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第三部
清浄の神
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―――温かい。そんな感覚で、目を覚ます。腰の辺りを見ると御鈴がしっかりと
抱き着いており、反対側に顔を向けると糸繰が穏やかな顔で眠っていた。
「糸繰、生きてるよな・・・?」
そう呟きながら、糸繰の頬に触れる。手に伝わる暖かさにホッとしていると、
糸繰が目を開けた。
俺を視界に入れた糸繰は、酷く安心したような顔をしていて。おはようと笑みを
浮かべ頭を撫でると、彼は嬉しそうに目を細めた。
「蒼汰、蒼汰」
御鈴の声がして、そちらを見る。御鈴はホッとした顔で俺を見ると、抱き着く力を
強めて言った。
「すまぬ、すぐに気付いてやれなくて。よく耐えたの、偉いぞ」
「糸繰のおかげだよ。糸繰が、血をくれたから・・・」
そこまで言って、気絶する前のことを思い出す。欲に耐えられなかった自分が、
糸繰を殺しかけてしまった自分が怖くて。糸繰に触れている手を引っ込めた俺に、
彼は不思議そうな顔をした。
〈蒼汰の役に立てて良かった。〉
そう書いたメモを見せた糸繰は、俺の頬に優しく触れる。
「ごめん、糸繰。吐いて、苦しかったのに・・・俺の所為で、ごめん・・・」
〈あの時さ、初めてやりたい事がすぐに出てきたんだ。蒼汰に血をあげたいって、
思って。だから、謝らないでほしい。〉
俺の言葉にそう返した糸繰は、甘えるように擦り寄ってきた。そんな彼を抱き
しめると、御鈴が懸命に腕を伸ばして糸繰と俺を纏めて抱きしめようとする。
「ちょっ、御鈴潰れる!!」
「妾も混ぜよ!兄弟だけでイチャイチャしよって!!」
ジタバタとする俺と御鈴、そして面白そうに笑う糸繰。声は出ずとも声を上げて
笑っている様子の糸繰を見て、温かい気持ちになる。
「朝から元気じゃのう・・・」
扉を開けて呆れたような声で言う狗神に気付きそちらを見ると、彼は優しい声音で
言った。
「おはよう。朝食の時間じゃぞ」
―――学校に休みの連絡を入れ、狗神の用意してくれた朧車に乗り込む。
御鈴は霧ヶ山の面々に預けていた令を迎えに行くらしく、俺は狗神と二人で清浄の
神の元へ向かうはずだったのだが・・・どうしても俺と一緒にいたいと、初めて
糸繰が駄々を捏ねた。御鈴はそんな糸繰を引き留めようとはせず、笑顔で送り出して
くれるのだった。
・・・俺と糸繰は朧車を降りた後、狗神に連れられ鬱蒼とした森の中を歩く。
暫く進むと開けた場所に出て、そこから更に進むと大きな泉が現れた。
〈水が凄く澄んでる。〉
糸繰が泉を覗き込んで、メモを見せてくる。それを横から覗き見た狗神は頷くと、
泉の中心を指さして言った。
「ここは清浄の神が住まう神聖な場所じゃからの。ほら、あれが見えるか?あそこに
咲いている花の下にあ奴は住んでおる」
狗神の指さす先に見えたのは、一輪の蓮の花。目が赤くなった頃から視力が
上がっていたのだが、それでも小さく見える。
綺麗な色だなんて思っていると、突然花が宙に浮く。驚いている間にも花は
クルクルと回り出し、虹色の光を放った。
「うわっ」
眩しくて、一瞬目を瞑る。目を開けると、狗神の目の前に美しい男性が立って
いた。
天女のような服を着こなしている男性は、狗神を見て微笑む。そして、ゆっくりと
口を開いた。
「あらぁ~狗神ちゃん!!久しぶりねぇ~!」
低く聞き心地の良い男性らしい声・・・を、わざと高くしたような声。顔が引き
