異能力と妖と

彩茸

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実践授業編

校長

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―――班は解散し、皆はそれぞれ自分の部屋へ戻っていく。僕も誠と部屋に戻ると、
扉を閉めた瞬間誠が僕に頭を下げた。

「今日はごめんね、静くん」

「え?な、何ですか突然」

「ボク、ついテンション上がっちゃって、静くんならもう一回あの霧を見せてくれる
 って思って・・・。さっきは言い訳しちゃったけど、静くんに殺気を向けちゃった
 こと、悪かったなって思ってて・・・」

「ああ、そのことですか。大丈夫ですよ、お陰で僕も何となく掴めましたから。
 だから・・・頭を上げてください」

 頭を上げた誠の耳は垂れ下がっており、反省していることが伺える。
 確かに、殺気を向けられていい思いなどするはずがないが、そんな誠の様子を
 見ていると怒る気にはなれなかった。

「・・・ありがとう」

 誠はそう言って、僕に抱き着く。持っていた夜月を落としそうになり、慌てて持ち
 直した。
 ・・・ん?夜月??

「あ!!」

 僕の発した声に誠がビクッと肩を震わせて顔を上げる。

「え、な、何?ボク他に何かした??」

 不安そうに僕を見る誠に対し首を横に振ると、僕は慌てて言う。

「申請書!申請書のこと忘れてました!!誠、すみませんが書くの手伝って貰えま
 せんか?」

「うん、分かった!」

 快く頷いてくれた誠の力を借りながら、急いで申請書を書き上げる。


「じゃあちょっと提出してきます」

「はーい、行ってらっしゃ~い」

 ひらひらと手を振り送り出してくれた誠に手を振り返しながら、僕は急いで申請書
 を提出するため校長室へ向かう。武器等の持ち込み申請は職員室ではなく校長室
 なのだと、申請書を書いている途中に誠が教えてくれた。
 途中で小里先生とすれ違い、走りながらも挨拶をする。

「山霧くんこんにち・・・え、はっや」

 小里先生のそんな呟きに僕は苦笑しながらも、校長室前にたどり着いた。
 息を整え失礼しますとノックし扉を開けると、そこにはソファに座り紅茶を啜る
 校長先生がいた。

「おお、いらっしゃい。申請書だね?」

「はい、お願いします」

 そう言って僕は校長先生に申請書を手渡す。校長先生はちょっと待ってなさいと
 言うと机へ向かい、判子を持って戻って来た。

「君の事は霧ヶ山の天狗から聞いておる。いやはや、妖が日中堂々と校長室に不法
 侵入していた時は驚いたわい」

「えっ・・・」

 確かに、この学園の入学手続き等は天狗さんがすべてやってくれていた。
 今思えば、妖が自分を退治する側の学園に入学手続きをしに行くなどおかしな
 話だ。

「退治せねばと教員を呼ぼうとしたら、入学の手続き書類を差し出されて
 のお・・・。真剣に頼んでくるものだから、不思議に思って事情を聴いたんじゃ。
 そうしたら、君の話を始めての」

「そうだったんですね・・・」

 今度あっちに戻ることがあれば、天狗さんに改めてお礼を言おう。そんなことを
 考えていると、校長先生が判子を押した申請書のコピーを差し出してきた。
 いつの間にコピーしたのだろうか。

「原本は儂が持っておかねばならんからの、これは控えじゃ。失くさないように
 大切に持っておきなさい」

「分かりました、ありがとうございます」

 そう言って紙を受け取ると、校長先生はホッホッホと笑った。



―――校長室を出て、部屋に戻る。

「おかえり~」

 扉を開けると、眠そうな誠の声が聞こえる。見ると誠は既にベッドの中で、傍には
 脱ぎ散らかした制服が落ちていた。

「誠、ご飯・・・は弁当食べたからまだしも、お風呂はどうするんですか?」

「う~・・・明日入るぅ」

 どうやら元気そうに見えた誠も実際は疲れていたようで、もう無理と言いたげな声
 で返事が返ってきた。

「そうですか・・・おやすみなさい」

「うん、おやすみ~」

 誠はそう言うとスヤスヤと寝息を立て始める。そんな誠を横目に僕は風呂へ行き、
 ベッドに身を沈めた。
 すぐさま眠気が襲ってくる。僕も今日は疲れた。
 そして僕はゆっくりと目を閉じ、深い眠りへと落ちていった。
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