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第三部
今年も
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―――数週間後。桜の季節も終わり、そろそろあの時期かと思う。
「蒼汰、次の休みなんじゃが・・・」
ソファに座り本を読んでいると、御鈴が隣に座って話し掛けてくる。
「今年も行くよ。神事だろ?」
そう言うと、御鈴はパッと顔を輝かせた。そこへ、狗神の所へ治療を受けに行って
いた糸繰が帰ってくる。
「おかえり」
〈ただいま。〉
俺とそんな言葉を交わした後、糸繰は御鈴を見て首を傾げる。
〈何かあったんですか?〉
大方、嬉しそうな顔をしている御鈴に疑問を抱いたのだろう。御鈴にメモを見せた
糸繰は、俺と御鈴を交互に見ていた。
「数日後に妾の神事があっての。糸繰も・・・ああいや、無理をさせる訳にも
いかぬの。どうじゃ、体の調子は」
〈狗神様が、以前よりも良くなっているって言ってました。この前の件でオレが
妖術を使ったときは逆戻りしたくらい酷くなっていたけど、そこからの回復が
凄く早いって驚いてましたよ。〉
御鈴の問いに、糸繰はそう答える。すると、糸繰の肩に飛び乗った令が言った。
「糸繰がちゃんと、生きたいって思うようになったからかもな。体が糸繰の意思に
応えようと頑張ってるんだろ」
〈そういうものなのか?〉
首を傾げた糸繰に、そういうものだよと頬に顔を擦り寄せながら令は言う。
「それなら大丈夫じゃの!どうじゃ糸繰、お主も妾の神事を見に来ぬか?」
「俺と・・・令も行くだろうから、行かないなら一人留守番になるけど」
御鈴の言葉に続けるように言うと、糸繰は悩む様子を一切見せずメモにペンを
走らせた。
〈行く。行きます。蒼汰と一緒ならともかく、一人で留守番はちょっと。〉
「本当に蒼汰と一緒に居たいんじゃのう、蒼汰は良い弟を持ったものじゃ。
・・・じゃあ、決まりじゃの!当日の朝は早いから、ちゃんと早く寝て
おくのじゃぞ。蒼汰もな!!」
「ははっ、まるで母親みたいだな」
御鈴の言葉に、俺は言う。すると、御鈴は俺の腕をぎゅっと掴んで笑みを
浮かべた。
「妾は主じゃ、母にはなれぬ。だが、お主らのことは大切な家族だと思っておるぞ。
できれば付きっきりで面倒を見てやりたい・・・なんて思うくらいにはの」
何だか恥ずかしくなる。糸繰がソファの空いていた場所・・・御鈴の隣に座ると、
彼女はソファの上で立ち上がって俺と糸繰の頭を撫でる。
「こうやって頭を撫でられると、何となく恥ずかしいんだが・・・」
〈御鈴様の手、温かいですね。〉
恥ずかしがっている俺に、嬉しそうな糸繰。そんな俺達を見る御鈴と令は、まるで
両親のように優しい目をしていた。
「蒼汰、次の休みなんじゃが・・・」
ソファに座り本を読んでいると、御鈴が隣に座って話し掛けてくる。
「今年も行くよ。神事だろ?」
そう言うと、御鈴はパッと顔を輝かせた。そこへ、狗神の所へ治療を受けに行って
いた糸繰が帰ってくる。
「おかえり」
〈ただいま。〉
俺とそんな言葉を交わした後、糸繰は御鈴を見て首を傾げる。
〈何かあったんですか?〉
大方、嬉しそうな顔をしている御鈴に疑問を抱いたのだろう。御鈴にメモを見せた
糸繰は、俺と御鈴を交互に見ていた。
「数日後に妾の神事があっての。糸繰も・・・ああいや、無理をさせる訳にも
いかぬの。どうじゃ、体の調子は」
〈狗神様が、以前よりも良くなっているって言ってました。この前の件でオレが
妖術を使ったときは逆戻りしたくらい酷くなっていたけど、そこからの回復が
凄く早いって驚いてましたよ。〉
御鈴の問いに、糸繰はそう答える。すると、糸繰の肩に飛び乗った令が言った。
「糸繰がちゃんと、生きたいって思うようになったからかもな。体が糸繰の意思に
応えようと頑張ってるんだろ」
〈そういうものなのか?〉
首を傾げた糸繰に、そういうものだよと頬に顔を擦り寄せながら令は言う。
「それなら大丈夫じゃの!どうじゃ糸繰、お主も妾の神事を見に来ぬか?」
「俺と・・・令も行くだろうから、行かないなら一人留守番になるけど」
御鈴の言葉に続けるように言うと、糸繰は悩む様子を一切見せずメモにペンを
走らせた。
〈行く。行きます。蒼汰と一緒ならともかく、一人で留守番はちょっと。〉
「本当に蒼汰と一緒に居たいんじゃのう、蒼汰は良い弟を持ったものじゃ。
・・・じゃあ、決まりじゃの!当日の朝は早いから、ちゃんと早く寝て
おくのじゃぞ。蒼汰もな!!」
「ははっ、まるで母親みたいだな」
御鈴の言葉に、俺は言う。すると、御鈴は俺の腕をぎゅっと掴んで笑みを
浮かべた。
「妾は主じゃ、母にはなれぬ。だが、お主らのことは大切な家族だと思っておるぞ。
できれば付きっきりで面倒を見てやりたい・・・なんて思うくらいにはの」
何だか恥ずかしくなる。糸繰がソファの空いていた場所・・・御鈴の隣に座ると、
彼女はソファの上で立ち上がって俺と糸繰の頭を撫でる。
「こうやって頭を撫でられると、何となく恥ずかしいんだが・・・」
〈御鈴様の手、温かいですね。〉
恥ずかしがっている俺に、嬉しそうな糸繰。そんな俺達を見る御鈴と令は、まるで
両親のように優しい目をしていた。
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