神と従者

彩茸

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第二部

提案

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―――次の日。洗面所で顔を洗っていると、鏡に映った自分の姿が目に入る。
本当に人間には見えないな・・・なんて考えながら、朝食を作りに台所へ。いつも
通りの食事を作り、御鈴と令を起こしに向かう。
朝食を食べながら、いつ夜宮神社に行こうかなんて話をする。

「なるべく早い方が良いじゃろう」

 そう言った御鈴の提案で、朝食を食べ終えるとすぐに家を出た。
 帽子を目深に被り、やってきたバスに乗る。ちらほらと制服を着た学生の姿が
 見られ、大学生の夏休みは長いのだと実感した。
 最寄りのバス停のアナウンスが流れ、降車ボタンを押す。他にも降りる人がいた
 ようで、いそいそと降りる支度をしていた。

「バスが停車してからー・・・」

 運転手がそんなことを言っている間に、バスが止まる。
 降りる人の後ろについて歩き、料金を払ってバスを降りようとした・・・その時。

「えっ、ちょ・・・」

 目の前で、扉が閉まろうとしていた。

「降ります、降りますって!!」

 運転手にそう言うが、こちらを見向きもしない。

「あの、ちょっと!」

 そう言って運転手の肩を叩くと、運転手は驚いた顔で俺を見た。

「え?す、すみません」

 運転手はそう言うと、閉じた扉を再び開ける。
 何なんだと思いながら降りると、背後で運転手の呟きが聞こえた。

「・・・おかしいな、居ないと思ったのに」

 その言葉に、まさかと思う。一昨日の両親の言動、今の運転手の言葉・・・。
 もしかして、なっている?

「蒼汰、大丈夫か?」

「にゃんなんだ、あの運転手」

 御鈴と令がそう言ってムッとした顔をする。

「・・・多分、あの運転手は悪くない」

 俺がそう呟くと、御鈴と令は首を傾げた。



―――長い階段を上り、鳥居をくぐる。境内には由紀と見知らぬ少女が居た。

「あ、蒼汰くん!」

 そう言って嬉しそうに駆け寄ってきた由紀の後ろから、少女がキョトンとした顔で
 近付いてくる。

「由紀ちゃん、そこに誰か・・・」

 そう言いながら少女が俺にぶつかってきた。

「うわっ」

 声を上げると、少女はビクッと肩を震わせて俺を見る。

「いつからそこに?!!」

 驚いた顔でそう言った少女に、俺は苦笑いを浮かべた。

「あー、そっか、そうだよね・・・」

 そう呟いた由紀は複雑そうな顔で俺を見ると、俺の手を取って賽銭箱の前まで
 連れてきた。

「宇迦様、御魂様」

 由紀が宇迦と御魂の名前を呼ぶと、俺達の前に狐姿の宇迦と御魂が現れる。
 宇迦と御魂は少年と少女に姿を変えると、俺の帽子をバッと取った。

「やはりか」

「我らの力では抑えきれなかったの」

 俺の目を見た宇迦と御魂はそう言うと、御鈴を見る。

「もしや、蒼汰が倒れたあの日にはもう・・・?」

 御鈴がそう言うと、宇迦と御魂は頷いた。

「関与せぬと言ったが・・・正確には、関与できぬと言った方が良かったのかも
 しれぬな」

「我らの力で、蒼汰の神の力を無理矢理抑え込んでおったのじゃが・・・蒼汰の
 持つ力の方が強かったのじゃろうな。一時凌ぎにしかならなかった」

 宇迦と御魂はそう言うと、俺を見る。

「後悔はしていないか?」

 声を揃えてそう聞いてきた宇迦と御魂に、俺は微笑んで言った。

「してないです」

 そうかと宇迦と御魂は頷くと、小さく笑う。

「そうじゃ、娘巫女と友人を放っておいてはいけぬの」

 御魂がそう言って由紀を見ると、由紀は半歩下がった所で困惑した表情を浮かべて
 いる少女を宇迦と御魂の前に立たせて言った。

美咲みさきちゃんにね、宇迦様と御魂様を見せてあげようと思って」

 連れて来ちゃいました!と笑顔で言う由紀に、宇迦と御魂は苦笑いを浮かべる。

「まあ我らは構わぬがの」

 そう言いながら宇迦が少女に触れると、少女は宇迦を見て驚いた声を上げた。

「あ、見えた?この神様達が、私がよく言ってる宇迦様と御魂様だよ!」

「わあ・・・本当に神様っているんだね、由紀ちゃん!」

 嬉しそうに笑う少女を見てニッコリと笑った由紀は、俺と御鈴を指さす。

「で、こっちのお兄さんが蒼汰くん。その隣に居る可愛い子が御鈴ちゃん!」

 由紀が俺と御鈴を紹介すると、少女はペコリと頭を下げて言った。

「由紀ちゃんの友達の、山野やまの 美咲です。さっきは驚いちゃってごめんなさい」

「ああいや、大丈夫。俺、神が見える人以外からあんまり認識されなくなってるっ
 ぽいし・・・」

 俺がそう言うと、御鈴と令が驚いた顔をする。

「そんなことがありえるのか?」

 御鈴がそう言うと、御魂が言った。

「以前、狗神が言っておったのじゃが・・・少しでも人間の要素が入っていると、
 認識はされにくくとも誰にでも見えてしまうらしい。あ奴の場合は息子の話
 じゃったが、もしかしたら蒼汰も神に近付くことで認識されにくくなるという
 ことはあるのかもしれぬ」

「人間に変化すれば普通の人間にも見えるようになる、とも言ってましたよね。
 ・・・あれ、じゃあ蒼汰くんも変化すれば認識されにくい問題解決する?」

 由紀がそう言って俺を見るが、変化って言われても・・・と思う。

「そうだ、今日はこの目の色のことで相談に来たんです」

 俺がそう言うと、少女・・・美咲が小さく手を挙げて言った。

「その赤い目、最初からじゃないって事ですか?」

「ああ、突然なったというか・・・。ごめんな、普通の人から見たら気持ち悪い
 だろ」

 俺がそう言うと、美咲はニッコリと笑う。

「いえ、綺麗だと思います!」

 美咲の言葉に驚く。綺麗なんて言われるとは思わなかった。

「・・・美咲ちゃんね、私と同じで普通に妖見える子だから、見た目とか全く気に
 してないんだよ」

 由紀が小声でそう言って優しく笑う。

「そうなのか・・・」

 俺はそう呟くと、宇迦と御魂を見て言った。

「まあ、それでも流石にこの目で学校行く訳にはいかないので・・・どうにかなり
 ませんか?」

「にゃんとか、手伝ってくれないか?」

 令が懇願するような眼で宇迦と御魂を見る。宇迦と御魂は顔を見合わせると、
 困ったような顔で言った。

「やはり、変化するしかあるまい」

「しかし、我らは気付けば変化できるようになっていたからの・・・。ああ、変化と
 いえば適任がおるぞ」

 御魂の言葉に首を傾げる。宇迦と御魂は俺の後ろを指さすと、声を揃えて言った。

「狗神に任せれば良い!」

 それと同時に、ふわりと風が吹いた。
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