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第三部
仲
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―――少しして、糸繰を背に乗せた狗神がやってくる。それと同時に狗神の前へ
現れた宇迦と御魂は、糸繰を見て特別じゃからなと狗神に言った。
「分かっておる。・・・さて、油断して大怪我をした馬鹿者は何処のどいつじゃ?」
狗神はそう言いながら、俺の所へ歩いてくる。その後ろから、糸繰が心配そうな
顔で付いてきた。
〈大丈夫か?血が必要ならあげるけど。〉
「いや、いいよ。そこまでじゃない」
メモを渡してきた糸繰にそう返すと、彼は分かったと言いたげに小さく頷く。
・・・狗神に神通力で怪我を治してもらっていると、由紀が宇迦と御魂と共に
興味津々な顔でやってきた。
「鬼だ、初めて会った・・・!」
「お主じゃろう?狗神が言っておった御鈴の信者というのは」
目を輝かせている由紀と、顔は冷静を装っているが好奇心が隠し切れていない
様子の宇迦。御魂は何も言わなかったが、糸繰に興味津々といった顔をしていた。
糸繰は宇迦と御魂を見た後、不安そうな顔で狗神を見る。狗神が無言で微笑むと、
糸繰は安心した様な顔で彼らに軽く頭を下げた。
「いっとっくりー!!」
圭梧が嬉しそうな顔でそう言いながら糸繰へ駆け寄り、肩を抱く。糸繰は少し
驚いた顔をしながらも、嬉しそうな顔でメモに何かを書いて渡していた。
「あれ、そんなに仲良かったっけ?」
そう聞くと、圭梧はニッコリと笑って言った。
「実はさ、夏以降ちょくちょく会うようになったんだよ。糸繰が狗神さんの所へ
行った帰りとか、散歩中とか・・・」
「そういえば糸繰、散歩に行く回数増えてきたよな。もしかして、圭梧に会いに?」
そう言って糸繰を見ると、彼は首を横に振る。
〈会うのはいつも偶然。散歩したい気分になったときが、たまたま圭梧の外出
タイミングと被ってるだけ。〉
「大体帰宅中に会うからさ、のんびり歩きながら色々話してたんだよ。
・・・そういや糸繰、体調大丈夫か?最近、治療受けた後に体調悪く
なるって言ってなかったっけ?」
糸繰のメモを覗き込んだ圭梧が付け加えるように言った後、心配そうな顔で
糸繰を見る。
グッタリしてたあの日以外にも体調悪くなってたのか・・・。そう思いながら
糸繰を見ると、彼は気まずそうな顔で俺を見ていた。
「・・・体調悪くなるの、黙ってたな。ただでさえ、呪い返しの練習で体調悪く
してるってのに」
〈ごめんなさい。〉
俺の言葉に、糸繰は俯きがちにメモを渡してくる。
「どうせ、心配掛けたくなかったとかそんな理由だろ。それで、今は大丈夫
なのか?」
〈さっきまで休ませてもらってたから、今は大丈夫。帰ろうと思ってたら、静也から
電話が掛かってきたんだ。〉
メモを見て、そうだったのかと頷く。
「ほれ、終わったぞ。・・・それと、糸繰」
俺の肩から手を離した狗神は、ゆっくりと糸繰を見る。糸繰は狗神の表情を見て、
サッと顔を青くした。
「お主はすぐに隠したがる・・・。今までの環境なぞ気にせず、些細な事でも
御鈴達に相談しろと言ったじゃろうが」
怒気を含んだ声。糸繰が怯えた顔で数歩下がると、近付いていた静也さんに
トンッと背中がぶつかる。
「まあまあ、怒んなくても良いだろ?」
糸繰の頭をポンポンと撫でながら静也さんが狗神に言う。狗神は溜息を吐くと、
立ち上がって言った。
「そんなに怯えられる程、怒ってはおらん。・・・糸繰、お主は必要以上に怖がり
過ぎじゃ。今までの暮らしを忘れろとは言わんが、昔は昔、今は今じゃろう。
