異能力と妖と

彩茸

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帰省編

天狗

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―――朝食を作り終え、誠を起こして皆で食事をとる。そして身支度を済ませた
僕達は赤芽と小妖怪達に留守番を任せ、天春の妖術で天狗さんの所へと向かった。

「はい到着!」

 天春の言葉に目を開けると、そこには見慣れたお堂があった。昔からちょくちょく
 遊びに来ていた、天狗さんと天春が住んでいる所だ。

「何か霧が濃いな」

「この山は年中霧が出ているんです。だから霧ヶ山って呼ばれているんですよ」

 へーと言っている和正の隣で、誠がキョトンとした顔をしている。

「誠?」

 そう僕が声を掛けると、誠がお堂を指さして言った。

「・・・中から、お祖父ちゃんの匂いがするんだけど」

「・・・え?」

「うそ、全く気配しないんだけど」

 そう言いながら天春が扉を開けると、そこには天狗さんと狗神の姿が。
 驚いている僕達を見て、狗神がケラケラと笑う。

「ドッキリ大成功、かの?」

「孫にはバレておるではないか」

「誠は良いんじゃ!流石にニオイまで消してはいないからの!」

 呆れ顔の天狗さんに狗神はそう言うと、手に持っていた徳利から盃に透明の液体を
 入れ、グイッと飲んだ。

「あ、お祖父ちゃんお酒飲んでる~」

「朝から飲酒ですか」

 誠と僕が呆れた顔でそう言うと、狗神はむすっとした顔で言った。

「良いんじゃ、ワシへの供物をいつ飲もうとワシの勝手じゃろうが」

「・・・あ、お神酒か」

 天春がそう言うと、狗神はうんうんと頷く。

「そっか、狗神さんって神様でもあるもんな」

 納得したような顔で言う和正に、天狗さんは頷いて言う。

「まあ、狗神を崇めておる者の大半は妖じゃがの」

「そんなんじゃから、妖に分類されたのかもしれんのう!」

 そう言って狗神はまたケラケラと笑った。



―――狗神のドッキリのせいで先延ばしになっていたが、僕は天狗さんに和正と誠を
紹介する。天狗さんは二人の事を狗神から聞いて知っていたようで、詳しく言わず
とも全て伝わっていた。

「そうじゃ、静也くんに話さなければいけぬことがあったんじゃった。天春、
 誠くんと和正くんと一緒に遊んできなさい」

「分かった!行こ、誠、和正!」


―――誠と和正を連れて天春が出て行ったのを確認すると、さっきまでとは一転、
天狗さんと狗神は真剣な顔つきで僕を見た。

「事件について、あの後色々と調べてみた」

 狗神がそう言って、天狗さんを見る。

「森に住んでいる妖達に話を聞いてみたところ、豆狸の柊が、妙な奴を見たと言って
 いた」

「柊が・・・?」

 柊と言えば、あの日晴樹と薬草摘みに行った妖だ。

「晴樹くんと別れた後、森の中で妙に血生臭い見知らぬ妖とすれ違ったそうじゃ。
 柊もまだ子供でな、そいつから大妖怪の妖気を感じたから、殺されまいと見て見ぬ
 振りをして逃げ帰ったらしい」

「・・・そいつの、風貌は?」

 僕がそう聞くと、天狗さんは狗神と目配せをする。すると狗神は懐から折りたた
 まれた紙を取り出し、僕に渡した。

「聞いたものを描いただけじゃから、正確とは言えんが・・・」

 紙を開くと、そこには9本の尻尾を持った狐の絵が描かれていた。

「九尾の狐・・・?」

 僕が呟くと、天狗さんが言った。

「血生臭い九尾の狐と聞いて、わしらにも思い当たる者がいての。・・・住処を
 決めず、方々で殺戮を行う血に飢えた狐。襲うのは主に人間だが、時には妖も
 殺す。噂では、襲われた女性は皆、肝を食われていたそうだ」

 その言葉に、あの日の母さんの姿を思い出す。確かに母さんは、お腹を抉られ
 仰向けに倒れていた。
 鮮明に思い出してしまったあの姿に気分が悪くなる。

「おい山霧の、大丈夫か?」

 狗神が心配そうに僕の背中を擦る。僕がコクコクと頷くと、天狗さんが言った。

「この妖の所在については引き続き調べておこう。・・・それと、晴樹くんの事
 だが」

 天狗さんは少し躊躇ったようではあったが、意を決したように僕を見て口を開く。

「わしの管轄内には、晴樹くんをあの日以降見た者はいなかった。勿論、気配も
 ない」

「ワシの知り合いにも天狗から聞いた外見の情報を話したんじゃがな・・・。誰も、
 知らんと言っておった」

 昨日赤芽が言っていた言葉が蘇る。死んでるんじゃないか。もしかしたら赤芽も、
 色々と調べたうえで言っていたのかもしれない。

「もしかして、晴樹は、晴樹は・・・死んで・・・?」

 震える声でそう言うと、狗神と天狗さんは分からないとだけ言って首を横に
 振った。
 何も言えず俯く僕に、天狗さんは言った。

「・・・わしは、信じておるよ。晴樹くんは生きていると」

 バッと顔を上げて、天狗さんを見る。天狗さん、そして狗神は微笑んでいた。
 言葉にせずとも、大丈夫だと僕に言っているように感じられた。
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