神と従者

彩茸

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第二部

ニオイ

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―――目を覚ますと、目の前に利斧の顔があった。

「うわっ?!」

 驚いて、飛び起きる。利斧は俺の頭を避けると、笑みを浮かべて言った。

「おはようございます、体調はどうですか?」

「え、あ・・・大丈夫、です」

 キョロキョロと辺りを見回すと、俺の部屋だと気付く。利斧が運んでくれたのかな
 なんて考えていると、部屋の扉が開いた。

「良かった、起きたか」

 部屋に入ってきた御鈴が、そう言って安心したような顔をする。御鈴の肩の上に
 乗っている令も安心したような顔をしており、御鈴が俺に近付くと肩から飛び
 降りて俺の手に頭を擦り寄せた。

「・・・にゃんだろうな。蒼汰のニオイが短期間でどんどん変わっていって、変な
 感じがするよ」

「ニオイも変わるもんなのか?」

 令の言葉にそう聞くと、令はコクリと頷く。
 御鈴と令の頭を撫でていると、令がボソリと言った。

「・・・初めて会った日は、お前の人間特有のニオイに御鈴様のニオイが少し
 混ざった感じだったんだ。でも、今の蒼汰はその時よりも人間のニオイが
 薄くなってる。言ってしまえば人間に分類されている神みたいな」

「それって何か、《どっちつかず》みたいだな」

 あれは妖にも分類されている神だけどと俺が言うと、利斧が驚いたような顔を
 する。首を傾げると、利斧は言った。

「《どっちつかず》の事、ご存じだったんですね」

「ああ、はい。何度かお世話になっている《どっちつかず》の神がいるので」

 俺の言葉に、ほう?と利斧は興味深そうな顔をする。

「利斧も《どっちつかず》の知り合いがいるのか?」

 御鈴が聞くと、利斧は少し悩む様子を見せながら頷いて言った。

「正確には、《どっちつかず》ですがね。彼、妖に堕ちていますし」

「えっと・・・?」

 堕ちるって何の事だと思っていると、利斧は察したのか俺にも分かるように優しく
 説明してくれる。
 どうやら《どっちつかず》の神というのは中途半端な存在であり、神になるか妖に
 なるかを選ぶことができるらしい。その際、神になることを昇華、妖になることを
 堕ちると表現するんだそうだ。
 ついでにと、神が消滅する条件についても教えてもらった。条件の一つに信者の
 全滅があるのだが、御鈴や利斧のように妖または人間の一方に信仰されている神と
 違い、両方からの信仰がある《どっちつかず》の神はどちらかの信仰が無くなれば
 消滅する・・・らしい。

「あれ、じゃあ狗神って・・・」

 俺が呟くと、御鈴は頷いて言った。

「かなり危ない橋を渡っている神、じゃな」

「未だ《どっちつかず》として存在できている神は相当珍しいですよ。私も会って
 みたいものです」

 そう言った利斧の目は、何処かキラキラとしていた。
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