神と従者

彩茸

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第四部

お堂

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―――お堂の中は外見よりも広く、しっかりと生活空間になっていた。

「ただいマ」

「ただいまー!」

 のっぺらぼうと天春の言葉に、台所らしき所から金髪の妖がひょっこりと顔を
 出す。
 妖の目には文字のようなものが書かれた包帯が巻かれており、のっぺらぼうと
 短い会話を交わした妖は天春に引っ張られるような形で俺達の前にやってきた。

「蒼汰と糸繰は寝てたから、紹介してなかったね!彼が落魅だよ」

 そう言って妖・・・落魅を見る天春。落魅は俺と糸繰を見ると、軽く会釈して
 その場を立ち去ろうとする。

「待って待って、糸繰が言いたいことあるんだってさ!」

「・・・何でさあ、あっしはあんたに用事なんてないんですがねい」

 天春の言葉に落魅はそう言いつつも、足を止めて振り返る。糸繰がメモを渡そうと
 近付くと、落魅は警戒するように一歩下がった。

「落魅、大丈夫だから」

 今までのような元気な声ではなく、とても落ち着いた声で天春が言う。
 落魅は逡巡する様子を見せたが、一歩糸繰に近付いた。
 糸繰からメモを受け取った落魅はそれを見て笑みを浮かべ、口を開く。

「気にしないでくだせえ。・・・というかあんた、何で筆談なんですかい」

 その言葉から始まった、互いの自己紹介タイム。フレンドリーな天春や御鈴の
 おかげか、するすると言葉が出てくる。
 自己紹介が終わった頃には和気あいあいとした空気が流れていて。血は繋がって
 いなくとも家族と言って良いのだと認識させてくれるお堂の面々に、自然と笑みが
 零れる。

〈蒼汰。落魅の目、赤色なんだってさ。蒼汰と同じだな。〉

 のっぺらぼうと何気ない話をしていると、楽しげな表情の糸繰がそう書いたメモを
 見せてくる。落魅を見ると、彼と目が合った気がした。

「えっと・・・」

「何でさあ、あっしの目がそんなに気になるんですかい?」

 落魅の言葉に頷くと、そっと落魅の後ろに回った天春が包帯をほどく。

「ちょっ・・・天春!!」

 ほどかれた包帯を握りしめ、落魅は露わになった鮮血のような綺麗な赤い瞳で
 天春を睨みつける。

「落魅の目、綺麗でしょ!」

 そう言って天春がニコニコと笑うと、御鈴が興味津々な顔で落魅に近付いた。

「本当に綺麗じゃの、妾や蒼汰とはまた違う赤色じゃ」

「・・・もう良いですかい?」

 嫌そうな顔で言う落魅。すまぬのと御鈴が離れると、落魅は目に再び包帯を巻く。

「今日はあんまり包帯取りたくないんでさあ。ここ最近使い過ぎて・・・」

 はあ・・・と溜息を吐く落魅。使い過ぎってどういうことだろうと首を傾げると、
 天春が言った。

「落魅の目って特殊でさ、僕達が見えないくらいの凄く細かい動きまではっきり
 見えるんだよ。普段は今着けてるような包帯を巻いて力をセーブしてるんだけど、
 ここ最近色々とありすぎて眼精疲労が凄いんだってさ」

「にゃんでそれを知ってるのに包帯取るんだよ・・・」

 令が呆れたように言う。えへへと笑った天春に深い深い溜息を吐いた落魅は、
 こういう奴なんでさあ・・・と諦めたような声で言った。

〈その目に妖術合せたら、中妖怪でも大妖怪相手に余裕で勝てるんじゃないか?〉

 糸繰がメモを落魅に渡す。落魅はゆるゆると首を横に振ると、困ったような顔で
 言った。

「そうできれば良かったんですがねえ。・・・生憎、妖力が全部目に使われている
 せいで生まれつき妖術が使えないんでさあ」

「妖術が使えない妖・・・会うのは二人目じゃの」

 御鈴がそう言って俺を見る。

「ああ、雨谷も妖術使えないって言ってたっけ。・・・って、御鈴あの場に居な
 かっただろ」

「後から利斧に聞いた」

 俺と御鈴のそんな会話を聞いていたお堂の面々の動きが止まる。

「・・・え、雨谷さんとも知り合いなの?」

 天春が言う。頷くと、のっぺらぼうが呟いた。

「世間って狭いナ・・・」

 彼らも雨谷と知り合いなのか。そう思っていると、落魅が更に知り合いの名前を
 出した。

「顔の広さが静也並でさあ・・・」

「圭梧くんと楓華ちゃんの友達で、雨谷さんの知り合いで・・・あと誰と知り合い
 なんだろ」

 天春がそう言ったので、思い付いた知り合いの名前を連ねる。すると驚いた
 ことに、共通の知り合いがかなり多かった。

「まあ、静とも知り合いだったら必然的に顔も広くなるかあ」

「人間たらしで、妖たらし。その上最近は神たらしですからねえ、静也は。晴樹も
 負けてない気はしやすが」

「自覚ないらしいけどナ・・・」

 天春、落魅、のっぺらぼうがそう言って、同時に溜息を吐く。微妙な空気感の中、
 糸繰だけがきょとんとした顔をしていた。
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