147 / 159
第四部
傷
しおりを挟む
―――その日から、数週間が経った。念蔵は俺達と暫く共に暮らすことになり、
御鈴が自身の生まれた山に住まわせる計画を進めている間に彼に家事を教えて
いた。糸繰はメモで会話する癖が治ったらしく、最近はメモを取り出そうとする
様子も見られなくなった。
「えっとお・・・なあ糸繰、これどうすれば良いんだ?」
「そのシャツはそっちのハンガーに掛けて、こっちの靴下はあの洗濯バサミが
沢山吊り下がってるところに干す。このシーツは・・・念蔵の背じゃ無理が
あるな。オレが干すよ」
そんな念蔵と糸繰の声を聞きながら、糸繰も成長したなあ・・・なんてしみじみ
する。
「蒼汰、手が止まっておるぞ」
「ああ、ごめん」
机を挟んで対面側に座った御鈴に言われハッとしつつ、俺は利斧から渡されていた
資料に再び視線を落とした。
・・・自身が持つ神の力を使いこなすため、俺は利斧や弓羅と実践形式で扱い方を
体に叩き込むことになった。それとは別にと、利斧が持つ神についての知識を
雨谷に手伝わせながら纏めたらしい資料を読んで、神視点での神についての知識を
頭に叩き込む。弓羅曰く利斧の知識量は相当なものだそうで、それを知識がほぼ
ゼロに等しい俺へ噛み砕いて伝えてくれるこの資料は、読んでいてもかなりの
努力が感じられるものとなっていた。
「蒼汰、干せたぞ」
「ありがとう。・・・あれ、糸繰?」
俺の隣に座った糸繰を見て、俺は首を傾げる。
ん?と首を傾げた糸繰に、俺は思い切って言った。
「首のとこ、どうした?傷みたいになってるけど・・・」
「・・・・・・ああ、まだ残ってたのか」
ボソッと呟きながら、糸繰は首に付いている傷のようなものに手を当てる。
意味深な彼の発言に俺が言及しようとすると、先に御鈴が言った。
「糸繰、またコソコソと何かしておったんじゃな?」
「それは、その・・・ごめんなさい」
「妾達に言えぬことか?」
御鈴の言葉に、言えない訳じゃないですけど・・・と糸繰は目を逸らしながら
答える。そして彼は、少し悩むような表情を見せた後ゆっくりと口を開いた。
「・・・オレ、前みたいに妖術使えるか分からなくて。呪いが解けたから、もう
自死ができるんです。荒契様の加護のおかげで、前よりは妖術を使う時の妖力
消費が抑えられるようになったみたいではあるんですけど・・・それでも、
死んで迷惑掛けるのもなって思って」
御鈴は何も言わない。勿論、俺や念蔵、令も黙って糸繰の言葉に耳を傾けていた。
「だから、その・・・戦う手段を、増やそうと思って。何かないかと思って利斧様に
相談したら、武器を持ってみたらどうかと言われて。何の武器が良いのか分からな
かったので、荒契様みたいに刀はどうかなと思って雨谷様の所に・・・」
そこで話すのをやめてしまった糸繰に、俺は静かな声で聞いた。
「雨谷にやられたのか?それ」
その言葉を聞いた瞬間、糸繰は慌てたように言った。
「オレが頼んだんだ!触ったこともない奴にあげたくないって言われたから、一戦
やらせてくれって頼んで・・・。借りた刀で、雨谷様と軽く戦ったんだ。勿論、
雨谷様は手加減してくれて。でもオレがちゃんと注意してなかったから、一発
避け損ねて・・・」
段々と消え入りそうになっていく声に、怒ってないからと優しく言いながら糸繰の
頭を撫でる。
「それで、どうなったんだ?」
そう聞くと、糸繰はボソボソと言った。
「少し考えさせてって。あれから数日経ったけど、音沙汰なくて・・・」
「ああ、その事なんですが」
突然、後ろから声が掛かる。心臓が飛び出るかと思う程驚いたが、聞き慣れた声
だったので俺は振り向いた。
「何で突然現れるんですか、利斧・・・」
俺の言葉に、利斧は笑う。
「丁度、雨谷に呼んでこいと頼まれましてね。糸繰を迎えに来た次第です」
貴方も来ますか?と利斧は俺を見る。頷くと、御鈴が言った。
「妾も付いて行って良いかの・・・?」
御鈴の言葉に、利斧は大丈夫だと思いますと頷く。
「ボクは結果だけ知れたら良いや」
「おらは、神様・・・荒契様の、重役の方々の所に行く用事があっから」
令と念蔵はそう言って行かないという意思表示をしてきたので、俺と御鈴が糸繰と
共に雨谷の所へ向かうことになったのだった。
御鈴が自身の生まれた山に住まわせる計画を進めている間に彼に家事を教えて
いた。糸繰はメモで会話する癖が治ったらしく、最近はメモを取り出そうとする
様子も見られなくなった。
「えっとお・・・なあ糸繰、これどうすれば良いんだ?」
「そのシャツはそっちのハンガーに掛けて、こっちの靴下はあの洗濯バサミが
沢山吊り下がってるところに干す。このシーツは・・・念蔵の背じゃ無理が
あるな。オレが干すよ」
そんな念蔵と糸繰の声を聞きながら、糸繰も成長したなあ・・・なんてしみじみ
する。
「蒼汰、手が止まっておるぞ」
「ああ、ごめん」
机を挟んで対面側に座った御鈴に言われハッとしつつ、俺は利斧から渡されていた
資料に再び視線を落とした。
・・・自身が持つ神の力を使いこなすため、俺は利斧や弓羅と実践形式で扱い方を
体に叩き込むことになった。それとは別にと、利斧が持つ神についての知識を
雨谷に手伝わせながら纏めたらしい資料を読んで、神視点での神についての知識を
頭に叩き込む。弓羅曰く利斧の知識量は相当なものだそうで、それを知識がほぼ
ゼロに等しい俺へ噛み砕いて伝えてくれるこの資料は、読んでいてもかなりの
