神と従者

彩茸

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第三部

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―――夜。寝ようと部屋へ入ると、糸繰が床に座ったままベッドにもたれ掛かって
いて。

「糸繰、どうした?眠れないのか?」

〈いや、今さっき目が覚めた。蒼汰が来るのを待ってた。〉

 俺の問いにそう答えた糸繰に、何で俺を?と首を傾げる。

〈吐きそうなんだ、でも足に力が入らないから上手く立てなくて。運んでくれたり
 しないか?〉

「いやまあ、ここで吐かれても困るけどさ・・・。分かった、もうちょっと我慢
 しろよ」

 そう言って糸繰を背負い、トイレへ向かう。
 トイレに入り床に糸繰を降ろすと、彼は困惑した表情で俺を見た。

「わざわざ外に出なくても、ここで吐けば良い。流石にめちゃくちゃ妖術使った時
 みたいな量を吐かれたら詰まっちゃうけどさ、今は普通に気持ち悪いんだろ?」

 俺の言葉に、糸繰はコクリと頷く。ほらほらと背中を優しく擦っていると、彼は
 何度かえずいた後に吐き出した。
 ・・・暫く咳き込みと嘔吐を繰り返していた糸繰だったが、落ち着いたようで
 荒い呼吸を繰り返しながら俺をちらりと見る。

「大丈夫そうか?」

 そう聞くと、糸繰は小さく頷く。トイレットペーパーで口を拭かせ水を流すと、
 糸繰がメモを差し出してきた。

〈巻き込んでごめん。助かった、ありがとう。〉

「気にするなって。ほら、戻るぞ」

 そう言いながら糸繰を背負い、部屋へと戻る。布団に糸繰を寝かせようとすると、
 彼は首を横に振った。

〈薬、まだ飲んでない。飲まないと。〉

「薬?」

〈多分吐くだろうから、吐いたら飲めって狗神様に貰ったやつがある。〉

 そう書いたメモを差し出した糸繰は、懐から小さな巾着袋を取り出す。そして
 その中から薬包紙に包まれた薬を取り出すと、薬包紙ごと口の中へ入れようと
 した。

「ちょっと待て!それ中身だけ飲むやつだぞ!」

 咄嗟に糸繰を制止して、中の粉末だけを飲ませる。飲み込んだ糸繰は俺を見ると、
 困ったように眉を下げた。

〈そういえば、飲み方教わってなかった。〉

「薬飲んだことないのかよ」

〈ない。薬って言葉は知ってたけど、見たのは初めてだ。不調があったら飲む物って
 主の信者に教わったけど、気にならなかったから飲む機会もなかったし。〉

「気になる程度に不調があってもおかしくないんだけどなあ・・・。それだけ体
 ボロボロだったんだから」

〈そんなこと言われても。この体とは長い付き合いだし、普通に動ける程度の不調は
 いつものことだ。それに、お仕置きよりは全部マシ。〉

「そう、かあ・・・」

 そんなやり取りをし、思わず溜息を吐く。いつか糸繰の体への向き合い方を根本
 から変えてやらないといけない気がしてきた。

〈薬飲めたし寝る。おやすみ、蒼汰。〉

「ああ、おやすみ。・・・あ、そうだ」

 そう言って糸繰を見ると、横になろうとしていた彼は首を傾げる。

「体調良くなるまで、呪い返しの練習禁止だからな。ただでさえ体調悪いのに、
 体に負荷が掛かるようなことはするなよ」

「・・・・・・」

 渋々といった様子で糸繰は頷く。電気を消すときまで、糸繰は横になったまま
 不服そうな顔で俺を見ていた。
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