神と従者

彩茸

文字の大きさ
上 下
145 / 151
第四部

模擬戦

しおりを挟む
―――かなり話し込んでいたのか、ふと時計を見るといつの間にか昼前になって
いた。待たせ過ぎたかと思いつつ糸繰の手を引いてリビングへ向かうと、他の
面々は楽しそうに談笑していて。

「おや、戻ってきましたか。どうします?先に昼食にしますか?」

 利斧がそう言って俺を見たので、どうしようかと御鈴を見る。

「妾が作っておくから、食事の支度が済むまで少し教わってくると良い」

 御鈴の言葉に、そうしましょうかと利斧が立ち上がる。弓羅と狗神も続くように
 立ち上がると、糸繰が不安そうな顔で俺の服を引っ張って言った。

「死ぬなよ・・・?」

「そんな大袈裟な。大丈夫だって」

 糸繰にそう言うと、利斧がクスリと笑う。

「大丈夫です、

 利斧の言葉が嫌に響く。流れた冷や汗を誤魔化すように苦笑いを浮かべると、
 弓羅が狗神の頬をつつきながら口を開いた。

「怪我しても、わんコロが何とかするってさー」

「・・・まあ、程度によるがの」

 目を逸らした狗神に、ますます不安が募る。何か言ってくれないかなと御鈴と令を
 見るも、彼女達はただただ苦笑いを浮かべていた。



―――庭へ出ると、利斧が俺の頭をポンポンと撫でながら口を開いた。

「さて、始める前にいくつか確認しておきましょうか」

「確認?」

「ええ。教えるといっても、そもそも貴方のを知らなければ教えるものも
 教えられませんし。貴方は何の神で、どういった力が使えるのか最初に知って
 おこうと思いまして」

 話してくれますよね?そう言った利斧に頷き、俺は言った。

「俺は喪失の神で、何か色々と失わせることができる・・・みたいです。感覚とか、
 戦意とか・・・」

「パッとしない言い方ですが・・・まあ、聞く限り強力な神通力が使えるよう
 ですね。今回神の力が半暴走状態になったのは、糸繰を生かすために喪失とは
 違う力を強引に使おうとしたからでしょう。いるんですよねえ、の力を
 使おうとして暴走する神。・・・話を戻しましょう。では貴方は、神通力を
 使う際?」

 利斧の問いに、えっと・・・と言葉に詰まる。感覚で使っていますなんて言って
 良いのだろうかと思っていると、弓羅が言った。

「別に何も考えていないっていうなら、それでも良いさ。神通力を感覚で使っている
 神もいれば、術式までちゃんと考えている神もいる。アンタはどっちだい?」

「えっと・・・感覚で使ってます」

 そう答えると、そうですかと利斧は言う。そして狗神をちらりと見ると、俺に
 視線を戻して彼は言った。

「感覚派なら、習うより慣れよといった感じでしょうか。手合わせしましょう、
 蒼汰」

「はあ?!!」

 思わず大きな声が出る。何で俺が戦闘特化の神である《武神》なんかと戦わ
 なければいけないのか。

「大丈夫です、手加減はしますよ。何より、私は貴方の力に興味が・・・いえ、
 貴方の力を伸ばしたいと思っていますから」

「何で言い直したんですか・・・」

 利斧の言葉に溜息を吐く。拒否権がなさそうな空気に、俺は諦めて出した柏木を
 握りしめる。利斧もニコリと笑い、手元に戦斧を出現させた。武器を構えた
 俺達に、弓羅は面白そうな顔をする。

「じゃあ、アタシが合図を出してあげようじゃないか。・・・よーい、始め!」

 弓羅の合図と共に、利斧が地面を蹴った。一瞬で距離を詰めてきた彼の攻撃を
 間一髪で避ける。
 振り下ろされた戦斧を柏木で受け流すと、柏木がガリガリッと音を立てた。

「うわっ」

 驚きの声を上げつつ、利斧から距離を取って柏木の状態を確認する。
 戦斧が当たった場所はささくれており、あんなに頑丈な柏木が?!と内心とても
 驚いていた。

「おや、どうしました?」

 そう言いつつも攻撃の手を緩めない利斧に、かなり焦る。

「利斧相手に正面から戦ってたら、武器壊れるぞー。神通力使えー」

 弓羅からのヤジが飛ぶ。そんなこと言われてもなんて思っていると、利斧の攻撃を
 受け止めた柏木がミシッと音を立てた。それと同時に、体が宙を舞う。

「カハッ・・・」

 一瞬のことで受け身が取れず、地面に思いきり背中を打ち付ける。痛みはないが、
 口の中が血生臭い。

「ゲホッ、ゴホッゴホッ・・・あっ」

 起き上がりつつ咳き込むと、口を押えていた手がべっとりと血で染まっていた。

「やりすぎてしまいましたか?すみません、折角ですし気絶するまでやり合い
 ましょうか」

「ひっ・・・」

 サラッと言った利斧に、小さく悲鳴が漏れる。ニコニコと笑いながら一歩一歩
 近付いてくる利斧に、自然と体が震える。
 ・・・どうしよう、怖い。凄く怖い。恐怖で真っ白になった頭で、俺は衝動的に
 口を動かした。

