神と従者

彩茸

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第一部

異能力

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―――昼食時に、双子の両親にも事の発端やらその後に見えるようになったものやら
を説明する。普通なら馬鹿にされるような話だが、皆真剣に聞いてくれた。
昼食を食べ終わり、満足げな様子の御鈴が俺の膝の上で睡眠を取ろうとしていると、
楓華が言った。

「蒼汰が見えているのは、間違いなく妖だと思う。その子が神様っていうのも気配で
 分かる。・・・神様については、私達よりも詳しい人がいるから紹介してあげる」

「ああ、ありがとう」

「気になったんだけどさ。守るって、何から守るんだ?妖じゃないから、祓い屋に
 襲われることもないだろうし・・・そもそも神様を襲う敵って何だ?」

 圭梧がそう言って御鈴の頬をつつく。御鈴はムスッとした顔をすると、圭梧の手を
 ペシッと叩きながら言った。

「妾は、妖の神なんじゃが・・・妾の信者でない者の中にはの、妾を鬱陶しく思い、
 消そうとする輩がいるんじゃ」

「ってことは、俺は妖からお前を守れば良いのか?」

 俺が聞くと、御鈴はそれだけではないと首を横に振る。

「妾の敵は、神もじゃ。妾は生まれてからそんなに経っていないからの、力を付ける
 前に消してしまおうと神が襲ってくることもあるんじゃ。・・・まあ、神は信者の
 取り合いが発生することもある。早いうちに芽は摘んでおきたいのじゃろう」

 そう言った御鈴の顔は何処か不安そうで。放っておけなくて、俺は言った。

「ちゃんと守ってやるよ。契約もあるしな」

「言うたな?本当に守ってくれるんじゃな?」

 御鈴がそう言って俺を見る。俺が頷くと、御鈴は嬉しそうに抱き着いてきた。
 御鈴の頭を撫でていると、洗い物を終えた晴樹さんと優花さんが戻ってくる。
 楓華と圭梧は晴樹さんと優花さんを見て、同時に言った。

「蒼汰、由紀ゆきの所に連れて行って良い?」

 由紀って誰だと思っていると、晴樹さんは言った。

「由紀ちゃん帰省してるかな・・・。ちょっと電話して聞いてみるよ」

 その場で携帯を取り出し電話を掛ける晴樹さん。電話の内容を聞いていると、
 どうやら相手は晴樹さんのお兄さんらしい。

「帰ってるって。・・・蒼汰くん、これから時間ある?」

「あります、むしろ暇です」

 晴樹さんの言葉にはっきりと答えると、そっかと苦笑いを浮かべられた。

「電車で行くと遠いし・・・運んでもらう?」

 優花さんがそう言って晴樹さんを見る。そうしようかと晴樹さんが言った瞬間、
 扉が勢いよく開かれる音がした。

「こんにちは!お邪魔してます!!」

 家の中から聞こえた少女の声に、山霧家の面々は驚いた顔をする。
 他にも家族がいたのか?と思いつつ慌てて立ち上がった双子の後ろを付いて行く。
 ・・・家の奥にある部屋の扉は開け放たれており、その前に高校生くらいの少女が
 嬉しそうな顔で立っていた。

