神と従者

彩茸

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第一部

命令

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―――夕飯のカレーを食べていると、御鈴が話し掛けてくる。顔を上げると、御鈴は
嬉しそうな顔で言った。

「あのな蒼汰、信者が増えたぞ!!」

 御鈴の言葉に、思わずスプーンを落としそうになる。
 もしやと思いテーブルの下を見ると、鶏のささみを食べていた令と目が合った。

「・・・信者?」

「に、なった」

 俺の言葉に令はそう言うと、空になった皿を咥えてテーブルの下から出てくる。

「信仰しておる神は別にいないと言っておったからの、妾が信者になるよう言った
 のじゃ!」

「ボク、御鈴様のニオイ嫌いじゃないし。下についてやっても良いかなって」

 御鈴の言葉に令はそう言って、皿を咥えたままテーブルの上に跳び上がる。
 そして俺の前に皿を置くと、ちょこんと座って言った。

「・・・お前のこと、下僕って呼んだら御鈴様が怒るから。別の呼び方考えろ」

「えー・・・じゃあ、蒼汰で」

 俺が言うと、御鈴様と同じ呼び方で良いのか?と令は首を傾げる。別に良いだろと
 御鈴を見ると、御鈴はコクコクと頷いた。

「分かった。・・・じゃあ蒼汰、おかわり」

「おか・・・ああ、うん。ちょっと待ってろ」

 椅子を引き、立ち上がる。その時、ゾワリと寒気がした。
 反射的に窓の外を見る。そこに居たものを見て、思わず息を呑んだ。

「そ、蒼汰・・・」

 御鈴が不安そうな顔で言う。令が窓の外に向かって威嚇する。
 ・・・窓の外からこちらを見る宙に浮いた真っ白な仮面が、窓を割ろうと何度も
 窓にぶつかっていた。
 俺は急いで部屋に戻り、立てかけてあった棒を手に取る。走ってリビングへ戻ると
 同時に、窓が割れる音が響く。

「アアアアア・・・」

 混乱する頭で状況を把握しようとしていると、仮面が不気味な声を上げながら家の
 中に入ってきた。
 仮面に向けて、棒を振る。それをフワリと避けた仮面は、御鈴に襲い掛かった。
 咄嗟に棒を突き出し、仮面を壁に叩きつける。

「ア、アアア・・・」

 不気味な声を上げながら、再び仮面が宙に浮く。
 今度は床に叩きつけようかと考えていると、仮面が俺に向かって飛んできた。

「うわっ?!」

 咄嗟に棒で受け止める。
 そのまま棒を横へ振ると、仮面は再び壁に叩きつけられた。
 先程と同じように宙に浮く仮面に、どうしようかと考える。

「御鈴、これどうやったら倒せるんだ?」

 しつこく襲い掛かってくる仮面を避けながら聞くと、御鈴は言った。

「割れば良い!むしろ割らねば倒せぬぞ!」

 壁に叩きつけても割れない仮面をどうやって割れと?そう思っていると、令が
 言った。

「蒼汰、もっと叩け!」

 もっと・・・?今でもかなり力を入れているんだが。
 襲い掛かってきた仮面をどうにか受け流し、仮面が振り向いた瞬間に思いっ切り
 棒を振り下ろす。
 ガンッという音がして仮面は地面に叩きつけられたのだが、ヒビが入っている
 様子はない。
 無理だろこれと思った瞬間、仮面が御鈴に向かって飛んだ。

「御鈴!!」

 叫んで、棒を突き出す。・・・駄目だ、届かない。令も御鈴を守るように飛び出す
 が、仮面の方が早い。
 どうしよう、守れない。御鈴がやられてしまう。・・・そう、思った時だった。

「殺せ、蒼汰!!!!」

 力強く、御鈴が叫ぶ。すると、俺の体が勝手に動いた。
 自分のものではないような感覚の体で跳躍し、棒を振り上げる。この距離なら
 当たると、直感的に思う。
 仮面に向かって棒を振り下ろす瞬間、口から勝手に言葉が零れた。

「・・・仰せのままに」

 棒が仮面に当たると同時に、ガシャン!!と音がする。着地し、ハッとして仮面を
 見る。
 仮面は綺麗に半分に割れており、それを見た御鈴がおお・・・と声を漏らした。

「蒼汰お前、今・・・」

 令が目を見開いて俺を見る。俺が首を傾げると、令は俺の足元に擦り寄りながら
 言った。

「あんな跳躍、人間には無理だぞ?どういう絡繰りなんだ」

「そんなこと言われても・・・」

 何だったんだあの感じと思っていると、御鈴が割れた仮面をつつきながら言った。

「すまんの、してしもうた」

「命令って?」

 俺が聞くと、御鈴は申し訳なさそうな顔をして言った。

「そのままの意味じゃよ。妾が命令をすれば、従者であるお主は無理にでも従わねば
 ならぬ。・・・特に契約に直結する命令は、従者の体がどうなろうと遂行が優先
 されるんじゃ」

「御鈴様、命令で蒼汰を好きに動かせるなら、いっつも命令すれば良いんじゃない
 のか?」

 令がそう言って御鈴の肩に飛び乗る。御鈴は令の頭を撫でながら、首を小さく横に
 振って言った。

「嫌じゃ。・・・妾は、蒼汰を大切にしたいからな」

 御鈴の言葉に何だか恥ずかしくなりながら、カレーの残りを食べようと足を踏み
 出す。

「あ・・・れ・・・」

 突如目の前が暗くなり、全身の力が抜ける。床に倒れ、起き上がろうとするも力が
 入らない。

「蒼汰?!」

 御鈴と令の驚いた声が聞こえる。
 ・・・薄れゆく意識の中、胸の辺りが少し温かくなっていることに気が付いた。
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