神と従者

彩茸

文字の大きさ
上 下
102 / 156
第三部

今年も

しおりを挟む
―――数週間後。桜の季節も終わり、そろそろあの時期かと思う。

「蒼汰、次の休みなんじゃが・・・」

 ソファに座り本を読んでいると、御鈴が隣に座って話し掛けてくる。

「今年も行くよ。神事だろ?」

 そう言うと、御鈴はパッと顔を輝かせた。そこへ、狗神の所へ治療を受けに行って
 いた糸繰が帰ってくる。

「おかえり」

〈ただいま。〉

 俺とそんな言葉を交わした後、糸繰は御鈴を見て首を傾げる。

〈何かあったんですか?〉

 大方、嬉しそうな顔をしている御鈴に疑問を抱いたのだろう。御鈴にメモを見せた
 糸繰は、俺と御鈴を交互に見ていた。

「数日後に妾の神事があっての。糸繰も・・・ああいや、無理をさせる訳にも
 いかぬの。どうじゃ、体の調子は」

〈狗神様が、以前よりも良くなっているって言ってました。この前の件でオレが
 妖術を使ったときは逆戻りしたくらい酷くなっていたけど、そこからの回復が
 凄く早いって驚いてましたよ。〉

 御鈴の問いに、糸繰はそう答える。すると、糸繰の肩に飛び乗った令が言った。

「糸繰がちゃんと、って思うようになったからかもな。体が糸繰の意思に
 応えようと頑張ってるんだろ」

〈そういうものなのか?〉

 首を傾げた糸繰に、そういうものだよと頬に顔を擦り寄せながら令は言う。

「それなら大丈夫じゃの!どうじゃ糸繰、お主も妾の神事を見に来ぬか?」

「俺と・・・令も行くだろうから、行かないなら一人留守番になるけど」

 御鈴の言葉に続けるように言うと、糸繰は悩む様子を一切見せずメモにペンを
 走らせた。

〈行く。行きます。蒼汰と一緒ならともかく、一人で留守番はちょっと。〉

「本当に蒼汰と一緒に居たいんじゃのう、蒼汰は良い弟を持ったものじゃ。
 ・・・じゃあ、決まりじゃの!当日の朝は早いから、ちゃんと早く寝て
 おくのじゃぞ。蒼汰もな!!」

「ははっ、まるで母親みたいだな」

 御鈴の言葉に、俺は言う。すると、御鈴は俺の腕をぎゅっと掴んで笑みを
 浮かべた。

「妾は主じゃ、母にはなれぬ。だが、お主らのことは大切な家族だと思っておるぞ。
 できれば付きっきりで面倒を見てやりたい・・・なんて思うくらいにはの」

 何だか恥ずかしくなる。糸繰がソファの空いていた場所・・・御鈴の隣に座ると、
 彼女はソファの上で立ち上がって俺と糸繰の頭を撫でる。

「こうやって頭を撫でられると、何となく恥ずかしいんだが・・・」

〈御鈴様の手、温かいですね。〉

 恥ずかしがっている俺に、嬉しそうな糸繰。そんな俺達を見る御鈴と令は、まるで
 両親のように優しい目をしていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

月は夜をかき抱く ―Alkaid―

深山瀬怜
ライト文芸
地球に七つの隕石が降り注いでから半世紀。隕石の影響で生まれた特殊能力の持ち主たち《ブルーム》と、特殊能力を持たない無能力者《ノーマ》たちは衝突を繰り返しながらも日常生活を送っていた。喫茶〈アルカイド〉は表向きは喫茶店だが、能力者絡みの事件を解決する調停者《トラブルシューター》の仕事もしていた。 アルカイドに新人バイトとしてやってきた瀧口星音は、そこでさまざまな事情を抱えた人たちに出会う。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

おっさんの神器はハズレではない

兎屋亀吉
ファンタジー
今日も元気に満員電車で通勤途中のおっさんは、突然異世界から召喚されてしまう。一緒に召喚された大勢の人々と共に、女神様から一人3つの神器をいただけることになったおっさん。はたしておっさんは何を選ぶのか。おっさんの選んだ神器の能力とは。

禍羽根の王 〜序列0位の超級魔法士は、優雅なる潜入調査の日々を楽しむ〜

しののめ すぴこ
ファンタジー
——この世界の秩序と安寧は、魔法士が支えている—— 序列0位の最強魔法士として、皇帝陛下直属の近衛師団で暗躍する、主人公の累。 彼は特異な命のサイクルの中に生きていた。穢れや、魔を、喰らうことが出来るのだ。 そんな累は従者を連れて、放蕩するかの如く、気ままに穢れを殲滅する日々を送っていたが、ある日、魔法学校・紺碧校に潜入調査へ向かい……。 近衛師団の超級魔法士が、身分を隠して魔法学校に潜入調査。 体術はてんでダメで、ちょっぴり世間知らずの主人公が、本意じゃ無いのに周りに崇拝されたりしながら、任務を遂行するお話です。 小説になろう様でも投稿中(https://ncode.syosetu.com/n3231fh/)

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

白雪姫症候群-スノーホワイト・シンドロームー

しらす丼
ファンタジー
20年ほど前。この世界に『白雪姫症候群-スノーホワイト・シンドロームー』という能力が出現した。 その能力は様々だったが、能力を宿すことができるのは、思春期の少年少女のみ。 そしてのちにその力は、当たり前のように世界に存在することとなる。 —―しかし当たり前になったその力は、世界の至る場所で事件や事故を引き起こしていった。 ある時には、大切な家族を傷つけ、またある時には、大事なものを失う…。 事件の度に、傷つく人間が数多く存在していたことが報告された。 そんな人々を救うために、能力者を管理する施設が誕生することとなった。 これは、この施設を中心に送る、一人の男性教師・三谷暁と能力に人生を狂わされた子供たちとの成長と絆を描いた青春物語である。

処理中です...