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第三部
一年
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―――紅葉狩りに行った日から、どうやら令と赤芽の距離が縮まってきている
らしい。今日も遊びに行くんだと嬉しそうに出掛けていった令を見送り、俺は
リビングへと急ぎ足で戻る。
季節は冬。休み前にさっさと課題を終わらせたこの冬休みは、コタツの中で
過ごそうと決めていた。
「そういえば、糸繰が妾の信者になってからもうすぐ一年経つの」
コタツに入り本を読んでいた御鈴がふと顔を上げて言う。
「そっか、もう一年経つのか」
そう言って糸繰を見ると、お手玉の補修をしていた彼は顔を上げて頷いた。
〈御鈴様の信者になった時は、正直こんな生活が送れるとは思ってなかった。〉
「・・・まあ、だろうな。あんだけ死にたがってた糸繰が、今や俺と一緒に生きたい
なんて言うまでになって・・・感動してるよ」
「糸繰が来てから、妖の襲撃は減ったし・・・本当に、以前より平和な日々が送れて
おる」
糸繰が差し出してきたメモを見ながら言った俺に、御鈴も同意するように頷き
言う。
「そういや、何で襲撃減ったんだろうな。ない方が俺も楽だけど」
「妖は、自分より強い相手と分かっていて戦う者が少ないからの。糸繰は鬼であるが
故に、妖気が突出して強い。それもあって、寄り付かれないのじゃろう」
俺の問いに御鈴はそう答えると、のう?と糸繰を見る。
糸繰はメモにペンを走らせると、困ったように笑みを浮かべながら御鈴へメモを
差し出した。
〈見掛け倒しみたいなものですけどね。オレ、別に強くないですし。〉
〈蒼汰の方が強いですから。〉と書き足されたメモに、御鈴は溜息を吐く。
「自身を過小評価し過ぎじゃ、糸繰。確かに蒼汰はどんどん強くなっておるが、
妾から言わせれば蒼汰の成長速度がおかしいんじゃ」
「うわ、おかしいって言われた」
「だから気にするでない。お主はちゃんと強いのじゃから」
口を挟んだ俺をガン無視して言った御鈴に、糸繰は俺をちらりと見た後頷く。
そして俺に手を伸ばすと、ゆっくりと口を動かした。
「ん?・・・あ、みかん?ちょっと待ってろ」
剥いていたみかんを一房取り、糸繰の口へ放り込む。嬉しそうな顔でみかんを
食べる糸繰の頭を撫でると、御鈴が言った。
「こうして見ると、どうにも糸繰が幼く映る・・・」
「俺が甘えてくれって言ってるからな。糸繰なりに、ちゃんと甘えてくれてるん
だよ。なー、いと~」
そう言いながら糸繰の頭を優しく撫でる。糸繰は俺に呼ばれ過ぎて慣れてしまった
のか、いとと呼ばれることに特に抵抗する様子もなくニコニコと笑う。
「まあ、糸繰が良いなら良いが・・・」
御鈴はそう言うと場所を移動し、俺の頭を撫でた。
「蒼汰も、妾に甘えてくれて良いのじゃからな?」
「十分甘えてるさ。・・・いつもありがとう、俺の主」
御鈴の言葉にそう返すと、彼女は頬を赤らめ嬉しそうに笑う。
「妾も、蒼汰と出会えてよかったと思っておるぞ。・・・これからもよろしくの、
妾の従者」
耳が熱くなるのを感じる。御鈴から視線を外し糸繰を見ると、彼は笑みを浮かべた
ままメモを書いて渡してきた。
〈オレ、蒼汰達と家族になれて本当に良かったって改めて思った。・・・だから、
頑張ろうと思う。〉
「え、頑張るって何を?」
俺の問いに、糸繰は決意を灯したような目でメモを渡してくる。
〈狗神様の所へ行った時、オレなら主の呪いに対して呪い返しができるかもって酒を
飲みに来てた雨谷様に言われて。命に関わるものだから、中々勇気を出せなかった
けど。家族を守るためっていう自分なりの大義名分ができたから、頑張る。〉
「呪い返しって、呪ってきた奴に自分の呪いを上乗せして返すやつだっけ?
