神と従者

彩茸

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第四部

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―――暫くして、御鈴が部屋に戻ってくる。彼女は深めのお椀が二つ乗せられた
お盆を持っており、お椀を一つずつ俺と糸繰の前へ置いた。

「丸一日寝ていたんじゃ、お腹も空くじゃろう?」

 御鈴の言葉に、お椀を覗き込んでいた糸繰が首を傾げる。

〈これ、何だ?〉

 そう書いたメモを渡してきた糸繰に、何でメモ?と思いながら俺は言った。

「雑炊だな。正確には違うけど、お粥みたいなものだよ」

「色々と調べての、妾の新作じゃ!」

 ふふんと胸を張った御鈴に、糸繰は興味津々な様子で再びお椀を覗き込む。

〈良い匂いがする。〉

「そうだな・・・で、何でメモなんだ?」

 メモを渡してきた糸繰にそう聞くと、彼は思い出したような顔で小さく、
 ・・・あ。と呟いた。

「二年近くメモだったから、癖になってて・・・。気を抜くと、つい」

「ああ、そっか。まあ少しずつ慣れてけば良いよ」

 恥ずかしそうに俯く糸繰に、俺はそう言いながら蓮華を手に取る。いただきますと
 手を合わせ、雑炊を口に運ぶ。出汁の香りが口いっぱいに広がり、自然と口が
 緩んだ。

「美味しいか?」

 そう聞いてきた御鈴に蓮華を口に運びながらコクコクと頷くと、彼女は嬉しそうに
 笑う。
 早々に食べ終わり糸繰の方を見ると、彼は時折息を吐きながら蓮華をゆっくりと
 口に運んでいた。

「大丈夫か・・・?」

「ん・・・。美味しい、から、頑張る・・・」

 俺の問いにそう答えながら、糸繰は少量の雑炊を再び口に入れゆっくりと飲み
 込んだ。

「無理はするなよ?残しても大丈夫じゃからの・・・?」

 御鈴の言葉にコクリと頷いた糸繰を見て、狗神が口を開いた。

「前にも言ったが、お主の臓器は一度に治せんからの。中途半端に治している部分も
 あるから、辛くなったらすぐにやめるんじゃよ」

 その言葉に、糸繰の動きが止まる。少し悲しそうな顔をした彼は、蓮華を置いて
 申し訳なさそうな顔で御鈴を見た。

「・・・ごめんなさい」

 悲しそうな声で言った糸繰に、御鈴が謝るでない!と慌てて言う。疲れた顔で俺に
 もたれ掛かってきた糸繰の背を優しく擦りながら寝るか?と聞くと、彼は小さく
 首を横に振った。

〈食べたいのに、飲み込むの苦しい・・・。〉

「ちゃんと治療してもらって、それから食べれば良いさ。また作ってもらえば良い」

 悔しそうな顔でメモを渡してきた糸繰にそう言うと、彼は小さく頷いて御鈴を
 見る。

「任せよ!何度でも作ってやる」

 優しい顔で言った御鈴に、糸繰は嬉しそうな顔で頷く。その様子を見ていた弓羅が
 狗神に耳打ちすると、狗神は頷いて俺に言った。

「糸繰は暫く安静じゃが、お主は動けるじゃろう?明日以降で良いから少し
 付き合え」

「え、付き合うって?」

 そう聞くと、弓羅が利斧の肩に腕を置きながら言った。

「利斧が、アンタを殺すのはもったいないって言ってたからねえ。アタシらで、
 アンタに神の力の使い方を叩き込もうって話になったのさ」

「はあ・・・」

「すまぬの。妾は別件で席を外すから、教えてやれぬのじゃ」

 御鈴がそう言って申し訳なさそうな顔をする。別件って?と聞くと、彼女は
 苦笑いを浮かべて言った。

じゃよ。勝手に領域へ乗りこんで、勝手に神を殺した者のな」

「げ・・・ごめん・・・」

 俺の所為か。そう思いながら謝ると、御鈴は気にするなと笑みを浮かべる。

「襲撃を受けた場合や、社を持たない神などの場合は正当防衛で何とでもなるんです
 けどね。今回のような、社のある神へこちら側から攻め入った場合は、少々厄介な
 ことになりまして」

「厄介なこと、ですか」

 利斧の言葉にそう言うと、彼は頷いて続けた。

「ええ。神々がゴタゴタを起こして大事になった時に動くのは、大体の面々
 なので。大事になる前に報告なりなんなりしてもらった方が も助かる
 でしょうし・・・」

 彼らって誰だ。そう思っていると、弓羅が俺を見て聞いた。

「もしかしてアンタ、神社のことについて何も知らないのかい?」

「あ、はい・・・」

 俺の答えに、弓羅は御鈴を見る。御鈴が困ったような顔で利斧を見ると、彼は
 何とも言えない顔で溜息を吐いた。

「・・・後程、御鈴も交えて教えるとしましょう」
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