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帰省編
祖父
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―――稲荷寿司を全て食べ終わり、僕は宇迦、御魂、そして彩音に別れを言って
狗神と神社を出る。
満腹で飛ぶのが怠いと狗神が言うので、僕達は夜宮神社が建っていた山をのんびりと
下りていた。
「・・・のう、山霧の」
歩きながら狗神が話し掛けてくる。
「何ですか?」
「油揚げ、貰い忘れた」
「稲荷寿司貰ったんだから良いじゃないですか!」
「油揚げ入りの味噌汁がー!」
悔しそうに言う狗神を見て溜息を吐く。その時余所見をしていた僕は、道に飛び
出していた細い木の枝に気付かなかった。
「痛っ!」
腕に痛みが走る。慌てて左腕を見ると、木によってざっくりと切れていた。
「なーにしとるんじゃ山霧の。ほれ、見せてみい」
狗神が呆れた顔で僕の左腕に手を当てる。そして小さな声で何かを呟くと、狗神の
手が淡い光を発した。
狗神が手を離すと、そこは最初から傷なんてなかったかのように綺麗に完治して
いた。
「治癒術・・・」
僕が呟くと、狗神が意外そうな顔をして言った。
「何じゃ、知っておるのか」
「実践授業の時、誠が治療してくれたんです。お祖父ちゃん仕込みの治癒術だって
言ってましたから・・・」
「そういえば教えたのう」
「流石に傷跡も残さず、なんてことはなかったですけどね」
「あの子は才能の塊じゃからの。ワシ譲りの神通力に、父親譲りの妖力。成長したら
更に強くなるぞ」
「父親譲りの妖力って・・・狗神は、真悟さんよりも妖力少ないんですか?」
「・・・まあの。あ奴はどちらかと言えば妖寄りじゃ。きっと婆さんの影響じゃの」
「・・・え、誠のお祖母さんって人間ですよね?」
「人間じゃよ。まあ、他とはちょっと違ったがの」
狗神はそう言うと、少し身を屈めて僕の耳元で小さく言った。
「ワシの妻・・・誠の祖母は、妖憑きじゃ」
「妖憑き・・・?」
何だそれと狗神を見ると、狗神は身を屈めたまま小さな声で説明した。
「妖憑きは、平たく言えば妖に憑りつかれている者の事でな。お主の家が妖が見える
家系なのと同じように、妖憑きも代々妖に憑りつかれる家系なんじゃ。・・・その
所為で、婆さんも村の者共から忌み嫌われておっての。婆さんが住んでいた村に
ちょっとばかし用があって、用を済ませるついでに村人殺して遊んでおったら
たまたま出会ったんじゃ」
村人殺して遊ぶってなんだ。命をおもちゃにするなよ・・・なんて思いも
あったが、狗神だもんなと諦めて僕は聞く。
「妖が憑いている人間と子供を作ったから、妖寄りになったってことですか?」
「そうじゃ。妖憑きは人間でありながら、寄生している妖でもある。・・・純粋な
人間はお前の母だけだとは流石に言いにくいから、誠には黙っておるがの」
「誠のお祖母さんに憑いていた妖って、どうなったんですか?もしかして、誠に
憑いてるとか・・・」
「いや、もう死んでおるよ。婆さんが死んだ直後に、ワシが殺した。・・・もう、
100年以上も前の話じゃがの」
そう言って狗神は空を見上げる。木々の間から差す光に眩しそうに目を細め
ながら、狗神は再び歩き出した。
―――歩いている途中で気付く。誠の祖母が亡くなったのが100年以上前。
じゃあ、誠の父親・・・真悟さんの年齢って、もしかして。
「・・・狗神。真悟さんって何歳、なんですか?」
「いくつじゃったかのう・・・。140・・・いや、もうちょっと上じゃったか?」
・・・分かってた。分かってはいたけど、うん。
「半妖でも、寿命って長いんですね・・・。妖の見た目が人間と圧倒的に違うのは
天春見てるから何となく分かりますけど、人間の血が入っててもそうなんです
か・・・」
「まあ、言いたいことは分かるぞ。妖の寿命も長いが、神の寿命なぞ条件次第では
永遠じゃからの。神でも妖でもあるワシの血を引いておるんじゃから、見た目も
寿命も人間の物差しでは測れんじゃろうて」
そう言って狗神は笑う。
もしかしたら誠も僕の何倍も長く生きて、変わらない見た目で子孫とニコニコ
しているのかもしれない。そんなことを考えていると、思い出したように狗神が
言った。
「・・・ああそうだ、山霧の。今日稲荷んとこで話した『どっちつかず』のこと、
誠には黙っていてくれな」
「え、どうしてですか?」
「心配かけたくないんじゃ。・・・ほらワシ、誠の強くて優しいお祖父ちゃん
