異能力と妖と

彩茸

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実践授業編

眼鬼

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―――わいわいと話しながら、僕達はファイルに書いてあった場所を目指す。
・・・そして今、僕達は眼鬼の住処である森の入り口に立っている。

「何か嫌な臭いー・・・」

 誠がそう言って顔を顰める。僕にはニオイは分からないが、気配は感じる。森の奥
 から漂ってくる、邪悪な気配。みなも先輩も何かを感じ取ったのか、僕達に警戒を
 促す。

「皆、戦いの準備は大丈夫?」

 響子先輩が聞く。僕達が頷くと、響子先輩が先頭に立ち、森の中へと入って
 いった。


「妖の反応・・・一体。ランク、中妖怪であると想定。・・・・・・え?」

 森の奥に差し掛かろうとしたとき、周囲を探っていたみなも先輩が信じられないと
 いった顔で立ち止まる。

「みなもちゃん?」

 先頭を歩いていた響子先輩が一番後ろを歩いていたみなも先輩に駆け寄る。

「・・・・・・た、退避。退避を推奨。この妖・・・ファイルの情報より、
 強い・・・!」

 振り向いた僕達に震える声でみなも先輩が言った瞬間、背後の空気が変わった。

「誠、避けろ!!」

 響子先輩が後ろに行ったことで一番前になっていた誠に、和正が叫ぶ。

「っ!!」

 誠がその場から飛び退くと、ドゴオッと音がして金棒が地面を抉った。

「だぁれだぁぁぁあ?オイラの縄張りに入ってきたのはぁぁぁ」

 そんな声と共に、茂みの中から大きな一つ目の鬼が現れる。ファイルに書いて
 あった通りの姿に、僕は思わず呟いた。

「お前が・・・眼鬼」

「なぁぁぁんだぁぁあ?お前ぇぇぇ」

 頭に響くような声を発しながら、眼鬼は僕を睨みつける。怖いか怖くないかで
 言えば怖いのだが、合同授業の時の誠に比べると大した恐怖心も抱かなかった。

「和正と彩音は援護をお願いします」

 そう言って僕は鞘から刀を抜くと、切っ先を眼鬼へと向ける。

「みなもちゃん、3年生はやる気みたいだよ」

 そう言いながら、電気を纏った薙刀を構えた響子先輩が僕の隣に立つ。

「ねえ静くん、あの目を潰しちゃえば楽に倒せるかな?」

 誠はそう言って近くに生えていた木の枝に飛び乗る。・・・どんな身体能力して
 るんだ。

「オイラを倒す気かぁぁぁあ?お前ら全員昼飯にしてやるどぉぉぉ!」

 眼鬼はそう言うと金棒を大きく振りかざす。そしてフンッという声と共に、先程
 よりも素早く振り下ろした。

「させないっ!」

 飛び出してきたみなも先輩がそれを水の盾で弾き、眼鬼の鳩尾に蹴りを入れる。
 しかし眼鬼にはあまり効いていないようで、軽くお腹をさすった後、今度は金棒を
 横に振り回した。
 僕達がそれを避けると、バキバキと音を立てながら横に生えていた木に金棒が
 めり込む。

「なんつーパワーだよ・・・」

 和正の呟く声が聞こえたが、振り返る余裕はなかった。
 それからは眼鬼との攻防戦で。和正の炎を纏わせた銃撃と彩音の放つ矢で眼鬼の
 狙いを分散させながら、響子先輩と僕が刃を当てようと奮闘する。しかし眼鬼は
 それらを金棒一つで防ぎ続け、少しの隙を見つけては攻撃してくる。
 それをみなも先輩が水の盾で防ぎ、誠が顔面目掛けてカウンターを入れようと
 する。
 しかしそれをも眼鬼は金棒で防ぎ・・・。



―――眼鬼との戦いが始まってどれくらい経っただろうか。少しの休みも与えられ
ないこの戦いで、僕達はかなり消耗していた。唯一誠だけは体力が有り余っている
ようで、涼しい顔をしている。

「皆大丈夫~?」

 誠が眼鬼の攻撃を受け流しながら聞く。それに対して和正と彩音は無言で首を横に
 振る。二人共能力を使い続けているからか、かなり疲弊した顔をしていた。

「みなもちゃんが言った通り、これは逃げた方が賢明なのかもね・・・」

 響子先輩が肩で息をしながらそう言うと、みなも先輩は同意するように頷いた。

「う~ん・・・。ねえ先輩、ちょっとやってみたい事があるから、撤退はその後でも
 良い?」

 誠がそう言って、僕の隣に立つ。

「何か策があるんですか?」

「うん。静くんさ、まだ能力使えるだけの体力って残ってる?」

「はい、大丈夫ですけど・・・」

 皆とは違い僕は一切能力を使っていなかった為、まだ少し余裕があった。
 僕の言葉に誠はオッケーと言うと、他の皆に指示を出す。

「和くんと彩音は下がってて!先輩達は二人の事守ってあげて。こいつはボクと
 静くんで倒すから!」

 先輩達は不安そうにしながらも頷くと、和正と彩音と共に後ろへ下がる。
 その間にも振り下ろされる金棒をひらりひらりと避けながら、誠は僕に向かって
 言った。

「静くん、合同授業の時にボクを倒した技、覚えてる?」

「あの時は、僕も何が起こったか分かってなくて・・・」

「そっかあ・・・じゃあ、で思い出せる?」

 誠がそう言った瞬間、彼からおぞましい程の殺気が発せられた。ビリビリと空気が
 揺れる。

「な、何だぁぁぁぁあ?!」

 眼鬼が青い顔をして言う。

「お祖父ちゃんがね、無意識で出した技は同じ状況を作れば思い出すことができる
 って言ってたんだ!」

 誠はそう言って、僕に笑顔を向けた。この笑顔、この殺気・・・合同授業の時と
 同じだ。
 あの時、あの瞬間、僕は何を思ったんだっけ。殺されそう・・・いや、それだけ
 じゃない。そうだ、僕は。

「僕は・・・死にたくない。だから、死ぬ前に」

 眼鬼の元へと真っ直ぐ歩み寄りながら、僕は呟く。何度も金棒が振り下ろされる
 が、不思議と当たる気がしない。

「何で?!何で当たらねえんだああああ!!」

 淡々と僕は歩を進め、そう叫ぶ眼鬼の目の前に立つ。そして僕は眼鬼のその一つ目
 を見据え、言った。

「死ぬ前に・・・お前を、

 その瞬間、眼鬼が霧に包まれる。僕の意思じゃない。
 そう、体が勝手に動いたのだ。

「やめろぉぉぉ、やめてくれぇぇぇぇ!!」

 眼鬼の悲鳴が森に響き渡る。その様子を見ていた誠は、頭を抱え悶え苦しむ眼鬼の
 目玉を赤黒い炎を纏わせたメリケンサックで思いっきり殴った。

「ぐあぁぁぁあああ!!」

 目から血を吹き出しながら眼鬼は倒れる。

「・・・静くん、トドメ」

 誠の言葉に僕は頷くと、倒れた眼鬼の首を夜月で刎ねる。
 眼鬼は断末魔を上げ、塵となって消えた。
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