
「誰が倒すなんて言った。時間稼ぎさえできれば良いんだよ、バーカ」
「ワレを馬鹿にしたナ?!!」
激昂したのっぺらぼうは、先程よりも素早く、だが単純に真っ直ぐ突っ込んで
来た。
「和正、速度上げて胸に撃て」
和正の放った弾が綺麗にのっぺらぼうの胸に当たる。僕はすぐさま次の指示を
出し、自分ものっぺらぼうに突っ込んだ。
「次、威力上げて右足。すぐにもう一回、同威力で左足だ」
和正は的確に弾を当てる。今更ながら、和正の射撃精度はプロ顔負けなんじゃ
ないかと思う。
和正の射撃により目に見えて突っ込んでくるスピードが落ちたのっぺらぼうに、
僕は斬りかかる。だがのっぺらぼうはすんでのところでそれを躱し、僕に腕を
伸ばした。避け切れない、そう思った瞬間和正が叫んだ。
「伏せろ!!」
僕がしゃがむと同時に、発砲音が聞こえる。上を見ると、のっぺらぼうが和正の
放った弾丸を掴んでいた。
「遅イ!!」
のっぺらぼうはそう言って、僕そっちのけで和正に襲い掛かる。守らなきゃと足を
踏み出したその瞬間、とても強い風が吹いた。
「なっ・・・?!」
あまりの風圧に思わず目を閉じる。風がやんだと思い目を開けると、そこには
のっぺらぼうの頭を鷲掴みにした天狗さんが立っていた。
「わしの知り合いに何か用か?余所者」
天狗さんはそう言ってのっぺらぼうの頭を持つ手に力を籠める。
ミシッと音がしたかと思えば、のっぺらぼうは気を失っていた。
「和正!怪我は?!」
僕は慌てて和正に近付く。和正は大丈夫だと笑うと、親指を立てて言った。
「静也、指示完璧だったぜ!ありがとな!!」
「僕こそ、和正のおかげで命拾いしました。ありがとうございます」
僕がそう言うと、和正はキョトンとした顔で言った。
「あれ、言葉遣い戻しちゃうのか?俺、結構嫌いじゃなかったんだけど。さっきの
喋り方」
「えっ・・・。いやあの、さっきは何故か素が出てしまったというか、なんと
いうか・・・」
慌ててそう言うと、和正はニッコリと笑って僕の頭を撫でる。
「じゃあ、たまにで良いから素で話してくれよ!俺、静也にもっと信じてもらえる
ように頑張るからさ!」
和正にそう言われ、何だか恥ずかしくなる。
ちらりと天狗さんを見ると、天狗さんもニコニコと笑っていた。
見つけたり、行きに出会った中妖怪に冬にだけ咲く不思議な花を見せてもらったり
などと寄り道をしていると、山の中腹を過ぎる頃には夕方になっていた。
「あ、まずいですね。急ぎましょう」
僕がそう言うと、和正は首を傾げる。
「何かあるのか?」
「この時間帯は危ないんです。・・・妖が活発に動き出す時間ですから」
「なるほど。じゃあ走るか!」
「転ばないでくださいね?」
僕と和正が走りだそうと足に力を込めた瞬間、周りの空気が変わった。
「・・・何か、空気変わったか?」
和正が言う。念の為と僕が気配を探ると、近くから殺気だけを感じた。
朝から感じていた不安の正体はこれだったのか。そんなことを考えつつも、僕は
和正に叫ぶ。
「和正!大妖怪です、逃げましょう!!」
和正は一瞬驚いた顔をしたがすぐに頷き、走り出した。
二人で山を駆け下りる。先程とは違い、隠す気のない気配と殺気が後ろから追い
かけてきていた。
「静也、逃げ切れるのか?これ!!」
和正がそう言って僕を見る。このままでは無理だろうと思いつつ、僕はちらりと
後ろを見た。
「・・・見たナ?」
まずいと思った。僕の目に映ったのは顔のパーツが何もない人型の妖。所謂、
のっぺらぼうだった。
のっぺらぼうは僕の視線に気付いたのか、口のないその顔から言葉を発した。
「見タ。今、確かにワレを見たナ」
のっぺらぼうは不気味な笑い声をあげる。和正もちらりと後ろを見てヤバいと
思ったのか、冷汗を流していた。
「・・・和正、捕まったら顔を盗られます。全力で逃げてください」
「そんなこと言ったって、俺今が全力なんだけど!!」
それもそうか。・・・だが、このスピードだと振り切れないし、先に僕達の体力が
尽きて追い付かれるのがオチだ。
