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第二部
雨
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―――神事から時は経ち、気付けばあと数日で七月。梅雨明けはまだかと思い
ながら、傘をさして雨の中キャンパスを歩く。
今日の授業は終わり、後は買い物をして帰るだけ。これ以上雨が強くなる前に
帰りたいな・・・なんて考えながら最寄り駅へと向かう。
「・・・っ?!」
突如寒気を感じ、辺りを見回す。目に映るのは歩いている人間だけだが、居るのは
それだけではないのだろう。
俺は誰も通らないような路地裏へ入り、辺りを警戒する。
「隠れてないで出てこいよ」
そう呟くと、背後から声がした。
「隠れてなんかいないさ。お前が気付いていなかっただけだ」
振り向くと、そこに居たのは糸繰で。ニタリと笑った糸繰を、俺は睨みつける。
「・・・何の用だ。主は不在だぞ」
「ああ、それは別に良いんだ。今日は偶然お前を見かけただけだしな」
俺の言葉に糸繰はそう言うと、ああでも・・・とニヤニヤ笑いながら言葉を
続ける。
「蒼汰を殺してしまえば、あの神様も殺しやすくなるか?」
『柏木』
傘をさしたまま柏木を出し、片手でクルリと回す。
体の変質が進むにつれて筋力も上がっているようで、軽く振り回す程度なら
片手だけでもできるようになっていた。
「糸繰、お前は何で俺達を執拗に狙うんだ」
そう問うと、糸繰は懐から手のひらサイズの人形を取り出しながら言った。
「言っただろ?命令なんだ」
「お前が主って呼んでる奴のか。そいつは妖なのか?」
俺がそう聞くと、糸繰は突然真顔になる。それに驚いていると、糸繰は人形に
待ち針を刺しながら淡々と言った。
「オレの主は神だ。妖なんかと一緒にするな」
人形の四肢に針を刺し終えた糸繰は、小さな声で何かを呟く。
その瞬間、手足が上手く動かなくなった。
『汝は蒼汰。その体、我が思うままに操らせよ』
糸繰がそう言うと同時に、手が勝手に柏木と傘を手放す。
・・・その時、やっと気付いた。こいつ、妖術も神通力も呪いなのか。神通力を
使う時の声も普通に聞こえていたから、今まで気付けていなかった。
「これで殺せる」
糸繰はニタリと笑い、敵意を感じさせない歩き方で一歩一歩ゆっくりと近付いて
くる。
「・・・思ったんだが」
糸繰をじっと見ながら口を開く。糸繰は足を止めると、首を傾げた。
「お前さ、最初からそうしていれば俺も俺の主も殺せたんじゃないのか?
・・・もしかして、お前馬鹿なのか?」
これはただの時間稼ぎだ。
この状況をどうにかする方法を考える、ただそれだけのための。
糸繰はどう動くだろうか。そんなことを考えていると、糸繰は小さく笑って
言った。
「さあな。オレは主に必要とされていれば、捨てられなければそれで良いんだよ」
糸繰は俺の前で立ち止まると、俺の首に両手を添える。
体が動かず、抵抗ができない。首がギリギリと絞め付けられていき、息ができなく
なってきた。
「く・・・そ・・・」
火事場の馬鹿力と言わんばかりに体を無理矢理動かし、糸繰の手を掴む。
今死んでしまっては、御鈴を守れなくなってしまう。朦朧とする意識の中そう
思っていると、ふと頭の中に言葉が浮かんできた。
『痛み、を・・・もち、て・・・この、者・・・に、カハッ・・・』
言おうとするが、声が上手く出せない。ああ、もう駄目だ。そう思うと同時に、
俺の視界は暗転した。
・・・消えゆく意識の中、微かに声が聞こえる。
「おや、鬼がこんな所に。何をしているんです?」
ながら、傘をさして雨の中キャンパスを歩く。
今日の授業は終わり、後は買い物をして帰るだけ。これ以上雨が強くなる前に
帰りたいな・・・なんて考えながら最寄り駅へと向かう。
「・・・っ?!」
突如寒気を感じ、辺りを見回す。目に映るのは歩いている人間だけだが、居るのは
それだけではないのだろう。
俺は誰も通らないような路地裏へ入り、辺りを警戒する。
「隠れてないで出てこいよ」
そう呟くと、背後から声がした。
「隠れてなんかいないさ。お前が気付いていなかっただけだ」
振り向くと、そこに居たのは糸繰で。ニタリと笑った糸繰を、俺は睨みつける。
「・・・何の用だ。主は不在だぞ」
「ああ、それは別に良いんだ。今日は偶然お前を見かけただけだしな」
俺の言葉に糸繰はそう言うと、ああでも・・・とニヤニヤ笑いながら言葉を
続ける。
「蒼汰を殺してしまえば、あの神様も殺しやすくなるか?」
『柏木』
傘をさしたまま柏木を出し、片手でクルリと回す。
体の変質が進むにつれて筋力も上がっているようで、軽く振り回す程度なら
片手だけでもできるようになっていた。
「糸繰、お前は何で俺達を執拗に狙うんだ」
そう問うと、糸繰は懐から手のひらサイズの人形を取り出しながら言った。
「言っただろ?命令なんだ」
「お前が主って呼んでる奴のか。そいつは妖なのか?」
俺がそう聞くと、糸繰は突然真顔になる。それに驚いていると、糸繰は人形に
待ち針を刺しながら淡々と言った。
「オレの主は神だ。妖なんかと一緒にするな」
人形の四肢に針を刺し終えた糸繰は、小さな声で何かを呟く。
その瞬間、手足が上手く動かなくなった。
『汝は蒼汰。その体、我が思うままに操らせよ』
糸繰がそう言うと同時に、手が勝手に柏木と傘を手放す。
・・・その時、やっと気付いた。こいつ、妖術も神通力も呪いなのか。神通力を
使う時の声も普通に聞こえていたから、今まで気付けていなかった。
「これで殺せる」
糸繰はニタリと笑い、敵意を感じさせない歩き方で一歩一歩ゆっくりと近付いて
くる。
「・・・思ったんだが」
糸繰をじっと見ながら口を開く。糸繰は足を止めると、首を傾げた。
「お前さ、最初からそうしていれば俺も俺の主も殺せたんじゃないのか?
・・・もしかして、お前馬鹿なのか?」
これはただの時間稼ぎだ。
この状況をどうにかする方法を考える、ただそれだけのための。
糸繰はどう動くだろうか。そんなことを考えていると、糸繰は小さく笑って
言った。
「さあな。オレは主に必要とされていれば、捨てられなければそれで良いんだよ」
糸繰は俺の前で立ち止まると、俺の首に両手を添える。
体が動かず、抵抗ができない。首がギリギリと絞め付けられていき、息ができなく
なってきた。
「く・・・そ・・・」
火事場の馬鹿力と言わんばかりに体を無理矢理動かし、糸繰の手を掴む。
今死んでしまっては、御鈴を守れなくなってしまう。朦朧とする意識の中そう
思っていると、ふと頭の中に言葉が浮かんできた。
『痛み、を・・・もち、て・・・この、者・・・に、カハッ・・・』
言おうとするが、声が上手く出せない。ああ、もう駄目だ。そう思うと同時に、
俺の視界は暗転した。
・・・消えゆく意識の中、微かに声が聞こえる。
「おや、鬼がこんな所に。何をしているんです?」
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