異能力と妖と

彩茸

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実践授業編

妖魚

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―――僕達に割り当てられた妖は、小妖怪2匹と中妖怪1匹。他の班は小妖怪3匹、
もしくはそれ以下なので、和正の予想通り僕達の班には強い妖が当てられたことに
なる。普段ならあまり怪我をしないようにと慎重に倒すのだが、今日の僕達は気合が
違った。

「皆、回復はボクに任せて。死なない程度に突っ込んでいいよ」

「防御、しないで良いですよね?」

「ええ、要らないわ。攻撃を受ける前に倒せばいいもの」

「小妖怪は手分けして、中妖怪は全員で倒そう」

「じゃあボクと和くんが右の奴、静くんと彩音が左ね」

「分かりました。・・・では」

 僕達は各々の武器を構え、視線の先にいる小妖怪達に突っ込む。

「ゲヒヒ、コイツら突っ込んできたぜぇ?」

「グヒヒ、無謀だ・・・グハァ!」

 舐めた様子で武器を構える小妖怪を、彩音の放った矢と和正の放った弾丸が貫く。
 痛みに呻く妖達を前に、僕と誠は同時に言った。

「煩い」

 小妖怪の首を切った瞬間、隣から骨の砕ける音がする。それぞれの獲物を仕留めた
 僕達は頷き合い、中妖怪の気配を探りながら歩を進める。
 と言っても誠の嗅覚と僕の気配察知で場所はすぐに特定できたので、逸る気持ちが
 抑えられず、駆け足で目的の場所へと向かった。



―――ここだ!と足を止めた場所は湖だった。僕達の気配に気付いたのか、
ブクブクと水面が泡立つ。

「餌だ、餌が来た!!」

 そんな声と共に、水の中から人間サイズの人面魚が出て来た。

「皆、水中に引き込まれないように注意してね!」

 後ろから響子先輩の声が聞こえる。僕は先輩をチラリと見て頷き、すぐに目の前の
 人面魚に視線を戻した。
 どう倒そうかと考えていると、ふと焼肉という言葉が僕の頭をよぎる。その瞬間、
 思い付いた。
 僕は皆を見て、口を開く。

「彩音、人を抱えて空を飛べる式神っていますか?」

「ええ、いるわよ」

「ちょっと貸してもらえませんか?」

 勿論と言って彩音は胸ポケットから紙を取り出し、息を吹きかける。
 すると独りでに動き出した紙はみるみる大きな鷹の姿になった。

「化け鷹の『曹灰そうかい』よ。ちょっと爪が鋭いけど、うちの制服は頑丈だから問題
 ないわ」

「ありがとうございます。・・・誠、ちょっとお願いがあるんですけど」

「何~?」

「あの人面魚が水の中に潜らないように、引き付けておいて欲しいんです」

 分かったと言う誠の返事を聞いた僕は、すかさず和正に話し掛ける。

「和正、僕が合図を出したら能力を使ってください」

「ん?・・・あー、何となくやりたいことは分かった。任せとけ!」

「ありがとうございます」


―――曹灰に肩を掴んで貰って飛び上がる直前、誠が言った。

「静くん、ボクさあ・・・魚より、肉派なんだよね」

 その言葉にクスリと笑う。隣で和正が頷いていたので、彼も同じことを考えていた
 のだろう。
 そして僕は上空へ。人面魚の真上まで来ると、曹灰に離してくれと頼む。

「餌だあああああ!!」

 餌が自分から飛び込んできたと思ったのか、人面魚は上に向かって口を大きく
 開ける。その行動に僕はほくそ笑み、言った。

「分かります。・・・僕も、肉派です」

 僕は落下しながら夜月を抜き、人面魚の口内へ思いっきり突き刺す。

「あ、ががっ・・・」

 夜月は綺麗に人面魚に刺さり、その様子はまるで囲炉裏で焼く魚のようだった。

「和正!」

 僕の声に和正がおう!と言って、自分の手から出した炎を操る。僕が飛び退くと
 その炎は人面魚を覆い尽くし、パチパチという音と共に魚の焼ける匂いが漂って
 きた。

「人面魚の丸焼きいっちょ上がり!」

 そう言って和正が炎を消すと、そこには顔が人間でサイズが大きいということを
 除けば普通の焼き魚が転がっていた。人面魚周辺の水上には緑の葉がぎっしりと
 浮かんでおり、それはまるで湖に浮かぶ大きな緑色の皿のようだ。

「どう?ちゃんとお皿になってる?」

 飛び退いた僕をキャッチして地面に降ろしてくれた曹灰にお礼を言いつつ、誠の
 言葉に頷く。やはりあの葉は誠の神通力かと思っていると、先輩達が駆け寄って
 来た。

「凄いわ!あんな退治方法、全く思い付かなかった!」

「良い匂い。・・・お腹、空いてきた」

 響子先輩とみなも先輩がそう言うと、曹灰がピイィと鳴いた。

「曹灰?もしかして・・・アレ、食べたいの?」

 彩音がそう言って焼き人面魚を見る。曹灰は肯定するように、もう一度ピイィと
 鳴いた。

「響子先輩、まだ時間大丈夫ですか・・・?」

 彩音が不安そうに尋ねる。すると響子先輩は笑って言った。

「ええ、大丈夫よ!だって・・・まだ始まって一時間も経ってないんですもの」

「・・・へ?」

 思わず変な声が出る。いつも僕達が討伐にかけている時間は2~3時間。あまりにも
 早く終わり過ぎていた。

「本気出すとここまで早くなるのな・・・」

「今回はいくら弱かったとはいえ、先輩達の力借りずにこれだからねえ・・・」

 和正と誠の言葉を聞きながら曹灰の方を見ると、既に焼き人面魚を食べ始めて
 いた。
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