異能力と妖と

彩茸

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合同授業編

決着

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「どーしたの?考え込んでたら、避けれないよ~?」

 そう言いながら、誠は次々と技を繰り出す。殺気が凄い。

「・・・殺気が凄いですよ。殺したら失格って、分かってますか?」

「ん~・・・でも、本気でやるって言っちゃったし」

「・・・はい?」

「ボクね、とっても楽しいんだ。勝ち負けとかじゃなく、本気で静くんと戦えてる
 から」

 何となく分かってはいたが、誠は力をセーブする気が無いようだ。
 本気の攻撃VS本気の回避。そんなことをすれば、周りは無事ではない訳で。
 周辺の床はもうボロボロで、瓦礫が色んな所に散らばっている。無事なのは、
 先生が結界を張っている所だけだ。

「でも、殺すのは良くないと思いますよ」

 誠の攻撃を避けながら、僕は言った。誠は何故?という顔で、僕を見る。

「命を奪うという行為には、それなりの責任が生じます。それに、嫌じゃない
 ですか?友達に殺されるの」

「うーん・・・でもさ、死んだら生き返らせれば良いんじゃないの?何回でも、
 生き返ることは可能でしょ?そういう能力を持った先生がいたはずだけど」

 それが当たり前だというように、誠は笑顔で言った。確かに、生き返らせる能力を
 持った先生はいる。・・・だが、何故だろう。もの凄く腹が立った。生き返らせて
 また殺す。それが倫理的におかしいなんて理由じゃなく、もっと別の理由だという
 事は分かる。

「・・・・・・」

「ねっ?」

 誠は攻撃を止めない。僕はそれを避けながら、少し考えた。・・・いや、かなり
 考えたかもしれない。そしてやっと出てきたのは、あの事件。そして、あの時の
 家族の顔だった。とても苦しそうな表情の両親。そして鏡で見た、その時の自分の
 顔を思い出した。
 ・・・そうだ、殺されるとあんな事になるんだ。あんな思いをするんだ。それが
 嫌なんだ、腹が立つんだ!!

「・・・んじゃねぇ」

「えっ、何?」

「ふざけんじゃねぇぞ!良い訳ねぇだろうが!!」

 気付けば、僕は叫んでいた。感情に任せて、口から言葉が次々と出てくる。

「お前は知らねーんだろうが、大切な人が死んだら悲しいんだよ!!死ぬ奴も、
 きっと苦しいんだっ・・・!!」

「静、くん・・・?」

 誠は攻撃の手を止めて、驚いた顔で僕を見る。A組とB組の気絶していない生徒、
 そして先生達も僕を見る。そんなことは気にせずに、言葉を続けた。

「誠にもいるでしょ?大事な人が・・・。何回も、何回も生き返って、その度に
 苦しみながら死ぬ・・・。そんなの、嫌に決まってます」

 誠は何も答えず、俯く。しばしの沈黙の後、誠は先生の方を見て言った。

「ねえ先生、あと何分?」

「あ、後5分よ」

 先程までの殺気に当てられてか、先生が怯えた顔で答える。すると、誠は僕を見て
 言った。

「静くん、どうする?このまま続けるの?」

「当たり前、じゃないですか。君が僕を殺す気なら、僕は死なないために逃げ続け
 ます」

 少し冷静になった僕は、息を整えながら言う。誠は、じゃあ行くよ?と言って、
 攻撃を開始した。
 僕は避ける。誠の本気の攻撃を、本気で。ひらりひらりと攻撃をかわす度に、
 クラスメートから声が上がる。いつの間にか目を覚ましていた和正と佐野くんの
 声も聞こえる。一回失格になったら終了なので、目を覚ましたところで戦況は
 変わらない。
 倒す手段を持たず逃げることしかできない僕は、妖とのリアル鬼ごっこのおかげで
 瞬発力と持久力だけは人一倍あった。

「う~、当たらないなぁ・・・」

「ハア、ハア・・・誠、スタミナありすぎですよ・・・」

 僕は息が切れ始めているのに、誠は余裕の表情だ。


―――授業終了まで後2分というところで、僕は後ろにあった瓦礫に躓いて尻餅を
ついてしまった。誠が僕に近付いて来る。立とうとしたけど、疲労で足が動かない。

「もう終わりだよ、静くん♪」

 誠は笑顔で拳を振り上げた。殺気の籠ったその目に、本気で殺されると思った。
 反射的に目を瞑る。若干、走馬灯が見えた。

「・・・・・・?」

 だが、なかなか襲ってこない痛みに目を開けると、そこには青い顔をした誠が呆然
 と立っていた。

「・・・え?」

 何があったのだろう。そう思っていると、誠が声を震わせながら言った。

「い、今の・・・何?」

 先生達も驚いていた。霧がどうとか言っていたので、おそらく僕が何かしたの
 だろうという事が分かった。だって、この学年で霧を使うのは僕だけだから。
 ・・・霧が、僕を守った?命の危機が迫って、防衛本能が働いたのか?
 そんな事を考えていると、誠が倒れた。痛い足を引きずりながら近づくと、誠は
 気絶していた。

「あ・・・」

「狗神 誠、失格!勝者、B組!!」

 先生が高らかに言った。呆然としていた人達は、その声で現実に引き戻される。
 そして・・・。

「よっしゃあーーー!!」

 B組の皆が歓声を上げた。先生が結界を解き、皆が僕に近寄ってくる。
 そして口々に褒め、お礼を言ってきた。

「やったな、静也!」

「お疲れ様」

「あ、はい・・・」

 和正と佐野くんが、僕に向かって笑顔で言った。疲れきった僕は、喜びよりも
 休みたいという気持ちが強かった。
 僕はフラフラと立ち上がり・・・倒れた。あ、忘れてた。足動かないんだっけ。
 一回倒れてしまうと、眠気が押し寄せてきて・・・僕はそのまま眠ってしまった。
 授業なんてどうでも良くなってしまうほどに、とてつもなく眠たかった。

「お、おい静也?!」

「・・・大丈夫、寝てるだけだ」

「保健室に連れて行きましょう。狗神くんもね。・・・誰か手伝ってくれる?」
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