『我、拒絶す。我に害を与うる者よ、その足を止めよ』

「・・・おや?」

 ピタッと利斧の歩みが止まる。不思議そうな声を上げた利斧が一歩踏み出そうと
 すると、体勢を崩して俺の目の前で膝を突いた。

「おいおい、何やってんだよ利斧ー」

「いえ、少し・・・」

 弓羅の言葉に、利斧は困惑したような顔をして言う。少し考える様子を見せた
 利斧は、なるほどと呟いて俺を見た。

「厄介ですね、その力。神通力は格上に効きにくいというを無視している。
 貴方が特殊だからでしょうか?」

 そう言った利斧は、興味津々といった顔をしていて。俺は震えの止まらない体を
 引き摺って利斧から距離を取りながら、分からないですと首を横に振る。

「まあ、からといって、動けない訳じゃありませんし。
 ・・・少し、楽しくなってきましたよ」

 初めて見せた、利斧の好戦的な笑み。立ち上がった彼に、逃げろと脳が警鐘を
 鳴らす。

「うっわ・・・久々に見たよ、利斧のヤローのそんな顔。アンタやるねえ」

「そんなこと言っとる場合か?!利斧を止められるのは弓羅だけじゃろう、早く
 止めてくれ!」

 感心したような顔の弓羅に、狗神が慌てて言う。ええ~なんて弓羅が言っている
 間にも、利斧は俺に戦斧を振り下ろした。
 咄嗟に避け、柏木を利斧に向ける。震える腕の所為で、柏木の先がブレていた。



―――それから、数分経った。恐怖で正常な思考ができなくなっているのは分かって
いた。真っ白な頭で、思い浮かぶ言葉を連ねていく。
口から吐き出される言葉の全ては神通力を発動させるための言葉で。足を止めろと、
手を止めろと、来るなと言っても、目の前の《武神》は止まらなかった。

「あ・・・うぁ・・・」

 言葉にならない声を発し、俺は柏木を振る。怖い、涙が止まらない。
 ・・・戦斧が、俺の頬を掠める。肩にも当たり、地面に赤が飛び散る。

「一々全てをいては、間に合わなくなりますよ。簡単な神通力を使うときは、
 言葉を省略しなさい」

「・・・・・・」

「聞いていますか?蒼汰」

「あ・・・ごめ、なさ・・・ごめんなさい、ごめんなさい・・・」

 震える声で、俺は謝り続ける。その様子を見ていた狗神が、ボソリと言った。

「やりすぎじゃろう、あれは」

「あれでもかなり手加減してるからね。アタシ達《武神》の力は、あんなもん
 じゃない」

 弓羅の声が聞こえる。意識がそちらに向いた途端、脇腹が抉れた。

「何故避けなかったんです?・・・ああ、もしかして避けられませんでした?」

 楽しそうに笑みを浮かべそう言った利斧に、俺は何も返せず俯く。
 血の止まらない脇腹に手を当てると、赤く染まった手のひらと共に気持ち悪い
 感触が脳を刺激した。
 沢山血が出ている。その事実を認識した途端、体がグラリと傾いた。地面に
 倒れ込むと、意識が朦朧とし始める。

「ふむ・・・ここまでですかね」

 利斧がそう言って戦斧を手元から消す。狗神が駆け寄ってきて、俺の傷口に手を
 当てた。

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい・・・」

 消え入りそうな意識の中、俺はボソボソと呟き続ける。誰に謝っているんだろう、
 何を謝っているんだろう。何も、分からない。

「殺さないんじゃなかったのかい?」

「あの程度では死なないでしょう。彼はもう、人間じゃないんですから」

 弓羅と利斧の会話が聞こえる。狗神が何かを言おうとしたところで、俺の意識は
 完全に途絶えた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

[R18] 激しめエロつめあわせ♡

ねねこ
恋愛
短編のエロを色々と。 激しくて濃厚なの多め♡ 苦手な人はお気をつけくださいませ♡

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

RUBBER LADY 屈辱の性奴隷調教

RUBBER LADY
ファンタジー
RUBBER LADYが活躍するストーリーの続編です

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

処理中です...