相談したところで怒られることはないし、捨てられることもない」
その言葉に、糸繰は暗い顔で頷いた。圭梧は糸繰がどのような暮らしをしていた
のか知らないはずだが、表情から何かを察したのか口を開く。
「大丈夫だよ。トラウマって早々治るもんじゃないけどさ、マシにはなるから。
・・・まあ、俺が言えたことじゃないけど」
糸繰は圭梧を見た後、俺を見る。首を傾げると、彼は少し安心した様な顔で首を
横に振った。
「糸繰、遊ぼう!」
ふと、御鈴が言う。きょとんとした顔の糸繰に近付いた御鈴は、彼の腕を引っ張り
ながら言った。
「暗い顔は、お主に似合わぬ!宇迦、御魂、お主らも一緒に遊ばぬか?」
「良いぞ!我もその鬼が気になっておったのじゃ!」
御魂が元気よく答える。
「由紀もどうじゃ、久々に遊ぼう!」
宇迦がそう言って由紀を見る。
「やったあ!遊びます!!」
由紀が嬉しそうに答え、彼女達は糸繰を取り囲みながら拝殿の裏へと消えて
いった。
「さて、俺は着替えてくるかな」
静也さんがそう言って、伸びをして去っていく。
「圭梧くん、夕飯はどうする?食べていくなら晴樹くんに連絡入れておくけど」
「え、良いの?!じゃあお願いします!」
彩音さんの提案に圭梧が嬉しそうに答える。
「蒼汰くんはどうする?」
そう言って彩音さんが俺を見たので、俺は首を横に振って言った。
「多分帰ったら令が腹を空かせているので、帰ってから食べます」
「じゃあ、お土産用意しておくわね」
彩音さんの言葉に、ありがとうございますと笑みを浮かべる。おそらくお土産は
稲荷寿司だろう。ここの稲荷寿司はとても美味しいから、正直言って凄く嬉しい。
「ワシも油揚げ貰って帰るかの」
狗神がそう言ったので、彩音さんは用意しますねと苦笑いを浮かべた。
・・・それから俺、圭梧、狗神は、御鈴達が戻ってくるまで賽銭箱の前に腰掛けて
他愛もない話で盛り上がるのだった。
現れた宇迦と御魂は、糸繰を見て特別じゃからなと狗神に言った。
「分かっておる。・・・さて、油断して大怪我をした馬鹿者は何処のどいつじゃ?」
狗神はそう言いながら、俺の所へ歩いてくる。その後ろから、糸繰が心配そうな
顔で付いてきた。
〈大丈夫か?血が必要ならあげるけど。〉
「いや、いいよ。そこまでじゃない」
メモを渡してきた糸繰にそう返すと、彼は分かったと言いたげに小さく頷く。
・・・狗神に神通力で怪我を治してもらっていると、由紀が宇迦と御魂と共に
興味津々な顔でやってきた。
「鬼だ、初めて会った・・・!」
「お主じゃろう?狗神が言っておった御鈴の信者というのは」
目を輝かせている由紀と、顔は冷静を装っているが好奇心が隠し切れていない
様子の宇迦。御魂は何も言わなかったが、糸繰に興味津々といった顔をしていた。
糸繰は宇迦と御魂を見た後、不安そうな顔で狗神を見る。狗神が無言で微笑むと、
糸繰は安心した様な顔で彼らに軽く頭を下げた。
「いっとっくりー!!」
圭梧が嬉しそうな顔でそう言いながら糸繰へ駆け寄り、肩を抱く。糸繰は少し
驚いた顔をしながらも、嬉しそうな顔でメモに何かを書いて渡していた。
「あれ、そんなに仲良かったっけ?」
そう聞くと、圭梧はニッコリと笑って言った。
「実はさ、夏以降ちょくちょく会うようになったんだよ。糸繰が狗神さんの所へ
行った帰りとか、散歩中とか・・・」
「そういえば糸繰、散歩に行く回数増えてきたよな。もしかして、圭梧に会いに?」
そう言って糸繰を見ると、彼は首を横に振る。
〈会うのはいつも偶然。散歩したい気分になったときが、たまたま圭梧の外出
タイミングと被ってるだけ。〉