じゃからな!」
そう言ってニッと笑う狗神の瞳には、不安の色が浮かんでいる気がした。
狗神と神社を出る。
満腹で飛ぶのが怠いと狗神が言うので、僕達は夜宮神社が建っていた山をのんびりと
下りていた。
「・・・のう、山霧の」
歩きながら狗神が話し掛けてくる。
「何ですか?」
「油揚げ、貰い忘れた」
「稲荷寿司貰ったんだから良いじゃないですか!」
「油揚げ入りの味噌汁がー!」
悔しそうに言う狗神を見て溜息を吐く。その時余所見をしていた僕は、道に飛び
出していた細い木の枝に気付かなかった。
「痛っ!」
腕に痛みが走る。慌てて左腕を見ると、木によってざっくりと切れていた。
「なーにしとるんじゃ山霧の。ほれ、見せてみい」
狗神が呆れた顔で僕の左腕に手を当てる。そして小さな声で何かを呟くと、狗神の
手が淡い光を発した。
狗神が手を離すと、そこは最初から傷なんてなかったかのように綺麗に完治して
いた。
「治癒術・・・」
僕が呟くと、狗神が意外そうな顔をして言った。
「何じゃ、知っておるのか」
「実践授業の時、誠が治療してくれたんです。お祖父ちゃん仕込みの治癒術だって
言ってましたから・・・」
「そういえば教えたのう」
「流石に傷跡も残さず、なんてことはなかったですけどね」
「あの子は才能の塊じゃからの。ワシ譲りの神通力に、父親譲りの妖力。成長したら
更に強くなるぞ」
「父親譲りの妖力って・・・狗神は、真悟さんよりも妖力少ないんですか?」
「・・・まあの。あ奴はどちらかと言えば妖寄りじゃ。きっと婆さんの影響じゃの」
「・・・え、誠のお祖母さんって人間ですよね?」
「人間じゃよ。まあ、他とはちょっと違ったがの」
狗神はそう言うと、少し身を屈めて僕の耳元で小さく言った。
「ワシの妻・・・誠の祖母は、妖憑きじゃ」
「妖憑き・・・?」
何だそれと狗神を見ると、狗神は身を屈めたまま小さな声で説明した。
「妖憑きは、平たく言えば妖に憑りつかれている者の事でな。お主の家が妖が見える
家系なのと同じように、妖憑きも代々妖に憑りつかれる家系なんじゃ。・・・その
所為で、婆さんも村の者共から忌み嫌われておっての。婆さんが住んでいた村に
ちょっとばかし用があって、用を済ませるついでに村人殺して遊んでおったら
たまたま出会ったんじゃ」
村人殺して遊ぶってなんだ。命をおもちゃにするなよ・・・なんて思いも
あったが、狗神だもんなと諦めて僕は聞く。
「妖が憑いている人間と子供を作ったから、妖寄りになったってことですか?」
「そうじゃ。妖憑きは人間でありながら、寄生している妖でもある。・・・純粋な
人間はお前の母だけだとは流石に言いにくいから、誠には黙っておるがの」
「誠のお祖母さんに憑いていた妖って、どうなったんですか?もしかして、誠に
憑いてるとか・・・」
「いや、もう死んでおるよ。婆さんが死んだ直後に、ワシが殺した。・・・もう、
100年以上も前の話じゃがの」
そう言って狗神は空を見上げる。木々の間から差す光に眩しそうに目を細め
ながら、狗神は再び歩き出した。
―――歩いている途中で気付く。誠の祖母が亡くなったのが100年以上前。
じゃあ、誠の父親・・・真悟さんの年齢って、もしかして。
「・・・狗神。真悟さんって何歳、なんですか?」
「いくつじゃったかのう・・・。140・・・いや、もうちょっと上じゃったか?」
・・・分かってた。分かってはいたけど、うん。
「半妖でも、寿命って長いんですね・・・。妖の見た目が人間と圧倒的に違うのは
天春見てるから何となく分かりますけど、人間の血が入っててもそうなんです
か・・・」
「まあ、言いたいことは分かるぞ。妖の寿命も長いが、神の寿命なぞ条件次第では
永遠じゃからの。神でも妖でもあるワシの血を引いておるんじゃから、見た目も
寿命も人間の物差しでは測れんじゃろうて」
そう言って狗神は笑う。
もしかしたら誠も僕の何倍も長く生きて、変わらない見た目で子孫とニコニコ
しているのかもしれない。そんなことを考えていると、思い出したように狗神が
言った。
「・・・ああそうだ、山霧の。今日稲荷んとこで話した『どっちつかず』のこと、
誠には黙っていてくれな」
「え、どうしてですか?」
「心配かけたくないんじゃ。・・・ほらワシ、誠の強くて優しいお祖父ちゃん
じゃからな!」
そう言ってニッと笑う狗神の瞳には、不安の色が浮かんでいる気がした。
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