せめて、気を逸らせれば。そう考えていると、ふと和正の腰に提げてあるハンド
ガンが目に留まった。
「和正、そのハンドガンでのっぺらぼう撃てませんかね?威嚇射撃でも良いんです
けど」
「走りながらか?!!」
なんて無茶なと言いたげな顔をしながら、和正は銃を抜く。
そして一瞬だけ立ち止まるとクルリと後ろを向き、のっぺらぼうに向かって引き金
を引いた。
パァンと音がして、弾が飛び出す。しかしのっぺらぼうは余裕そうな雰囲気を
醸し出し、弾を避けた。
「あれ避けるとかマジかよ・・・」
和正は青い顔をして再び走り出す。
「遅い、遅いゾ」
のっぺらぼうはそう言うと、更にスピードを上げた。
「このままじゃ追い付かれます。和正、逃げ方を変えましょう」
「変えるって、どうするんだ?」
「地形を利用するんです。・・・任せてください、この裏山は僕の庭みたいなもの
ですから」
僕がそう言うと、和正は分かったと頷く。迫り来るのっぺらぼうの動きを見な
がら、僕は和正に指示を飛ばした。
「目の前に大木がありますよね?あそこから和正は左に曲がってください。僕は
少しだけのっぺらぼうを引き付けてから合流します」
「・・・分かった」
和正は頷くと、大木を左に曲がる。のっぺらぼうは一瞬どちらを追うか悩んだ様子
だったが、真っ直ぐ走った僕を追うことに決めたらしい。
「顔を寄越セ!」
そう言ってのっぺらぼうは僕に腕を伸ばしてくる。
「嫌です」
僕はそう言って夜月を鞘から抜き、のっぺらぼうの腕を斬り付ける。思っていた
通りまともに刃は当たらず、腕を引いたのっぺらぼうは僕を睨みつけたように
感じられた。
「妖刀・・・忌々しイ」
そう言いながらも、のっぺらぼうは再び腕を伸ばしてくる。ギリギリでそれを
避けると、僕は地面に飛び出た大きな根に向かって走り出す。
「待テ!!」
追いかけてきたのっぺらぼうは僕を見るあまり足元に飛び出ていた根に気付かず、
バランスを崩す。
それを見た僕は和正と合流するため、和正の逃げた方向に向かって走った。
―――和正を見つけ、遠くから声を掛ける。どうやら和正は体力切れを起こしていた
ようで、その場で立ち止まり肩で息をしていた。
「大丈夫ですか?」
「な、何でおまっ・・平気そうな、顔、してんだ・・・」
ゼエゼエと息をする和正にそう言われ、慣れですと笑いかける。
和正が息を整えるのを待っていると、撒いたと思っていたのっぺらぼうの声が
した。
「見つけタ・・・」
「和正!走・・・れませんね」
「ごめん、無理・・・」
まだ体力が回復していない和正はそう言うと、申し訳なさそうな顔をする。
「しょうがないです。・・・助けが来るまで、避けましょう」
僕はそう言って、携帯を取り出す。
幸いここはもう電波が届く範囲内で、数コールの後天春が出た。
「すみません天春。天狗さん、呼んできてください」
電話の向こうでどういうこと?!という声がしたが、説明している暇はない。
僕はすぐに電話を切ると、携帯を鞄に仕舞った。
「・・・静也」
こちらに向かってくるのっぺらぼうの姿が見える。そんな中、和正が僕を呼ぶ。
「何ですか?」
「俺、さ。正直舐めてたんだ、妖のこと。実践授業で強くなって、3年だけで中妖怪
も普通に倒してさ。天狗さんとか狗神さんは優しいし、今日頂上付近で戦ったやつ
も弱くて、正直どうとでもなると思ってた。・・・でも、今こんな事になって
やっと分かった」
和正はそう言うと悔しそうに唇を噛む。
「俺、仲間が居なきゃ逃げる選択肢すら与えられない程・・・弱かったんだ」
「今度は逃がさないゾ・・・」
ゆらりゆらりとのっぺらぼうが近付いて来る。僕は夜月を構えると、和正をかばう
ように前に立って言った。
「僕達は弱いです。僕達だけじゃない、人間がそもそも妖とは比べ物にならない程
弱い生き物なんです。・・・でも、タダでやられないのも人間です。できる限り、
抗いましょう?」
「・・・おう」
和正は立ち上がり、僕の一歩後ろで銃を構える。そして言った。