努力が感じられるものとなっていた。
「蒼汰、干せたぞ」
「ありがとう。・・・あれ、糸繰?」
俺の隣に座った糸繰を見て、俺は首を傾げる。
ん?と首を傾げた糸繰に、俺は思い切って言った。
「首のとこ、どうした?傷みたいになってるけど・・・」
「・・・・・・ああ、まだ残ってたのか」
ボソッと呟きながら、糸繰は首に付いている傷のようなものに手を当てる。
意味深な彼の発言に俺が言及しようとすると、先に御鈴が言った。
「糸繰、またコソコソと何かしておったんじゃな?」
「それは、その・・・ごめんなさい」
「妾達に言えぬことか?」
御鈴の言葉に、言えない訳じゃないですけど・・・と糸繰は目を逸らしながら
答える。そして彼は、少し悩むような表情を見せた後ゆっくりと口を開いた。
「・・・オレ、前みたいに妖術使えるか分からなくて。呪いが解けたから、もう
自死ができるんです。荒契様の加護のおかげで、前よりは妖術を使う時の妖力
消費が抑えられるようになったみたいではあるんですけど・・・それでも、
死んで迷惑掛けるのもなって思って」
御鈴は何も言わない。勿論、俺や念蔵、令も黙って糸繰の言葉に耳を傾けていた。
「だから、その・・・戦う手段を、増やそうと思って。何かないかと思って利斧様に
相談したら、武器を持ってみたらどうかと言われて。何の武器が良いのか分からな
かったので、荒契様みたいに刀はどうかなと思って雨谷様の所に・・・」
そこで話すのをやめてしまった糸繰に、俺は静かな声で聞いた。
「雨谷にやられたのか?それ」
その言葉を聞いた瞬間、糸繰は慌てたように言った。
「オレが頼んだんだ!触ったこともない奴にあげたくないって言われたから、一戦
やらせてくれって頼んで・・・。借りた刀で、雨谷様と軽く戦ったんだ。勿論、
雨谷様は手加減してくれて。でもオレがちゃんと注意してなかったから、一発
避け損ねて・・・」
段々と消え入りそうになっていく声に、怒ってないからと優しく言いながら糸繰の
頭を撫でる。
「それで、どうなったんだ?」
そう聞くと、糸繰はボソボソと言った。
「少し考えさせてって。あれから数日経ったけど、音沙汰なくて・・・」
「ああ、その事なんですが」
突然、後ろから声が掛かる。心臓が飛び出るかと思う程驚いたが、聞き慣れた声
だったので俺は振り向いた。
「何で突然現れるんですか、利斧・・・」
俺の言葉に、利斧は笑う。
「丁度、雨谷に呼んでこいと頼まれましてね。糸繰を迎えに来た次第です」
貴方も来ますか?と利斧は俺を見る。頷くと、御鈴が言った。
「妾も付いて行って良いかの・・・?」
御鈴の言葉に、利斧は大丈夫だと思いますと頷く。
「ボクは結果だけ知れたら良いや」
「おらは、神様・・・荒契様の、重役の方々の所に行く用事があっから」
令と念蔵はそう言って行かないという意思表示をしてきたので、俺と御鈴が糸繰と
共に雨谷の所へ向かうことになったのだった。
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる
三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。
こんなはずじゃなかった!
異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。
珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に!
やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活!
右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり!
アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。
巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!
あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!?
資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。
そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。
どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。
「私、ガンバる!」
だったら私は帰してもらえない?ダメ?
聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。
スローライフまでは到達しなかったよ……。
緩いざまああり。
注意
いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
人生を共にしてほしい、そう言った最愛の人は不倫をしました。
松茸
恋愛
どうか僕と人生を共にしてほしい。
そう言われてのぼせ上った私は、侯爵令息の彼との結婚に踏み切る。
しかし結婚して一年、彼は私を愛さず、別の女性と不倫をした。
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる