神と従者

彩茸

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第三部

武器

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―――こちらにやってきた静也さんに、圭梧が嬉しそうな顔で近付く。圭梧の稽古を
つけてほしいという要望に静也さんは快く応じ、木刀を取ってくると立ち去ろうと
した。

「伯父さん!今日はさ、真剣でやろうよ!」

 圭梧の提案に、静也さんは一瞬嫌そうな顔をする。

「怪我させたら晴樹に怒られるんだって・・・」

「怪我しない程度でやめるから!お願い!!」

 鞘から出した方が実践っぽくて戦いやすいんだ!と付け加えるように言った
 圭梧に、静也さんは渋々といった様子で頷いた。
 圭梧に近付いた静也さんは圭梧の持っていた刀に手をそっと当て、ボソリと呟く。

「夜月、頼むから手加減してくれよ・・・」

「え?」

「・・・いや、何でもない」

 首を傾げた圭梧に、静也さんは眉を下げて笑みを浮かべる。

「蒼汰くん、御鈴ちゃん。危ないから離れてよう?」

 由紀がそう言って俺と御鈴を連れて後ろへ下がる。

「あー・・・なあ彩音、俺か圭梧くんが何かしでかしそうになったら止めてくれ」

「貴方達を私が止められると思う??・・・まあ、良いわよ。怪我されるのは
 嫌だしね」

 静也さんの言葉に呆れたような顔で言った彩音さんは、パンッパンッと手を叩く。

「境内からは出ないこと、あと物は壊さないこと!・・・よーい、始め!!」

 彩音さんの合図と共に、刀を抜いた圭梧と静也さんがぶつかる。キンッと音が
 鳴る度に、緊張感がその場を包む。

「相変わらず、速いのう・・・」

 御鈴が呟く。そうだなと頷く俺の目には、二人の動きがしっかりと見えていた。
 いつの間にここまで見えるようになっていたんだろう。そんなことを考えながら、
 絶え間なく刃がぶつかり合う様子を眺める。

「あっ・・・」

 暫くの打ち合いの後、圭梧の持っていた刀が弾かれる。

「あっ!!」

 静也さんの慌てたような声。弾かれた刀が、宙を舞いながら俺達の方へと向かって
 いた。

『柏木』

 落ち着いて柏木を出し、跳び上がって宙を舞っていた刀を叩き落とす。少し離れた
 地面へ突き刺さった刀を圭梧が拾いに走ると、静也さんが俺を見て言った。

「ごめんな、助かった。・・・にしても、今の凄かったな。跳躍力が人間じゃ
 なかった」

「まあ、体が変質してもう色々と人間辞めちゃってますし。誰にも怪我がなくて
 良かったです」

 そう答えて笑みを浮かべると、頼もしいなと静也さんも笑みを浮かべる。

「ごめん蒼汰ぁ・・・」

 しょんぼりとした様子の圭梧に気にするなと笑うと、由紀が少し怒った様子で
 言った。

「圭くん、あんなに大きく振るから弾かれるんだよ?もっと脇を絞ってさあ・・・」

 あ、そこに怒るんだ?

「ごめん・・・。でも何かそうした方が良い気がして」

 ちゃんと謝るのか。そう思っていると、静也さんが苦笑いで言った。

「夜月がしてくれたのかもな」

「夜月があ?」

 訝しげな顔で手に持った刀を見る圭梧。静也さんは刀を鞘に仕舞いながら口を
 開く。

「圭梧くんも雨谷に言われただろ?妖刀には意思がある、だから名前を呼んで
 お願いしたら戦いやすくなるかもよって」

「伯父さんはやってたのか?」

「うーん・・・たまに?俺がそれを言われたのって祓い屋始めてからだし、願掛け
 程度くらいだな」

「妖刀に言葉って通じるんですか?」

 思わず口を挟む。静也さんは少し悩む様子を見せると、笑みを浮かべて言った。

「通じるんじゃないかな?いまいち実感は湧かないけど、夜月を作った本人が言った
 ことだし。それに・・・」

「それに?」

「雨谷が妖刀の名前を呼ぶとさ、その刀の雰囲気が少し変わるんだよ。凄く感覚的な
 ものなんだけど、何となく嬉しそうというか」

 刀が嬉しそうというのはよく分からないが、まあ静也さんが言うのならそうなん
 だろう。

「柏木と同じじゃのう」

 御鈴がそう言って俺の腕に抱き着く。そうだっけ?と首を傾げると、御鈴は
 ニッコリと笑って言った。

「お主は神通力を使って、柏木と協力関係を結んだじゃろう?妾が渡したのじゃ
 から、感覚的に分かる。柏木が蒼汰を気に入ってるということがな!」

「えー、皆良いなあ。私も自分の武器と何か不思議な力で繋がってみたーい」

 羨ましそうな声で由紀が言う。

「使い込めば一心同体になるわよ。特に由紀の武器はね」

 彩音さんがそう言うと、そうだなと静也さんが笑う。

「そういえば、由紀の武器って?」

 そう聞くと、それはねー・・・と由紀は勿体ぶって背負っていた鞄に手を
 突っ込む。
 ・・・その時だった。地鳴りのような音と共に、背中に寒気が走る。何だと
 後ろを見ると、鳥居の前で三つ目の妖がこちらを睨みつけていた。半開きの
 口からボタボタと垂れている涎に、生理的な嫌悪感を覚える。

「静也、連れて帰ってこないでって言ってるじゃない」

 彩音さんがムッとした顔で言う。

「無理なの分かって言ってるだろ、好きで連れてきてる訳じゃない」

 溜息を吐いた静也さんがそう言いながら鳥居へ向かって歩き出す。そんな彼に、
 由紀が声を掛けた。

「お父さんは休んでて!私がやる!」
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