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第二部
成果
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―――休憩も終わり、練習を再開する。何度も何度も同じことを繰り返していると、
いつの間にか夕方になっていた。
「今日はここまでにしようか」
本殿の扉を開け、神主の仕事を終えた真悟さんがそう言いながら入ってくる。
「あ、はい」
そう言って立ち上がると、真悟さんはスンッと鼻を動かして俺に近付いた。
「・・・蒼汰くん、最後もう一回だけやってみてくれる?」
真悟さんの言葉に俺は頷くと、目を閉じる。すると、真悟さんが目にそっと手を
当ててきた。
「あ、あの・・・?」
「そのまま。目に意識を集中して、ゆっくり息を吐いて」
困惑した声を上げると、耳元で囁くように真悟さんは言う。言われた通り息を
ゆっくりと吐くと、何だか胸の辺りが温かくなった。
神通力を使う時と同じ感覚だ。そう思っていると、真悟さんは手を離す。
「目、開けてごらん」
そう言われると同時に目を開けると、真悟さんが何処か嬉しそうに笑みを浮かべて
いた。
「真悟さん?」
首を傾げると、真悟さんは手鏡を指さす。手鏡を覗き込んだ俺は、思わず声を
上げた。
「うん、よくできました」
そう言った真悟さんは、俺の頭を撫でる。
・・・手鏡に映った俺の瞳は、両方とも黒くなっていて。色が変化する前の目に
戻っていたことに驚きつつ、どうやったんですか?!と真悟さんを見る。
「別に俺は何もしていないよ。気を張っているニオイがしたから、少し落ち着かせた
だけ。・・・本当に、君は神様に向いてるよ」
まあ、集中力はもうちょっと持続させようね。真悟さんがそう言って苦笑いを
浮かべたので、もしやと思って手鏡を見る。
「あー・・・」
黒く変化していた目はまた赤に戻っていて、俺は思わず溜息を吐くのだった。
―――まさか夕飯までご馳走になるとは思わず、狗神家の面々に囲まれて夕飯を
食べる。
狗神が御鈴と令を連れて神社に戻ってきたことにも驚いたが、誠さんとすぐ仲良く
なったことには更に驚いた。
「誠、ちゃんと練習サボらなかったか?」
「和くん居たら、サボるにサボれないよー・・・」
「そういえば日野くんは?俺が呼びに行ったとき居なかったけど」
「その少し前に帰った。今日は弟と飲みに行くんだーってウキウキしてたよ」
真悟さんと誠さんがそんな会話をしていると、御鈴が首を傾げる。
「練習?」
「そう、笛の練習。お祖父ちゃんの神事で毎年お父さんが吹いてたんだけど、今年は
ボクがやる事になってさ」
御鈴の問いに誠さんはそう答えると、狗神を見て笑顔で言った。
「お祖父ちゃん、今年は楽しみにしててね!」
狗神は柔らかな笑みを浮かべると、楽しみにしとくと頷く。
「・・・それにしても、真悟がちゃんと変化を教えているとは思わんかった」
狗神のその言葉に、真悟さんは変化を解いていた犬耳を少し下げる。
「別に・・・蒼汰くんだし、良いかなって」
ボソボソと言った真悟さんに狗神は驚いた顔をし、他の面々は首を傾げた。
「真悟が他人に懐くなんて、朱美さん以来じゃのう・・・」
「懐くって言うな」
狗神の言葉に真悟さんがムスッとした顔をすると、真悟さんの妻・・・朱美さんが
クスクスと笑う。
「懐くってにゃんだ?」
そう言った令に対し、狗神はクスリと笑って言った。
「真悟はの、基本的にお願いは完全無視なんじゃよ。それこそ、家族や懐いておる者
以外にはの」
「あれ、でも本殿の使用許可まで取ってくれて・・・」
真悟さんが俺の頼みを聞いてくれることを狗神が分かっていたなら、今驚くこと
ではないはずなのだが。そう思いながら発言すると、狗神はケラケラと笑って
言った。
「確かに許可はしたが、真悟は掃除をするから入らせろと言っただけじゃぞ?」
「えっ?!」
バッと真悟さんを見ると、彼はそっぽを向いていて。
「お父さん、たまにそういう事するよね」
誠さんがニヤニヤと笑いながら朱美さんに言うと、朱美さんもクスクスと笑い
ながら言った。
「狗神様に怒られないと分かっていてやるんだから、確信犯よね」
