神と従者

彩茸

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第一部

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―――降り立った駅のホームには、駅名を示すものが何もなかった。
ぽつんと立っている街灯だけでは駅を見渡すことができず、ライトを点けようと
携帯を取り出す。

「あれ・・・?」

 携帯の電源は切れており、電源ボタンをいくら押しても電源が入る様子はない。
 大学で見た時はしっかりと充電が残っていたはず。どうして・・・と思いながら、
 真悟さんを見る。

「・・・もしかして、蒼汰くんも携帯の電源入らない?」

 真悟さんも携帯を持ちながら、困ったような顔で俺を見た。頷くと、真悟さんは
 小さく溜息を吐く。

「しょうがない、灯りはで代用しよう」

 そう言った真悟さんの頭から犬耳がぴょこりと生える。
 それと同時に、俺と真悟さんの周りに青い炎が漂い始めた。
 驚いて固まっている俺に、真悟さんは苦笑いを浮かべる。そして、漂う青い炎の
 一つを指さしながら言った。

「俺、半妖だからさ。妖術が使えるんだ」

「半妖・・・?あ、狗神さん神ですけど妖にも分類されていますもんね」

 俺がそう言うと、真悟さんは思ってるのとちょっと違うかもと笑う。

「蒼汰くんの言う通り、親父は妖にも分類されている神だけど・・・俺のお袋、
 人間なんだ。まあお袋は妖に憑りつかれていたから、半分妖と言っても過言
 ではないんだけどね。・・・だから俺は、半分妖、四分の一は人間、残りの
 四分の一は神、みたいな」

 複雑でごめんね。そう言って苦笑いを浮かべた真悟さんに、大丈夫ですと頷く。

「妖術使うと犬耳生えるんですね」

「耳の変化って、結構面倒でさ。妖術使う時は変化解いてるんだ」

 俺の言葉に真悟さんはそう言って、犬耳をぴょこぴょこと動かした。



―――青い炎でぼんやりと明るくなった駅のホームを探索する。辺りには人の気配
どころか妖の気配すらなく、静かすぎるホームに若干の恐怖心を抱きながら探索を
続けていた。

「・・・凄く静かですね」

 そう真悟さんに話し掛けてみる。真悟さんは頷くと、改札の向こうに見える駅舎を
 指さして言った。

「多分俺達は今、に遭ってるんだと思う。あそこから神のニオイがするんだ」

「神のニオイとか分かるものなんですね・・・」

「俺、鼻が良いんだ」

 俺の言葉に真悟さんはそう言うと、行ってみようと歩き出す。この人は怖くないの
 かななんて思いながら、後ろを付いて歩く。
 改札は機能していないようで、俺達が通ってもうんともすんとも言わなかった。

「誰か居ますかー・・・」

 そう言いながら、駅舎に入る。ふと感じた気配の方を見ると、駅員室と書かれた
 プレートの付いているドアが少しだけ開いていた。

「こっち・・・ですかね?」

 真悟さんにドアを指さしながら聞くと、そうだろうねと真悟さんは頷く。

「神隠しの原因である神を叩けば、多分この空間から出られるんだろうけど・・・。
 ちょっと、蒼汰くんに頼らなきゃいけないかも」

 真悟さんの言葉に首を傾げるも、真悟さんはそれ以上何も言わず無言でドアを
 開けた。
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