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第三部
知人
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―――それから時は経ち、春休み前最後の授業を終え家に帰ろうと駅へ向かって
いたときのことである。
少し近道をしようと、俺は人間離れしてしまった自分の身体能力を駆使して
パルクールさながら雑居ビルの屋上を跳び回っていた。その途中、視界の端に
見知った姿を見つけた。
「あれ、由紀?」
目に入ったのは、人通りが全くない裏路地を駆ける由紀の姿。何をしているん
だろうと足を止め様子を伺っていると、突然立ち止まった由紀が勢いよくこちらを
見てきた。
「わっ、見られてるなと思ったら蒼汰くんか!何でそんな所に居るの?」
「ちょっと近道をな」
そう言いながら、ビルから二階建ての空き家の屋根を経由して飛び降りる。
「このビル五階建てだよね・・・?そこの屋根一回踏んでたけど、それでも高すぎ
ない??」
「うーん、御鈴曰く身体能力はもう妖並みらしいし、糸繰がいけてたからいける
かなって」
「そ、そっかあ」
若干引き気味の由紀は、ハッとした顔で鞄から携帯を取り出す。時間を確認した
彼女は、慌てたように言った。
「そうだ、私まだやる事あったんだった!」
「やる事?」
「卒業試験中なんだけどね、ペアの子が取り逃しちゃった妖探してて!」
俺の言葉に由紀はそう返すと、じゃあね!と走り去っていく。
「足はっや・・・」
そう呟いてしまう程に、由紀の姿は驚異的なスピードで遠のいていくのだった。
―――家に帰り本を読みながらのんびりしていると、携帯が音を立てる。
画面を見ると圭梧からで、そういえば圭梧も今日から春休みだったか・・・なんて
思いながら電話に出た。
「もしもし。・・・・・・え、今から?いやまあ、良いけど・・・」
電話の内容は、夜宮神社に遊びに行くけど一緒にどうかというもので。じゃあ
迎えに行くな!と切れた電話に元気だなあと思う。
・・・糸繰は狗神の所、令は赤芽と遊びに行っているということで、御鈴と圭梧
との三人で夜宮神社へ向かった。
「いらっしゃい」
御守り売り場で売り子をしていた彩音さんが笑みを浮かべて言う。
「神主さんが売り子をしていることってあるんですね」
「いつも来てくれている人達がお休みなの。受験シーズンが終わって繁忙期も
過ぎたし、慰安旅行にでも行ってもらおうかなって」
俺の言葉に彩音さんはそう返すと、うちの娘も・・・と言いかけて社務所の方を
見た。
「噂をすれば」
その言葉に俺達も社務所の方を見ると、扉を少し開けて由紀が顔を覗かせた。
「ただいま!お母さん、多分合格した!!」
周りに俺達以外が居ないことを確認して、由紀が扉を開け放ち彩音さん目掛けて
笑顔で駆けてくる。
扉の向こうはやはり社務所内部ではなく、外の景色。若干見える建物は校舎
だろうか。
「閉めなさい」
呆れたような顔で言った彩音さんに、ごめんなさーいと由紀は扉を閉めて再び
こちらに戻ってくる。
「それでね、それでね!」
そう言って嬉しそうに今日あった卒業試験とやらの話を始めた由紀に、彩音さんは
相槌を打ちつつ俺達をちらりと見る。
それに気付いた由紀は俺達を見て恥ずかしそうに笑い、再び彩音さんに視線を
戻した。
「そうだ!午後の試験の途中でね、蒼汰くんに会ったんだよ!」
「えっ、そうなの?」
驚いたような顔で彩音さんが俺を見る。
「試験って、人目に付かないような所しか通らないはずよね?」
「あー、多分俺が近道してた所為ですね。ビルの屋上跳び回ってたので・・・」
彩音さんの問いにそう答えると、凄いよねえと由紀が笑う。
「蒼汰、いくら変化を解けば認知されにくいとはいえ、攻めたことをする
のう・・・」
御鈴が呆れたように言ったので、近道したかったんだからしょうがないと
半ば開き直るように言う。
「え、良いなー。俺もそういうことしてみたい」
「圭くんの身体能力じゃ無理かなって。あの動き、妖そのものだったもん」
圭梧の言葉に由紀が言う。
「ちょっと由紀、そんな言い方するものじゃ・・・」
「大丈夫ですよ、そういうの気にしてないので」
慌てたように言った彩音さんに笑顔でそう返すと、そう・・・?と安心した
ように彼女は笑みを浮かべる。
「そういえば、伯父さんは?」
圭梧が聞くと、彩音さんは時計をちらりと見て言った。
「朝から依頼で出掛けていったのよ。夕方には戻れると思うって言ってたん
だけど・・・」
時計を見ると午後4時。そろそろ戻ってくる時間なのだろうか。
「折角だから伯父さんに稽古つけてもらおうかと思ってたんだけどなあ・・・」
「仕事終わりの人に稽古頼むってお前」
「え?だって伯父さん、仕事終わりなら良いぞっていつも言ってくれるし」
「そうなのか・・・」
圭梧とそんなやり取りをしていると、由紀がハッとした顔で階段の方を見る。
「帰ってきたかも!そんな感じの気配!!」
そう言った由紀に、彩音さんは苦笑いを浮かべる。
「お父さんに似て、気配察知凄いわよねえ・・・」
