異能力と妖と

彩茸

文字の大きさ
上 下
22 / 203
狗神家編

狗神

しおりを挟む
―――そして、夜。泊めてもらえることになった僕達は用意された部屋で就寝の準備
をする。そんな時、部屋の扉が開いた。

「おい、山霧の。ちょっとこっちへ来い」

 そう言って扉の外から手招きしたのは狗神だった。

「お祖父ちゃんどうしたの?」

「すまんの誠。ちょっとお友達借りてくぞ」

 不思議そうな顔をした誠に狗神はそう言うと、僕を部屋から連れ出して縁側へと
 向かう。

「・・・・・・僕、何かしましたか?」

 恐る恐る聞いてみると、狗神は首を横に振った。

「まあ座ってくれや」

 狗神の指示通り縁側に腰掛ける。すると狗神は僕の隣に座り、言った。

「・・・山霧の。五年前と雰囲気が違うな。やはり、あの事件のせいか?」

「・・・・・・そうですね」

 狗神はあの事件を知っていた。まあ、天狗さんの友達なのだから、聞いていても
 不思議はないのだが。

「君の親御さんが殺されて、弟さんが行方不明になった時の事、覚えてるかい?」

「・・・ええ」

「犯人は見なかったのか?」

「・・・はい」

「本当に?」

「・・・何が言いたい」

 思わず狗神を睨みつける。心の中を土足で踏み荒らされているような感じがして、
 不快だった。狗神はちょっと驚いた顔をした後、ニヤリと笑って言った。

「なあに、ちょっとした興味じゃ。あの山霧が妻諸共殺されおったのが不思議での」

「父を知っているんですか?!」

 今度は僕が驚き、狗神をバッと見る。狗神は懐かしむような遠い目をして言った。

「前に霧ヶ山の天狗と悪さをしておった時にの。あの若造、怒りの形相で妖刀を振り
 回したかと思ったら、銃まで取り出してのお・・・。おかげで傷だらけになって
 息子に怒られたわい」

「そんなことが・・・」

「あんな血気盛んな奴が所帯を持って子まで作ったと聞いたときには、天狗もワシも
 驚いたもんじゃ」

 自分の知っている父は穏やかな人だった。自分の知らない父の一面を知って、
 何となく嬉しくなる。

「まあ、つまりじゃ。ワシと天狗相手にいい勝負をしおったあ奴が殺されるなど、
 ワシには納得がいかん。だから知りたい」

 狗神は僕の目を見た後、頭を下げて言った。

「あの日の事を詳しく教えてくれ。犯人が分かればお前さんにも伝えよう。だから、
 ワシに情報をくれ」

 狗神の声は真剣だった。もしかしたら、さっき聞いた話以外にも接点があったの
 かもしれない。僕は少しの間を開け、口を開いた。

「・・・・・・分かりました。その代わり、このことは他の人に言わないで
 ください」

「分かった、約束しよう」

 そうして僕は話し出す。あの事件現場で見たもの、感じた気配・・・そして、父の
 最期の言葉を。


「・・・そうか。一つ、忠告しておく」

 話を聞き終わった狗神はそう言って僕を見る。

「お前さんの父親は強かった。そいつがヤバいと言ったんだ、間違っても一人で
 倒しに行こうなんて考えるなよ」

 なんでとか、だけどとか言いたかったが、狗神の目を見てやめた。
 そんなことをすれば死ぬぞと、目が訴えていたのだ。

「・・・分かりました」

 僕の返事を聞いて、狗神は頷いた。そして僕に手招きをする。もう少し寄れという
 ことなのだろうか?そう思い、狗神に近寄る。
 すると、狗神は突然僕の顔を自分の胸へ当て、固定した。

「え?!ちょっ、何するんですか!」

 驚きもがいてみるがビクともしない。どうしようと考えを巡らせていると、ふと
 狗神の手が僕の頭を撫でた。

「・・・辛かったな。話してくれて、ありがとう」

 そう言いながら、優しく、優しく頭を撫でてくる。
 この感覚を僕は知っている。大妖怪から逃げて家に帰った時、父さんがよくして
 くれていた撫で方。

「っ・・・!」

 涙が溢れてきそうになるのを必死に堪える。

「良いんじゃよ、我慢しなくて。誠達には聞こえないようにしてやるから。だから、
 ほら」

 頭上から狗神の優しい声が聞こえてくる。喋り方とは裏腹に彼の声は若く、
 柔らかかった。

「山霧の。お前はもうちょっと自分に素直になれ。泣きたいときは泣けばいいん
 じゃ」

 狗神の声が僕の心を揺さぶる。

「安心せい、お前さんの元には多くの者が集う。ワシの勘がそう言うておる!
 ・・・だから、独りじゃないんだぞ」

 何故この妖は、僕の欲しい言葉を投げ掛けてくるんだ。これじゃあ、僕は・・・。

「くっ・・・あっ、うあああああああぁ!!!!」

 僕は泣いた。ただひたすらに、狗神の胸の中で。誰も居ない家の中で耐えた分、
 人前では泣かないようにと堪えていた分。それを全て吐き出すように、ずっと。
 声を上げてあの日のように泣く僕に、狗神は何も言わず、ただ頭を撫で続けていて
 くれた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

主役の聖女は死にました

F.conoe
ファンタジー
聖女と一緒に召喚された私。私は聖女じゃないのに、聖女とされた。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

ここは貴方の国ではありませんよ

水姫
ファンタジー
傲慢な王子は自分の置かれている状況も理解出来ませんでした。 厄介ごとが多いですね。 裏を司る一族は見極めてから調整に働くようです。…まぁ、手遅れでしたけど。 ※過去に投稿したモノを手直し後再度投稿しています。

婚約破棄からの断罪カウンター

F.conoe
ファンタジー
冤罪押しつけられたから、それなら、と実現してあげた悪役令嬢。 理論ではなく力押しのカウンター攻撃 効果は抜群か…? (すでに違う婚約破棄ものも投稿していますが、はじめてなんとか書き上げた婚約破棄ものです)

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

悪役令嬢にざまぁされた王子のその後

柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。 その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。 そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。 マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。 人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

処理中です...