「大体帰宅中に会うからさ、のんびり歩きながら色々話してたんだよ。
・・・そういや糸繰、体調大丈夫か?最近、治療受けた後に体調悪く
なるって言ってなかったっけ?」
糸繰のメモを覗き込んだ圭梧が付け加えるように言った後、心配そうな顔で
糸繰を見る。
グッタリしてたあの日以外にも体調悪くなってたのか・・・。そう思いながら
糸繰を見ると、彼は気まずそうな顔で俺を見ていた。
「・・・体調悪くなるの、黙ってたな。ただでさえ、呪い返しの練習で体調悪く
してるってのに」
〈ごめんなさい。〉
俺の言葉に、糸繰は俯きがちにメモを渡してくる。
「どうせ、心配掛けたくなかったとかそんな理由だろ。それで、今は大丈夫
なのか?」
〈さっきまで休ませてもらってたから、今は大丈夫。帰ろうと思ってたら、静也から
電話が掛かってきたんだ。〉
メモを見て、そうだったのかと頷く。
「ほれ、終わったぞ。・・・それと、糸繰」
俺の肩から手を離した狗神は、ゆっくりと糸繰を見る。糸繰は狗神の表情を見て、
サッと顔を青くした。
「お主はすぐに隠したがる・・・。今までの環境なぞ気にせず、些細な事でも
御鈴達に相談しろと言ったじゃろうが」
怒気を含んだ声。糸繰が怯えた顔で数歩下がると、近付いていた静也さんに
トンッと背中がぶつかる。
「まあまあ、怒んなくても良いだろ?」
糸繰の頭をポンポンと撫でながら静也さんが狗神に言う。狗神は溜息を吐くと、
立ち上がって言った。
「そんなに怯えられる程、怒ってはおらん。・・・糸繰、お主は必要以上に怖がり
過ぎじゃ。今までの暮らしを忘れろとは言わんが、昔は昔、今は今じゃろう。
相談したところで怒られることはないし、捨てられることもない」
その言葉に、糸繰は暗い顔で頷いた。圭梧は糸繰がどのような暮らしをしていた
のか知らないはずだが、表情から何かを察したのか口を開く。
「大丈夫だよ。トラウマって早々治るもんじゃないけどさ、マシにはなるから。
・・・まあ、俺が言えたことじゃないけど」
糸繰は圭梧を見た後、俺を見る。首を傾げると、彼は少し安心した様な顔で首を
横に振った。
「糸繰、遊ぼう!」
ふと、御鈴が言う。きょとんとした顔の糸繰に近付いた御鈴は、彼の腕を引っ張り
ながら言った。
「暗い顔は、お主に似合わぬ!宇迦、御魂、お主らも一緒に遊ばぬか?」
「良いぞ!我もその鬼が気になっておったのじゃ!」
御魂が元気よく答える。
「由紀もどうじゃ、久々に遊ぼう!」
宇迦がそう言って由紀を見る。
「やったあ!遊びます!!」
由紀が嬉しそうに答え、彼女達は糸繰を取り囲みながら拝殿の裏へと消えて
いった。
「さて、俺は着替えてくるかな」
静也さんがそう言って、伸びをして去っていく。
「圭梧くん、夕飯はどうする?食べていくなら晴樹くんに連絡入れておくけど」
「え、良いの?!じゃあお願いします!」
彩音さんの提案に圭梧が嬉しそうに答える。
「蒼汰くんはどうする?」
そう言って彩音さんが俺を見たので、俺は首を横に振って言った。
「多分帰ったら令が腹を空かせているので、帰ってから食べます」
「じゃあ、お土産用意しておくわね」
彩音さんの言葉に、ありがとうございますと笑みを浮かべる。おそらくお土産は
稲荷寿司だろう。ここの稲荷寿司はとても美味しいから、正直言って凄く嬉しい。
「ワシも油揚げ貰って帰るかの」
狗神がそう言ったので、彩音さんは用意しますねと苦笑いを浮かべた。
・・・それから俺、圭梧、狗神は、御鈴達が戻ってくるまで賽銭箱の前に腰掛けて
他愛もない話で盛り上がるのだった。
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