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第二部
体調不良
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―――気付けば春休みが終わり、新学期が始まっていた。
大学生にクラス替えなんてものは存在しないようで、昨年度とは違う教室で始まった
いつも通りの授業を受ける。学校で怪我をすることなんてないだろうが、いつもより
気を張って過ごしていた。
・・・明らかに人間とは違う怪我の回復速度。春休み中にボーっとしていて指を
包丁でザックリ切ってしまったのだが、数分で傷が塞がった。
それを見て、バレたらヤバそうだな・・・なんて考えていたっけな。
「・・・くん、岸戸くん!」
「え、あ、はい?」
休憩時間、窓の外を眺めていると声を掛けられる。声を掛けてきたのはさっきの
授業を担当していた先生で、何の用だろうと首を傾げた。
「さっきの授業からずっと思っていたんだけど、岸戸くん顔色悪いわよ?大丈夫?」
「えっ?」
先生に指摘されるくらい顔色悪いってどんだけだ。そう思いながら、大丈夫ですと
頷く。
「一応、保健室行ってみたら・・・?」
先生があまりにも心配そうな顔をするので、じゃあ一応・・・と立ち上がる。
早歩きで保健室へ向かう。何もなかったら次の授業が始まる前に戻らないと・・・
なんて考えながら扉を開けた。
「どうし・・・えっ、大丈夫?」
保健室の先生が俺の顔を見た瞬間そう言って心配そうな顔をする。
「えっ、俺そんなに顔色悪いですか・・・?」
そう聞くと、うんうんと先生は頷いた。
勧められた椅子に腰掛け、渡された体温計で熱を測る。ピピッと音がして体温計を
見ると、そこに表示されていた数字は予想外のもので。
「38度あるじゃない、帰った方が良いわよ。むしろ帰って!」
先生にそう言われ、はあ・・・と困惑しながら立ち上がる。寒気も何もないし、
いつも通りの体調なんだけどな・・・なんて考えながら、失礼しましたと部屋を
出る。
あまり納得がいかないまま教室に鞄を取りに戻り、そのままこっそりと教室を後に
するのだった。
―――家に帰ると、早かったのと御鈴が嬉しそうな顔で迎えてくれる。だが俺の顔を
見ると途端に心配そうな顔になり、大丈夫か?と聞いてきた。
「何ともないはずなんだけど・・・何か熱あったみたいで、帰らされたんだよ」
俺がそう言うと、令が来て言った。
「にゃんか凄い体調悪そうだしな。安静にしておいた方が良いと思うぞ」
「そうなのかな・・・」
自覚ないんだよなと呟くと、鏡を見てこいと令は言う。
手を洗うついでに洗面所の鏡を見ると、そこに映った俺は明らかに体調の悪そうな
青い顔をしていた。
「うわ・・・」
思わず声が漏れる。そりゃ心配もされるな・・・なんて思いながらリビングへ
向かうと、御鈴が俺の手を引っ張って言った。
「昼食は蒼汰が作り置きしてくれたものを食べたから大丈夫じゃ、夕飯は妾が作る。
だから、寝てくれ」
俺が何か言う前に、御鈴は俺を引きずるようにして俺の部屋へ向かう。
半ば強引にベッドに寝かされ、ポンポンと頭を撫でられる。全く眠くないのだが
取り敢えず目を瞑ると、御鈴が小声で言った。
「蒼汰、お主元々感覚が鈍いタイプか?」
「え?」
何の事だと目を開ける。御鈴は頭を撫でる手を止めることなく言った。
「頭を怪我した時も、今日もじゃが・・・言われてから気付いておったじゃろ?