彩音さんの言葉に少し自慢げな顔をした由紀が、階段の方へ駆けて行く。
「おかえりなさい!」
由紀の嬉しそうな声が、境内に響いた。
いたときのことである。
少し近道をしようと、俺は人間離れしてしまった自分の身体能力を駆使して
パルクールさながら雑居ビルの屋上を跳び回っていた。その途中、視界の端に
見知った姿を見つけた。
「あれ、由紀?」
目に入ったのは、人通りが全くない裏路地を駆ける由紀の姿。何をしているん
だろうと足を止め様子を伺っていると、突然立ち止まった由紀が勢いよくこちらを
見てきた。
「わっ、見られてるなと思ったら蒼汰くんか!何でそんな所に居るの?」
「ちょっと近道をな」
そう言いながら、ビルから二階建ての空き家の屋根を経由して飛び降りる。
「このビル五階建てだよね・・・?そこの屋根一回踏んでたけど、それでも高すぎ
ない??」
「うーん、御鈴曰く身体能力はもう妖並みらしいし、糸繰がいけてたからいける
かなって」
「そ、そっかあ」
若干引き気味の由紀は、ハッとした顔で鞄から携帯を取り出す。時間を確認した
彼女は、慌てたように言った。
「そうだ、私まだやる事あったんだった!」
「やる事?」
「卒業試験中なんだけどね、ペアの子が取り逃しちゃった妖探してて!」
俺の言葉に由紀はそう返すと、じゃあね!と走り去っていく。
「足はっや・・・」
そう呟いてしまう程に、由紀の姿は驚異的なスピードで遠のいていくのだった。
―――家に帰り本を読みながらのんびりしていると、携帯が音を立てる。
画面を見ると圭梧からで、そういえば圭梧も今日から春休みだったか・・・なんて
思いながら電話に出た。
「もしもし。・・・・・・え、今から?いやまあ、良いけど・・・」
電話の内容は、夜宮神社に遊びに行くけど一緒にどうかというもので。じゃあ
迎えに行くな!と切れた電話に元気だなあと思う。
・・・糸繰は狗神の所、令は赤芽と遊びに行っているということで、御鈴と圭梧
との三人で夜宮神社へ向かった。
「いらっしゃい」
御守り売り場で売り子をしていた彩音さんが笑みを浮かべて言う。
「神主さんが売り子をしていることってあるんですね」
「いつも来てくれている人達がお休みなの。受験シーズンが終わって繁忙期も
過ぎたし、慰安旅行にでも行ってもらおうかなって」
俺の言葉に彩音さんはそう返すと、うちの娘も・・・と言いかけて社務所の方を
見た。
「噂をすれば」
その言葉に俺達も社務所の方を見ると、扉を少し開けて由紀が顔を覗かせた。
「ただいま!お母さん、多分合格した!!」
周りに俺達以外が居ないことを確認して、由紀が扉を開け放ち彩音さん目掛けて
笑顔で駆けてくる。
扉の向こうはやはり社務所内部ではなく、外の景色。若干見える建物は校舎
だろうか。
「閉めなさい」
呆れたような顔で言った彩音さんに、ごめんなさーいと由紀は扉を閉めて再び
こちらに戻ってくる。
「それでね、それでね!」
そう言って嬉しそうに今日あった卒業試験とやらの話を始めた由紀に、彩音さんは
相槌を打ちつつ俺達をちらりと見る。
それに気付いた由紀は俺達を見て恥ずかしそうに笑い、再び彩音さんに視線を
戻した。
「そうだ!午後の試験の途中でね、蒼汰くんに会ったんだよ!」
「えっ、そうなの?」
驚いたような顔で彩音さんが俺を見る。
「試験って、人目に付かないような所しか通らないはずよね?」
「あー、多分俺が近道してた所為ですね。ビルの屋上跳び回ってたので・・・」
彩音さんの問いにそう答えると、凄いよねえと由紀が笑う。
「蒼汰、いくら変化を解けば認知されにくいとはいえ、攻めたことをする
のう・・・」
御鈴が呆れたように言ったので、近道したかったんだからしょうがないと
半ば開き直るように言う。
「え、良いなー。俺もそういうことしてみたい」
「圭くんの身体能力じゃ無理かなって。あの動き、妖そのものだったもん」
圭梧の言葉に由紀が言う。
「ちょっと由紀、そんな言い方するものじゃ・・・」
「大丈夫ですよ、そういうの気にしてないので」
慌てたように言った彩音さんに笑顔でそう返すと、そう・・・?と安心した
ように彼女は笑みを浮かべる。
「そういえば、伯父さんは?」
圭梧が聞くと、彩音さんは時計をちらりと見て言った。
「朝から依頼で出掛けていったのよ。夕方には戻れると思うって言ってたん
だけど・・・」
時計を見ると午後4時。そろそろ戻ってくる時間なのだろうか。
「折角だから伯父さんに稽古つけてもらおうかと思ってたんだけどなあ・・・」
「仕事終わりの人に稽古頼むってお前」
「え?だって伯父さん、仕事終わりなら良いぞっていつも言ってくれるし」
「そうなのか・・・」
圭梧とそんなやり取りをしていると、由紀がハッとした顔で階段の方を見る。
「帰ってきたかも!そんな感じの気配!!」
そう言った由紀に、彩音さんは苦笑いを浮かべる。
「お父さんに似て、気配察知凄いわよねえ・・・」
彩音さんの言葉に少し自慢げな顔をした由紀が、階段の方へ駆けて行く。
「おかえりなさい!」
由紀の嬉しそうな声が、境内に響いた。
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