神と従者

彩茸

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第三部

年齢

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―――拝殿から少し歩いた所にあった建物の前で、真悟さんは立ち止まる。

「ここが本殿。親父は今出掛けてるけど、使用の許可は取ってある」

 そう言ってガラリと扉を開けた真悟さんは、入ってと手招きをした。

「お邪魔します」

 そう言って足を踏み入れた建物の中は夜宮神社の本殿よりも少し狭く、本棚と酒瓶
 以外にめぼしいものはなかった。

「・・・親父から聞いたよ、変化したいんだって?」

 扉を閉めた真悟さんは、俺を見ながら言う。

「はい、この目の色だと学校行けないと思って・・・。すみません、突然お願い
 しちゃって」

 俺がそう言うと、真悟さんは別に良いよと微笑む。
 座って座ってと床を指さされ大人しくそこに座ると、真悟さんは俺の前に座った。

「蒼汰くんはさ、その目嫌い?」

「いや・・・嫌いじゃない、です。御鈴とお揃いなので」

 真悟さんの問いにそう答えると、真悟さんはそっかと呟いた。

「嫌いじゃないなら、そのままで良いんじゃないかな。親父から聞いたけど、神が
 見えない人間には認識されにくくなっているんだろう?だったら、その姿のまま
 学校に行っても誰も気にしないと思うけど」

「えっ・・・」

 まるで変化を教えたくないと言いたげなその言葉に、返答に詰まる。

「そういえば宇迦と御魂から聞いたんですけど、真悟さんも認識されにくい
 って・・・」

 他の話題をと口から出た言葉に、真悟さんはキョトンとした顔をした。

「え、そうなの?」

「え?てっきり真悟さんが狗神に話したのかと」

「いや、話してない・・・というか初めて聞いた」

 驚いた顔の真悟さんは少し考えるそぶりを見せると、そうだったんだ・・・と
 自嘲気味に笑った。

「真悟さん・・・?」

「いや・・・うん、ごめん。色々と合点がいって、すっきりしたよ。・・・170年
 気付かないなんて、俺どれだけ鈍いんだ」

 最後の方は呟くように言った真悟さんだったが、彼の言葉に俺は固まった。

「・・・今、170年って言いました?」

 そう聞くと、真悟さんは話してなかったっけと首を傾げる。

「親父の影響か、俺も多分寿命が長いんだろうね。今170歳くらいだよ」

「ひゃっ・・・?!!」

 驚き過ぎて口をパクパクと動かしていると、真悟さんはそれが面白かったのか
 クスクスと笑う。

「見た目じゃ分からないよね。ちなみに、誠は日野くんと3歳差だから・・・あの
 見た目でもうすぐ40になる」

「もう、何が何だか・・・」

 誠さん、高校生って言われても納得する見た目だったんだけどな・・・なんて思い
 つつ、混乱した頭をどうにか整理するのだった。



―――混乱を経験した頭は遠慮など気にしなくなるようで。
俺は真悟さんに、もしかして変化を教えたくないんですかと聞く。
真悟さんは困ったように笑うと、口を開いた。

「教えたくない・・・というか、教えにくくてね。俺が変化しているのは妖術で
 だし、蒼汰くんの神通力を使ってっていうのはどうも・・・」

 俺、神通力使えないし。そう言った真悟さんは、来てもらったのにごめんねと
 悲しそうに笑う。

「コツというか、意識していることでも良いんです、お願いします!」

 そう言って頭を下げると、真悟さんは俺の頭をそっと撫でた。顔を上げると、
 真悟さんの瞳の色が変わっていて。
 変化を解き獣っぽい黄色の目になっていた真悟さんは、瞬きの間に人間のような
 茶色の目に変化した。

「うーん・・・変化したい部分に意識を集中させる、かな。変化させる部位によって
 集中の度合いは変わってくるけど、目ならまだ簡単かも」

「真悟さんは耳と目と尻尾でしたっけ、変化してるの」

 真悟さんの言葉にそう言うと、真悟さんは頷く。

「まあ君には一回見せちゃってるし、別に良いかな・・・」

 真悟さんはそう言って立ち上がると、俺の前でクルリと回った。
 その瞬間真悟さんの目は狗神そっくりの黄色い目となり、焦げ茶色の犬耳と尻尾が
 生える。完全に本来の姿へと戻った真悟さんは、俺の前にしゃがむとニヤリと
 笑って言った。

「慣れれば、他の部位の色とかも変えられるようになるよ。例えば、こんな風に」

 真悟さんの毛の色が変わる。焦げ茶色だったその色は銀色へと変わり、その姿は
 狗神に生き写しだった。

「え、凄・・・」

 そう呟くと、真悟さんは笑みを浮かべる。

「この見た目で生まれたことの最大の利点は、親父の影武者として親父の命を狙う
 奴らを殺せること。・・・まあ、それ以外は嫌な思い出ばっかりなんだけど」

 物騒な言葉が聞こえた気がするが聞かなかったことにして、俺にもできるように
 なりますかと聞く。

「頑張ればできるようになるんじゃないかな。・・・まあ、神隠しの時のお礼も
 兼ねて俺流で良ければちゃんと教えてあげるよ」

 そう言った真悟さんは元の姿に戻ると、そのまま目と尻尾、そして耳を変化させ
 人間の姿となって俺の頭をポンポンと撫でた。
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