だから、何となく・・・な」
そうだっけ?と記憶を掘り起こす。そういえば、神通力を使った後の疲労も限界が
近付いてからだったかもしれない。
御鈴と会う前はどうだったか・・・あんまり気にしたことなかったな。
「・・・言われてみれば、そうなのかもな」
そう言うと、御鈴はそうか・・・と呟いた後何も言わずただ頭を撫でてくる。
再び目を瞑るが、全く眠気がやってこない。
「なあ、御鈴」
目を開けて話し掛ける。
「何じゃ?」
御鈴が優しい声で聞いてくる。
「俺も飯食いてえんだけど」
「じゃあ持ってきてやる」
俺の言葉に御鈴はそう言うと、ちょっと待っておれと部屋を出て行く。母親みたい
だな・・・なんて思いながら、俺は天井を眺めていた。
大学生にクラス替えなんてものは存在しないようで、昨年度とは違う教室で始まった
いつも通りの授業を受ける。学校で怪我をすることなんてないだろうが、いつもより
気を張って過ごしていた。
・・・明らかに人間とは違う怪我の回復速度。春休み中にボーっとしていて指を
包丁でザックリ切ってしまったのだが、数分で傷が塞がった。
それを見て、バレたらヤバそうだな・・・なんて考えていたっけな。
「・・・くん、岸戸くん!」
「え、あ、はい?」
休憩時間、窓の外を眺めていると声を掛けられる。声を掛けてきたのはさっきの
授業を担当していた先生で、何の用だろうと首を傾げた。
「さっきの授業からずっと思っていたんだけど、岸戸くん顔色悪いわよ?大丈夫?」
「えっ?」
先生に指摘されるくらい顔色悪いってどんだけだ。そう思いながら、大丈夫ですと
頷く。
「一応、保健室行ってみたら・・・?」
先生があまりにも心配そうな顔をするので、じゃあ一応・・・と立ち上がる。
早歩きで保健室へ向かう。何もなかったら次の授業が始まる前に戻らないと・・・
なんて考えながら扉を開けた。
「どうし・・・えっ、大丈夫?」
保健室の先生が俺の顔を見た瞬間そう言って心配そうな顔をする。
「えっ、俺そんなに顔色悪いですか・・・?」
そう聞くと、うんうんと先生は頷いた。
勧められた椅子に腰掛け、渡された体温計で熱を測る。ピピッと音がして体温計を
見ると、そこに表示されていた数字は予想外のもので。
「38度あるじゃない、帰った方が良いわよ。むしろ帰って!」
先生にそう言われ、はあ・・・と困惑しながら立ち上がる。寒気も何もないし、
いつも通りの体調なんだけどな・・・なんて考えながら、失礼しましたと部屋を
出る。
あまり納得がいかないまま教室に鞄を取りに戻り、そのままこっそりと教室を後に
するのだった。
―――家に帰ると、早かったのと御鈴が嬉しそうな顔で迎えてくれる。だが俺の顔を
見ると途端に心配そうな顔になり、大丈夫か?と聞いてきた。
「何ともないはずなんだけど・・・何か熱あったみたいで、帰らされたんだよ」
俺がそう言うと、令が来て言った。
「にゃんか凄い体調悪そうだしな。安静にしておいた方が良いと思うぞ」
「そうなのかな・・・」
自覚ないんだよなと呟くと、鏡を見てこいと令は言う。
手を洗うついでに洗面所の鏡を見ると、そこに映った俺は明らかに体調の悪そうな
青い顔をしていた。
「うわ・・・」
思わず声が漏れる。そりゃ心配もされるな・・・なんて思いながらリビングへ
向かうと、御鈴が俺の手を引っ張って言った。
「昼食は蒼汰が作り置きしてくれたものを食べたから大丈夫じゃ、夕飯は妾が作る。
だから、寝てくれ」
俺が何か言う前に、御鈴は俺を引きずるようにして俺の部屋へ向かう。
半ば強引にベッドに寝かされ、ポンポンと頭を撫でられる。全く眠くないのだが
取り敢えず目を瞑ると、御鈴が小声で言った。
「蒼汰、お主元々感覚が鈍いタイプか?」
「え?」
何の事だと目を開ける。御鈴は頭を撫でる手を止めることなく言った。
「頭を怪我した時も、今日もじゃが・・・言われてから気付いておったじゃろ?
だから、何となく・・・な」
そうだっけ?と記憶を掘り起こす。そういえば、神通力を使った後の疲労も限界が
近付いてからだったかもしれない。
御鈴と会う前はどうだったか・・・あんまり気にしたことなかったな。
「・・・言われてみれば、そうなのかもな」
そう言うと、御鈴はそうか・・・と呟いた後何も言わずただ頭を撫でてくる。
再び目を瞑るが、全く眠気がやってこない。
「なあ、御鈴」
目を開けて話し掛ける。
「何じゃ?」
御鈴が優しい声で聞いてくる。
「俺も飯食いてえんだけど」
「じゃあ持ってきてやる」
俺の言葉に御鈴はそう言うと、ちょっと待っておれと部屋を出て行く。母親みたい
だな・・・なんて思いながら、俺は天井を眺めていた。
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