つっていたのは、狗神だけではないだろう。
俗に言う、オネエ様。そんな神が、俺達の前に現れたのだった。
抱き着いており、反対側に顔を向けると糸繰が穏やかな顔で眠っていた。
「糸繰、生きてるよな・・・?」
そう呟きながら、糸繰の頬に触れる。手に伝わる暖かさにホッとしていると、
糸繰が目を開けた。
俺を視界に入れた糸繰は、酷く安心したような顔をしていて。おはようと笑みを
浮かべ頭を撫でると、彼は嬉しそうに目を細めた。
「蒼汰、蒼汰」
御鈴の声がして、そちらを見る。御鈴はホッとした顔で俺を見ると、抱き着く力を
強めて言った。
「すまぬ、すぐに気付いてやれなくて。よく耐えたの、偉いぞ」
「糸繰のおかげだよ。糸繰が、血をくれたから・・・」
そこまで言って、気絶する前のことを思い出す。欲に耐えられなかった自分が、
糸繰を殺しかけてしまった自分が怖くて。糸繰に触れている手を引っ込めた俺に、
彼は不思議そうな顔をした。
〈蒼汰の役に立てて良かった。〉
そう書いたメモを見せた糸繰は、俺の頬に優しく触れる。
「ごめん、糸繰。吐いて、苦しかったのに・・・俺の所為で、ごめん・・・」
〈あの時さ、初めてやりたい事がすぐに出てきたんだ。蒼汰に血をあげたいって、
思って。だから、謝らないでほしい。〉
俺の言葉にそう返した糸繰は、甘えるように擦り寄ってきた。そんな彼を抱き
しめると、御鈴が懸命に腕を伸ばして糸繰と俺を纏めて抱きしめようとする。
「ちょっ、御鈴潰れる!!」
「妾も混ぜよ!兄弟だけでイチャイチャしよって!!」
ジタバタとする俺と御鈴、そして面白そうに笑う糸繰。声は出ずとも声を上げて
笑っている様子の糸繰を見て、温かい気持ちになる。
「朝から元気じゃのう・・・」
扉を開けて呆れたような声で言う狗神に気付きそちらを見ると、彼は優しい声音で
言った。
「おはよう。朝食の時間じゃぞ」
―――学校に休みの連絡を入れ、狗神の用意してくれた朧車に乗り込む。
御鈴は霧ヶ山の面々に預けていた令を迎えに行くらしく、俺は狗神と二人で清浄の
神の元へ向かうはずだったのだが・・・どうしても俺と一緒にいたいと、初めて
糸繰が駄々を捏ねた。御鈴はそんな糸繰を引き留めようとはせず、笑顔で送り出して
くれるのだった。
・・・俺と糸繰は朧車を降りた後、狗神に連れられ鬱蒼とした森の中を歩く。
暫く進むと開けた場所に出て、そこから更に進むと大きな泉が現れた。
〈水が凄く澄んでる。〉
糸繰が泉を覗き込んで、メモを見せてくる。それを横から覗き見た狗神は頷くと、
泉の中心を指さして言った。
「ここは清浄の神が住まう神聖な場所じゃからの。ほら、あれが見えるか?あそこに
咲いている花の下にあ奴は住んでおる」
狗神の指さす先に見えたのは、一輪の蓮の花。目が赤くなった頃から視力が
上がっていたのだが、それでも小さく見える。
綺麗な色だなんて思っていると、突然花が宙に浮く。驚いている間にも花は
クルクルと回り出し、虹色の光を放った。
「うわっ」
眩しくて、一瞬目を瞑る。目を開けると、狗神の目の前に美しい男性が立って
いた。
天女のような服を着こなしている男性は、狗神を見て微笑む。そして、ゆっくりと
口を開いた。
「あらぁ~狗神ちゃん!!久しぶりねぇ~!」
低く聞き心地の良い男性らしい声・・・を、わざと高くしたような声。顔が引き
つっていたのは、狗神だけではないだろう。
俗に言う、オネエ様。そんな神が、俺達の前に現れたのだった。
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