神と従者

彩茸

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第四部

報告

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―――糸繰を探して、妖と二人で歩き回る。俺に妖気を探知する力はないので、
妖に糸繰の妖気を探してもらっていた。

「言っとくが、おらだって妖気で個人を見分けるのは無理だからな?信者には
 大妖怪も結構いる。あの従者が鬼だから、突出した妖気で何となく分かっけど
 よお・・・」

「助かるよ、ありがとう」

「お礼言われると、変な気分になるなあ。・・・にしても、あんたどうして神様に
 喧嘩売ったんだ?」

「お前らが従者って呼んでる糸繰は、呪いの神・・・荒契だっけ?あいつに捨て
 られた後、俺の弟になったんだ。荒契から俺達を守るために、糸繰はこの場に
 戻ってきた。だから、今度は俺が糸繰を助けに来たんだよ」

「あんた、従者の思いを踏みにじってるじゃねえか。守るために戻ってきたのに、
 わざわざ敵地に足を踏み入れたってことだろ?」

「まあ、そうなるな。・・・それでも、俺は糸繰がこれ以上苦しむのを放って
 おきたくないから」

「・・・そうかい」

 妖とそんな会話をしていると、ふと妖が立ち止まる。妖の視線の先には他の信者と
 思わしき狐の妖がおり、妖はそいつに向かって駆け出した。

「あ、なあなあ!従者見てねっか?」

「従者?ああ、それなら我が神に首根っこ掴まれて、お住まいへ向かわれましたよ」

「そっか、ありがとなあ!」

 妖は信者と言葉を交わすと、俺の所へ戻ってくる。

「神様の住まいはあっちだ。早く行くど」

「あ、ああ。ありがとう・・・」

 妖のコミュニケーションスキルに驚き、ぎこちない返事をする。不思議そうな顔を
 している妖に何でもないと首を横に振り、俺は妖の後ろに付いて歩き出した。
 ・・・少し歩くと、これまで見かけた建物よりはしっかりとした造りの建物を
 見つける。それは、庭や物置小屋のある木造の一軒家に見えた。

「・・・・・・あれ?」

 妖が不思議そうな声を上げる。

「どうした?」

「いや、従者の妖気が物置小屋みてえな所からするなあと思ってよ」

 俺は妖の言葉を信じ、柏木を出しつつゆっくりと物置小屋のような建物へ歩を
 進める。
 物置小屋の外見にはそぐわない新しめの扉に違和感を覚えつつ、鍵のかかって
 いない錠前を外し扉をそっと開けた。

「うあっ・・・」

 妖の小さな悲鳴が聞こえる。俺も、目の前の光景を見て絶句していた。
 ・・・床一面に広がる赤。鉄臭いニオイに混じる、吐瀉物特有のニオイ。そして、
 部屋の隅で蹲るように眠っている糸繰の姿。

「糸繰っ!!」

 俺が糸繰へ駆け寄り体を揺すると、彼は薄っすらと目を開ける。そしてガバッと
 勢いよく起き上がると、怯えた顔で俺から離れた。

「ど、どうした?俺だよ、蒼汰だよ」

 そう言うと、糸繰はハッとした顔で俺を見る。

〈ごめん寝ぼけてた。おかえり、蒼汰。〉

 そう書いたメモを渡してきた糸繰は、ゆっくりと俺の後ろに居た妖を見る。

「おら、何もしてねえ!何も見てねえからっ!!」

 顔を青ざめさせた妖の言葉に、糸繰は首を傾げる。

「ここまで案内してもらったんだ。敵意は無いよ」

 そう言うと、頷いた糸繰は妖にメモを見せた。

〈扉閉めてくれ。主に見つかるとまずいから。〉

「あ、ああ分かった」

〈悪いな、臭いだろ。暫くすれば消えるから、それまで我慢してくれ。〉

「お、おお、気にしてねっから・・・」

 明らかに挙動不審になっている妖に、糸繰は困ったように笑みを浮かべる。

〈大丈夫、命令されてないから殺さない。それにオレ、お前の名前知らないし。〉

「そうなのか?良かったあ・・・」

 糸繰のメモを見て安堵した様子の妖。それを見た糸繰は頷くと、俺を見てメモに
 ペンを走らせた。

〈主の名前、分かったのか?〉

「ああ。それと、あの仮面が何なのかも分かった」

 そうして俺は、糸繰に荒契の情報を伝えるのだった。
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