「・・・煩いな」
少し恥ずかしそうにボソリと言った真悟さんは、静かにご飯を口に運んだ。
いつの間にか夕方になっていた。
「今日はここまでにしようか」
本殿の扉を開け、神主の仕事を終えた真悟さんがそう言いながら入ってくる。
「あ、はい」
そう言って立ち上がると、真悟さんはスンッと鼻を動かして俺に近付いた。
「・・・蒼汰くん、最後もう一回だけやってみてくれる?」
真悟さんの言葉に俺は頷くと、目を閉じる。すると、真悟さんが目にそっと手を
当ててきた。
「あ、あの・・・?」
「そのまま。目に意識を集中して、ゆっくり息を吐いて」
困惑した声を上げると、耳元で囁くように真悟さんは言う。言われた通り息を
ゆっくりと吐くと、何だか胸の辺りが温かくなった。
神通力を使う時と同じ感覚だ。そう思っていると、真悟さんは手を離す。
「目、開けてごらん」
そう言われると同時に目を開けると、真悟さんが何処か嬉しそうに笑みを浮かべて
いた。
「真悟さん?」
首を傾げると、真悟さんは手鏡を指さす。手鏡を覗き込んだ俺は、思わず声を
上げた。
「うん、よくできました」
そう言った真悟さんは、俺の頭を撫でる。
・・・手鏡に映った俺の瞳は、両方とも黒くなっていて。色が変化する前の目に
戻っていたことに驚きつつ、どうやったんですか?!と真悟さんを見る。
「別に俺は何もしていないよ。気を張っているニオイがしたから、少し落ち着かせた
だけ。・・・本当に、君は神様に向いてるよ」
まあ、集中力はもうちょっと持続させようね。真悟さんがそう言って苦笑いを
浮かべたので、もしやと思って手鏡を見る。
「あー・・・」
黒く変化していた目はまた赤に戻っていて、俺は思わず溜息を吐くのだった。
―――まさか夕飯までご馳走になるとは思わず、狗神家の面々に囲まれて夕飯を
食べる。
狗神が御鈴と令を連れて神社に戻ってきたことにも驚いたが、誠さんとすぐ仲良く
なったことには更に驚いた。
「誠、ちゃんと練習サボらなかったか?」
「和くん居たら、サボるにサボれないよー・・・」
「そういえば日野くんは?俺が呼びに行ったとき居なかったけど」
「その少し前に帰った。今日は弟と飲みに行くんだーってウキウキしてたよ」
真悟さんと誠さんがそんな会話をしていると、御鈴が首を傾げる。
「練習?」
「そう、笛の練習。お祖父ちゃんの神事で毎年お父さんが吹いてたんだけど、今年は
ボクがやる事になってさ」
御鈴の問いに誠さんはそう答えると、狗神を見て笑顔で言った。
「お祖父ちゃん、今年は楽しみにしててね!」
狗神は柔らかな笑みを浮かべると、楽しみにしとくと頷く。
「・・・それにしても、真悟がちゃんと変化を教えているとは思わんかった」
狗神のその言葉に、真悟さんは変化を解いていた犬耳を少し下げる。
「別に・・・蒼汰くんだし、良いかなって」
ボソボソと言った真悟さんに狗神は驚いた顔をし、他の面々は首を傾げた。
「真悟が他人に懐くなんて、朱美さん以来じゃのう・・・」
「懐くって言うな」
狗神の言葉に真悟さんがムスッとした顔をすると、真悟さんの妻・・・朱美さんが
クスクスと笑う。
「懐くってにゃんだ?」
そう言った令に対し、狗神はクスリと笑って言った。
「真悟はの、基本的にお願いは完全無視なんじゃよ。それこそ、家族や懐いておる者
以外にはの」
「あれ、でも本殿の使用許可まで取ってくれて・・・」
真悟さんが俺の頼みを聞いてくれることを狗神が分かっていたなら、今驚くこと
ではないはずなのだが。そう思いながら発言すると、狗神はケラケラと笑って
言った。
「確かに許可はしたが、真悟は掃除をするから入らせろと言っただけじゃぞ?」
「えっ?!」
バッと真悟さんを見ると、彼はそっぽを向いていて。
「お父さん、たまにそういう事するよね」
誠さんがニヤニヤと笑いながら朱美さんに言うと、朱美さんもクスクスと笑い
ながら言った。
「狗神様に怒られないと分かっていてやるんだから、確信犯よね」
「・・・煩いな」
少し恥ずかしそうにボソリと言った真悟さんは、静かにご飯を口に運んだ。
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