神と従者

彩茸

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第四部

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―――暫くお花見を楽しんでいると、糸繰が何やら落ちていた桜の花に糸を通し
始めた。器用だな・・・なんて思っているうちに、綺麗な桜の飾りが出来上がった。
御鈴の肩を叩いた糸繰は、振り向いた御鈴にその飾りを見せる。そして御鈴の髪を
指さし、笑みを浮かべた。

「こうかの・・・?」

 御鈴が糸繰に向けて頭を傾けると、糸繰は繊細な手つきで御鈴の髪に桜の飾りを
 付ける。それを見ていた天春が懐から鏡を取り出し御鈴に渡すと、御鈴は顔を
 輝かせた。

「おお、凄いの!!どうじゃ、どうじゃ蒼汰!」

 キラキラとした顔で、御鈴が俺を見る。白い髪にも桜の花は映えるんだな・・・
 なんて思いながら、俺は言った。

「可愛いよ」

 その言葉が嬉しかったのか御鈴は顔を綻ばせ、ありがとうと糸繰を見る。
 糸繰は嬉しそうに笑みを浮かべると、〈喜んでもらえたなら良かったです。〉と
 書いたメモを御鈴に渡した。

「糸繰って結構器用だよな。人形も縫えるし、料理手伝ってもらう時も手際良いし。
 凄いよ」

〈そうか?凄いって言われたのは初めてだ。〉

 俺の言葉に糸繰はそう返すと、残り少なくなったサンドイッチに手を伸ばす。
 サンドイッチにパクリと齧りつく彼の様子は、始終嬉しそうだった。
 ・・・そろそろ帰ろうか。そう思っていると、ふとカラスの鳴き声が聞こえた。

「あー・・・」

 天春が嫌そうな声を出す。首を傾げると、立ち上がった天春は俺達や妖達を見て
 言った。

「皆ごめん。もうちょっとここに居てくれる?少し面倒なことになったみたい」

 面倒なことって何だろう。そう思っていると、一羽のカラスが天春の肩にとまる。
 カァと鳴き声を上げたカラスに、天春は言った。

「うん、分かった。すぐに行くって伝えてくれる?」

「カラスが何言ってるか分かるのか?」

 飛び立つカラスを横目に、令が天春に問う。彼は頷くと、黒い羽を広げながら
 言った。

「僕、お母さんが烏天狗なんだ。だから、カラスの言葉は分かるんだよ」

 じゃあ、後でね。そう言って、風と共に天春は姿を消す。

「私達はここで待機しておきましょう。面倒事に巻き込まれると天春に怒られる
 わよ」

 赤芽がそう言うと、妖達は不安げな様子を見せながらもその場でコクリと頷いた。



―――数十分経っても戻ってこない天春に、段々と不安になってくる。何が起こって
いるんだろうか。そう思った矢先、何かが桜の木に突っ込んだ。

「逃げて!!」

 バキバキと枝を鳴らし地面にボトリと落ちたのは、天春。傷だらけになっている
 彼が叫ぶと、小妖怪達を先頭に他の妖達が走って逃げる。

「あなた達も早く!!」

 赤芽がそう言って俺達を見る。煙に包まれ獣人の女性へと変化した赤芽が近くに
 居た御鈴の腕を引くと、御鈴は俺に手を伸ばした。

「御鈴は糸繰と令連れて先に行ってろ。大丈夫、後でちゃんと追い付くから」

 ゾワリとした寒気を感じながら俺が言うと、令は御鈴の肩に飛び乗った。
 御鈴が糸繰を見る。糸繰は首を横に振ると、俺にメモを差し出してきた。

〈オレも残る。〉

「は?!なんっ・・・!!」

 何でと言いかけたその時、傍に生えていた桜の木が突然倒れた。間一髪それを
 避けるも、太い幹で御鈴の姿が見えなくなる。

「蒼汰、糸繰!無事か?!」

 御鈴の声が聞こえる。良かった、無事なのか。

「こっちは大丈夫だ。あー・・・糸繰は俺が面倒見るから、先逃げててくれ」

「・・・分かった。任せるぞ、蒼汰」

 俺の言葉に御鈴がそう返す。俺は背後から迫る殺気に気を配りながら、去っていく
 気配に向けて少し大きな声で言った。

「仰せのままにっ!」
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