「由紀!!」

 楓華と圭梧が声を揃えて言う。この子が由紀かなんて思っていると、ふと扉の先が
 目に入った。

「えっ・・・?!」

 思わず声を上げる。扉の先には家の中とは思えない・・・いや、むしろ外の景色が
 広がっていた。
 硬直している俺の袖を、御鈴が引っ張る。

「おーい、蒼汰ー?」

 御鈴の声でハッと我に返った俺は、嬉しそうな顔で話をする由紀と双子を見る。

「あ、蒼汰。この子がさっき言った私達よりも神様に詳しい人」

「この子は従妹いとこの由紀。あ、由紀、あいつは俺達の友達の蒼汰な」

 楓華と圭梧の言葉に、俺はどうもと会釈する。

「由紀ちゃん、玄関によ・・・」

 晴樹さんが呆れたような顔をしながらやってくる。

「つな・・・え??」

 俺が困惑していると、いらっしゃいと言いながらやってきた優花さんが俺を見て
 言った。

「異能力って知ってる?」

 いや、そんなもの知っている訳がない。俺が首を傾げると、優花さんは懇切丁寧に
 説明をしてくれた。
 ・・・どうやら、この世には異能力と呼ばれるトンデモ能力があるらしい。超能力
 やら魔法やら・・・全てひっくるめて異能力と呼ばれているそうだ。異能力を持つ
 人間を異能力者と呼び、その能力は遺伝しないんだとか。ただまあ、一般の家庭
 から異能力者が生まれたり、生まれやすい家系だったり、みたいなことはあるよう
 だが。
 説明を聞き終えた感想としては、へえそうなんだーという感じだった。
 実際目の前で不可思議な現象が起きているし、嘘ではないということは分かる。
 ただ俺にそんな能力は無いため、凄いな程度で終わってしまった。
 由紀も異能力者なんだなあと思っていると、扉の先から女性の声がする。

「ちょっと由紀!扉開けっぱなしにしない!!」

「あ、お母さん」

 由紀の言葉に扉の先を見ると、白衣はくえに袴の由紀に似た美人な女性が顔を覗かせて
 いた。

「あ、彩音あやねさんだ」

 晴樹さんがそう言って小さく手を振る。女性・・・彩音さんも小さく手を振り返す
 と、山霧家の景色を見て深い溜息を吐いた。

「由紀・・・何で玄関に繋がないの・・・」

「えへへ、ごめんなさ~い」

 彩音さんの言葉に反省している様子もなさげに由紀は笑う。

「由紀の能力、扉と扉を繋げられるんだ」

 圭梧がそう言って俺を見る。そうなのかと頷くと、由紀は俺を見て言った。

「そうだ、ちゃんと自己紹介してなかったね!私は神宮かみや 由紀、由紀って呼んで!
 えっと・・・」

「岸戸 蒼汰だ、蒼汰で良いぞ」

「蒼汰くん!よろしく!!」

 ニッコリと笑う彼女に、俺も笑みを向ける。すると、由紀は御鈴を見て言った。

「こんにちは、可愛いね!」

「かわっ?!・・・そっ、そうじゃろう、妾は可愛いじゃろう!!」

 可愛いという言葉に動揺した様子の御鈴は、そう言ってえっへんと胸を張る。
 由紀に頭を撫でられてご満悦な様子の御鈴が、ふと扉の先を見た。

「・・・何じゃこの気配。そこには神が三柱も居るのか?」

 御鈴の言葉に、俺達も扉の先を見る。
 すると、巫女装束の少年と少女がひょっこりと顔を覗かせた。御鈴と同じく幼い
 容姿の彼らは、御鈴をじっと見る。

「のう御魂みたま、あ奴神じゃな」

 そう言って少年は少女を見る。

「そうじゃな。宇迦うか、あの人間も我らが見えておるようじゃぞ?」

 少女・・・御魂が、そう言って少年・・・宇迦を見る。
 御鈴が警戒するように俺の後ろに隠れると、宇迦が言った。

「そこの神、名は何という?」

「・・・御鈴じゃ」

 御鈴が答えると、御魂が言った。

「我らと遊ばぬか?」

 御鈴は驚いた顔をして、俺の後ろから出てくる。

「遊んでくれるのか?!」

 嬉しそうな声で御鈴が言うと、宇迦と御魂は頷いた。
 御鈴は嬉しそうな顔で扉へ向かって走ると、繋がった先の外へ出る。
 そのまま遊び始めた彼女達を見ていると、楓華が言った。

「・・・見えてるでしょ、宇迦さんと御魂さん」

「え?ああ、見えてるけど・・・」

 何だいきなりと思って首を傾げると、楓華は小さく笑って言った。

「あれ、神様だよ」

「はあ?!」

 思わず大きな声が出る。声を上げて笑い出した楓華と圭梧にムスッとしていると、
 彩音さんが言った。

「あなたも見えるのね。・・・晴樹くんが言ってた用事って、もしかしてこの子と
 関係あるの?」

 晴樹さんは頷くと、こっち来てと手招きする。
 扉をくぐりこちらに来た彩音さんに、俺はもう一度事情を説明するのだった。
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