「静也・・・俺に、細かい指示をくれ。その通りに動く」
「・・・的確な指示ができるかは分かりませんよ?」
僕がそう言って和正を見ると、彼はニッと笑って言った。
「大丈夫!俺、静也を信じてるから!!」
友人の命が僕の指示一つで奪われてしまうかもしれない。そんなプレッシャー
よりも、大きな感情が僕の心を揺さぶった。
信じてる、その言葉が僕の頭の中をぐるぐると回る。帰省初日の夜に和正から
聞いた、彼の決意。彼は自分の壁を壊してくれた誠を信じ、誠が信じた奴も
信じると言った。・・・じゃあ、僕は。
「じゃあ僕は・・・僕を信じてくれた、和正を信じます」
心が、少し軽くなった気がした。その瞬間、のっぺらぼうが襲い掛かってくる。
伸ばされた腕を夜月で受け流し、蹴りを入れる。そして、和正に言った。
「威力は要らねえ、射出速度上げて顔面吹っ飛ばせ」
自然と素が出ていた。僕の蹴りにより無防備になっていたのっぺらぼうの顔面に、
和正の放った弾が命中する。
のっぺらぼうは少しひるんだが、あまりダメージが入っている様子はない。本当に
指示通りに威力を捨てて射出速度に能力を振った和正に、心の中で拍手を贈る。
「何をすル・・・!」
のっぺらぼうは和正に突っ込む。すかさず僕が間に入り込み、攻撃を防ぐ。
「次は足だ、威力上げろ」
和正は僕の指示通り、威力を上げてのっぺらぼうの右足を撃ち抜く。
のっぺらぼうは悲鳴を上げ、後ろに飛び退いた。
「陰陽師の銃・・・?いや、異能力者なのカ!!」
のっぺらぼうが忌々しそうに和正を睨みつけた気がした。
「だが弱いなあ、その程度じゃワレは倒せないゾ?」
馬鹿にするようにそう言ったのっぺらぼうに、僕は言った。
「誰が倒すなんて言った。時間稼ぎさえできれば良いんだよ、バーカ」
「ワレを馬鹿にしたナ?!!」
激昂したのっぺらぼうは、先程よりも素早く、だが単純に真っ直ぐ突っ込んで
来た。
「和正、速度上げて胸に撃て」
和正の放った弾が綺麗にのっぺらぼうの胸に当たる。僕はすぐさま次の指示を
出し、自分ものっぺらぼうに突っ込んだ。
「次、威力上げて右足。すぐにもう一回、同威力で左足だ」
和正は的確に弾を当てる。今更ながら、和正の射撃精度はプロ顔負けなんじゃ
ないかと思う。
和正の射撃により目に見えて突っ込んでくるスピードが落ちたのっぺらぼうに、
僕は斬りかかる。だがのっぺらぼうはすんでのところでそれを躱し、僕に腕を
伸ばした。避け切れない、そう思った瞬間和正が叫んだ。
「伏せろ!!」
僕がしゃがむと同時に、発砲音が聞こえる。上を見ると、のっぺらぼうが和正の
放った弾丸を掴んでいた。
「遅イ!!」
のっぺらぼうはそう言って、僕そっちのけで和正に襲い掛かる。守らなきゃと足を
踏み出したその瞬間、とても強い風が吹いた。
「なっ・・・?!」
あまりの風圧に思わず目を閉じる。風がやんだと思い目を開けると、そこには
のっぺらぼうの頭を鷲掴みにした天狗さんが立っていた。
「わしの知り合いに何か用か?余所者」
天狗さんはそう言ってのっぺらぼうの頭を持つ手に力を籠める。
ミシッと音がしたかと思えば、のっぺらぼうは気を失っていた。
「和正!怪我は?!」
僕は慌てて和正に近付く。和正は大丈夫だと笑うと、親指を立てて言った。
「静也、指示完璧だったぜ!ありがとな!!」
「僕こそ、和正のおかげで命拾いしました。ありがとうございます」
僕がそう言うと、和正はキョトンとした顔で言った。
「あれ、言葉遣い戻しちゃうのか?俺、結構嫌いじゃなかったんだけど。さっきの
喋り方」
「えっ・・・。いやあの、さっきは何故か素が出てしまったというか、なんと
いうか・・・」
慌ててそう言うと、和正はニッコリと笑って僕の頭を撫でる。
「じゃあ、たまにで良いから素で話してくれよ!俺、静也にもっと信じてもらえる
ように頑張るからさ!」
和正にそう言われ、何だか恥ずかしくなる。
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