神と従者

彩茸

文字の大きさ
上 下
30 / 159
第一部

武神

しおりを挟む
―――神隠しから少し経ち、気付けば春休みに入っていた。襲撃などもなく、たまに
静也さんに稽古をつけてもらったりして平和な日々を過ごす。
家でのんびりとしていたある日の昼下がり、令と猫じゃらしで遊んでいると、俺に
寄り掛かり難しそうな本を読んでいた御鈴が言った。

「蒼汰、《武神ぶしん》って知っておるか?」

「え、何それ」

 首を傾げると、御鈴は本を見せてくる。
 令と一緒に覗き込むと、そこには《武神》についての記述があった。

 《武神とは武器への畏怖、信仰によって武器の名を冠して生まれる戦闘特化の神
  である。武神の仕事は神事だけでなく、穢れに飲まれた神の処罰も担っている
  という。》

「にゃんか強いんだなっていうのは分かった」

 文章を全て読んだらしい令はそう言って御鈴の肩に飛び乗る。

「穢れ・・・って何だ?神って穢れるのか?」

 長い文章を最後まで読む気にならず途中で御鈴に聞くと、御鈴は首を傾げる。

「さあの、この本は信者がくれた物じゃ。妾の知らないことも書いてある」

 ああでもと御鈴は付け加えるように言った。

「《武神》である奴は知っておる。一柱だけじゃがな」

「御鈴、あの三柱以外に神の知り合いっていたんだな」

 俺の言葉に、御鈴はおるわそれくらいと頬を膨らませた。



―――《武神》についての話はそこで終わってしまったのだが、それから数日後の
こと。俺は御鈴と出掛けた先で、《武神》に出くわした。

「おや、御鈴じゃないですか」

 ピクニックがしたいと言う御鈴と一緒に山を登っていると、そんな声が聞こえた。
 声の主を探していると、近くに生えていた木の上から眼鏡を掛けたかなり身長の
 高い男性が現れる。
 ブラーンと逆さにぶら下がったまま御鈴を見たその若い男性に、御鈴は嬉しそうな
 顔をして言った。

利斧りふ!お主、この辺りに来ておったんじゃな」

 利斧と呼ばれた男性は、木から飛び降りる。

「ええ、暇だったので。・・・そちらの人間と妖は?」

 俺と令を見た利斧に、御鈴は俺達を紹介する。
 利斧は俺が従者だと知ると驚いたような顔をするが、すぐに微笑んで言った。

「初めまして、利斧と申します。以後お見知りおきを」

「蒼汰、こ奴がこの前言った知り合いの《武神》じゃ!」

 どうもと頭を下げる。令は利斧のニオイを嗅ぐと、俺の肩に飛び乗って囁くように
 言った。

「・・・こいつ、御鈴様と比べ物にならないくらい強いぞ」

 絶対敵に回しちゃいけない奴だ。そう言った令の声は何処か震えていた。

「そうじゃ、今からピクニックをするんじゃ。利斧も来ぬか?」

 御鈴がピョンピョンと飛び跳ねながら言う。
 利斧は頷くと、笑みを浮かべて言った。

「良いですよ、丁度暇だったので」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...