神と従者

彩茸

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第一部

電車

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―――数日後の朝。日課の朝のランニングから帰り、御鈴と令を起こして朝食を
作る。学校へ行く支度をして、家を出る。
電車に乗って、一時間半。いつも通りの時間だなと、のんびりキャンパスを歩く。
今日の講義は午前だけ、早く帰って御鈴と一緒に昼飯を作ろう。そんなことを考え
ながら、講義のある教室へ向かう。

「おはようございます。今日の講義は・・・・・・」

 いつも通りの先生の、いつも通りの授業。教室の隅でノートを取る。
 仲の良い友達同士で固まっているこの教室内で俺は完全に浮いているのだが、
 友達の作り方なんて分からずここまで来た。数少ない友達とは、どうやって
 出会ったんだったか。はぐれ者同士作らされた班で仲良くなった気がしなくも
 ない。
 もうすぐ二年生、もしかしたらこのまま同じように残り三年間を過ごすのかも
 しれない。そんなことを考えつつ、ペンを走らせる。

「このことから、この理論は・・・」

 プロジェクターと黒板を駆使して授業を進める先生に、先生そこの漢字間違って
 ますよーなんて心の中で言ってみる。
 誰も指摘しない中進んでいく授業。気付けば、終了のチャイムが鳴っていた。

「昼からカラオケ行こうぜー」

「ねえねえ、さっきのノートちょっと見せて!」

「新作のケーキがさあ」

 そんな声が飛び交う休憩時間。ふと、窓の外に目を向ける。
 御鈴の従者になり妖が見えるようになってから、空を飛ぶ妖をよく見かけるように
 なった。小さいものから人間大のものまで、様々な大きさの妖達が悠々と翼を広げ
 空を飛んでいる。
 御鈴も宙に浮けていたし、俺も空を飛んだりできねえかなあ・・・。そんなことを
 考えながら、チャイムが鳴るまで空を眺めていた。



―――授業が終わり、帰路に就く。電車に揺られ昼飯のことを考えていると、声を
掛けられた。
顔を向けるとそこには真悟さんが立っており、俺を見て優しい笑みを浮かべる。

「隣、良いかな」

「あ、どうぞ」

 昼間だからか空いている車内で、真悟さんは俺の隣に座る。
 何か用事だろうか?そう思っていると、真悟さんは周りに聞こえないような小さな
 声で言った。

「・・・模擬戦、どうだった?親父が、怪我してないかってずっと心配してたんだ」

「静也さん、凄く強かったですけど・・・思いっ切り手加減してくれたみたいで。
 怪我とかもせず、優しく教えてくれましたよ」

 体力尽きかけましたけど。同じく小さな声でそう言って苦笑いを浮かべると、
 真悟さんは良かったと言って笑う。

「そういえばこの電車、神社方面とは違う方に進みますけど・・・何処かにお出掛け
 ですか?」

 俺が聞くと、真悟さんは頷く。

「神社の方は妻と息子に留守を頼んでいてね、俺は野暮用ついでに休暇を貰って
 いるんだ」

「そうだったんですね」

 そこで会話は止まり、静かな時間が流れる。
 少しして、ふと気付いた。・・・この電車、
 ハッとして、周りを見る。車両には俺と真悟さんしかおらず、外の景色も見た
 ことがあるようでないようなものへと変わっていた。

「あ、あのっ!」

 慌てて真悟さんを見ると、真悟さんも異変に気が付いていたらしい。
 ずっと穏やかな表情を浮かべていた真悟さんが、険しい顔をしていた。
 どうなっているんだ。そう思っている間にも、電車はどんどん進んでいく。

「次はー・・・・・・」

 車内アナウンスが聞こえる。しかし、駅名を言わない。

「・・・蒼汰くん、次の駅で降りよう」

「はい」

 真悟さんと共に立ち上がり、降車口の方へ。
 昼のはずなのに夜のように真っ暗になってしまった景色を眺めながら、心の中で
 自然と御鈴の名を呼んでいた。
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