・・・え、呪いの神相手に??」
相手は呪いの専門家・・・むしろ、あいつを超える者はいないだろう。そんな奴の
呪いを返すのは、並大抵の事ではない。
そんな事を糸繰は頑張るの一言でやってのけようとしている。
・・・正直、心配だ。
「糸繰は、できると思うておるのじゃな?」
メモを覗き込んだ御鈴が言う。糸繰はコクリと頷くと、御鈴に優しい笑みを
向けた。
御鈴は、糸繰のその笑みに何を思ったのだろうか。一瞬悲しそうな顔をした
彼女は、糸繰の背をポンポンと叩いて口を開く。
「糸繰がやりたいのなら、妾は応援しよう。こう言うのは本当は良くないの
じゃろうが・・・頑張れ、糸繰」
御鈴の言葉に、糸繰は嬉しそうな顔をして頷く。
この時の俺は、呪い返しをするということは糸繰が妖術を使うことであると
気付いていなかった。・・・彼が言った、命に関わるものという言葉の本当の
意味に、気付けていなかった。
らしい。今日も遊びに行くんだと嬉しそうに出掛けていった令を見送り、俺は
リビングへと急ぎ足で戻る。
季節は冬。休み前にさっさと課題を終わらせたこの冬休みは、コタツの中で
過ごそうと決めていた。
「そういえば、糸繰が妾の信者になってからもうすぐ一年経つの」
コタツに入り本を読んでいた御鈴がふと顔を上げて言う。
「そっか、もう一年経つのか」
そう言って糸繰を見ると、お手玉の補修をしていた彼は顔を上げて頷いた。
〈御鈴様の信者になった時は、正直こんな生活が送れるとは思ってなかった。〉
「・・・まあ、だろうな。あんだけ死にたがってた糸繰が、今や俺と一緒に生きたい
なんて言うまでになって・・・感動してるよ」
「糸繰が来てから、妖の襲撃は減ったし・・・本当に、以前より平和な日々が送れて
おる」
糸繰が差し出してきたメモを見ながら言った俺に、御鈴も同意するように頷き
言う。
「そういや、何で襲撃減ったんだろうな。ない方が俺も楽だけど」
「妖は、自分より強い相手と分かっていて戦う者が少ないからの。糸繰は鬼であるが
故に、妖気が突出して強い。それもあって、寄り付かれないのじゃろう」
俺の問いに御鈴はそう答えると、のう?と糸繰を見る。
糸繰はメモにペンを走らせると、困ったように笑みを浮かべながら御鈴へメモを
差し出した。
〈見掛け倒しみたいなものですけどね。オレ、別に強くないですし。〉
〈蒼汰の方が強いですから。〉と書き足されたメモに、御鈴は溜息を吐く。
「自身を過小評価し過ぎじゃ、糸繰。確かに蒼汰はどんどん強くなっておるが、
妾から言わせれば蒼汰の成長速度がおかしいんじゃ」
「うわ、おかしいって言われた」
「だから気にするでない。お主はちゃんと強いのじゃから」
口を挟んだ俺をガン無視して言った御鈴に、糸繰は俺をちらりと見た後頷く。
そして俺に手を伸ばすと、ゆっくりと口を動かした。
「ん?・・・あ、みかん?ちょっと待ってろ」
剥いていたみかんを一房取り、糸繰の口へ放り込む。嬉しそうな顔でみかんを
食べる糸繰の頭を撫でると、御鈴が言った。
「こうして見ると、どうにも糸繰が幼く映る・・・」
「俺が甘えてくれって言ってるからな。糸繰なりに、ちゃんと甘えてくれてるん
だよ。なー、いと~」
そう言いながら糸繰の頭を優しく撫でる。糸繰は俺に呼ばれ過ぎて慣れてしまった
のか、いとと呼ばれることに特に抵抗する様子もなくニコニコと笑う。
「まあ、糸繰が良いなら良いが・・・」
御鈴はそう言うと場所を移動し、俺の頭を撫でた。
「蒼汰も、妾に甘えてくれて良いのじゃからな?」
「十分甘えてるさ。・・・いつもありがとう、俺の主」
御鈴の言葉にそう返すと、彼女は頬を赤らめ嬉しそうに笑う。
「妾も、蒼汰と出会えてよかったと思っておるぞ。・・・これからもよろしくの、
妾の従者」
耳が熱くなるのを感じる。御鈴から視線を外し糸繰を見ると、彼は笑みを浮かべた
ままメモを書いて渡してきた。
〈オレ、蒼汰達と家族になれて本当に良かったって改めて思った。・・・だから、
頑張ろうと思う。〉
「え、頑張るって何を?」
俺の問いに、糸繰は決意を灯したような目でメモを渡してくる。
〈狗神様の所へ行った時、オレなら主の呪いに対して呪い返しができるかもって酒を
飲みに来てた雨谷様に言われて。命に関わるものだから、中々勇気を出せなかった
けど。家族を守るためっていう自分なりの大義名分ができたから、頑張る。〉
「呪い返しって、呪ってきた奴に自分の呪いを上乗せして返すやつだっけ?
・・・え、呪いの神相手に??」
相手は呪いの専門家・・・むしろ、あいつを超える者はいないだろう。そんな奴の
呪いを返すのは、並大抵の事ではない。
そんな事を糸繰は頑張るの一言でやってのけようとしている。
・・・正直、心配だ。
「糸繰は、できると思うておるのじゃな?」
メモを覗き込んだ御鈴が言う。糸繰はコクリと頷くと、御鈴に優しい笑みを
向けた。
御鈴は、糸繰のその笑みに何を思ったのだろうか。一瞬悲しそうな顔をした
彼女は、糸繰の背をポンポンと叩いて口を開く。
「糸繰がやりたいのなら、妾は応援しよう。こう言うのは本当は良くないの
じゃろうが・・・頑張れ、糸繰」
御鈴の言葉に、糸繰は嬉しそうな顔をして頷く。
この時の俺は、呪い返しをするということは糸繰が妖術を使うことであると
気付いていなかった。・・・彼が言った、命に関わるものという言葉の本当の
意味に、気付けていなかった。
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